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【のろまの矜持#16】双子のどっち?

※ナツミ視点です。

結局、あれから……

僕は莉音くんの家にいる。詩音くんの家でもあるけど。あのログハウスみたいなかわいいお家でお世話になることにしたのだ。

『俺は怒ってへんぞ』
最悪な場所で再会した加賀美さん。あの人のあんな動揺した顔、傷ついた顔は見たことがなかった。心がじくじくと痛む。僕に言えたことではないけれど……。

加賀美さんはどうしてるかな、と心の隅で考えるのを辞められないまま数日が経っている。

……いや嘘だ。本当は新一さんどうしてるかな、と心の中で呼びかけている。もう戻れないところまで来てからこんな風に思うなんてどうかしている。

「ナツミちゃん!カフェオレ入れたよ」

ひょこ、と声をかけてきた莉音くんにハッとした。はあいと返事した。

僕はリビングの出窓から、ただ遠くを見ていることが多かった。

 

 

莉音くんはまるで理想的な恋人だった。

優しいしかっこいいし気が利くし、僕を丁寧に扱う。職場が一緒で家が一緒なのにまるで息苦しくない。加賀美さんと一緒にいた時に感じる圧とは大違いだった。

僕をリビングのテーブルに座らせて、コーヒーでもパンケーキでも何でも作って出してくれる。僕のためと言って、その器用な指先を今日もせっせと働かせてくれている。

キッチンでなんか料理して俯いている時。金髪混じりの長めの前髪がサラ……と一房おりて、その端正な顔立ちに色気を添えている時がある。

そんな時に思わずじっと見てしまうのだけれど、莉音くんは僕の視線に大概気づく。
ふと目線を上げて僕に悪戯っぽく微笑む。

ほんと、なんて色気ある人なんだろうとどこか僕は他人事のように思っている。

なぜだろう?

彼が『完璧な恋人』ではないと知っているからだろうか……。

◼️◼️◼️

「ナツミくん、洗うの手伝うよ」

食後、僕が皿を洗っていた時。詩音くんの方がくっついてきた。詩音くんは別の家事で今2階にいた。

「ねー、莉音は辞めて俺にしない?」
「またその話……」

ガチャガチャと皿を洗う手を速めた。

「前の男から奪った後は、次は双子同士の殴り合いのバトルがあるってもんで……っていうかさ、あの時の加賀美サンの顔」
「や、やめて!」
「!」

ザパ!と水飛沫が飛んだ。

「や、やめて……ください……良いんです、もう忘れましょう」

僕が一番忘れていなかったけれど、双子に加賀美さんのことを話題に出されるのは耐えかねた。

あの日のことは全部忘れるべきなんだ。

ふぅんとつまらなそうなため息を吐いた詩音くんだった。

皿洗いは続いた。

「……じゃあさあ、提案なんだけどさ。俺と莉音は顔と身長と声、全部同じじゃん。莉音と間違えたことにすれば良いんじゃない?」
「それは雑すぎでは……」

「いやマジマジ。莉音がふたりいると思ってさ、空いてる方の胸に飛び込んでくるっていうのどう!?」
「どう!ってもう……」

思わず苦笑してしまう。押しの強さは双子共通だった。

「良いな〜莉音は1人抜け駆けてさ。恋人ができて羨ましいね本当」

忌々しく宙を一瞬詩音くん。その横顔は莉音くんと同じだった。

「あ、いや、僕は莉音くんと付き合っている訳ではいないので……」
「莉音は付き合ってる〜ってあんなに俺に惚気てくるのに?」
「う……」
「ベッド一緒で寝てんのに?君ら」
「……」

恥ずかしくって手を止めた。

「ひとり寂しく寝ないといけない俺の気持ちを考えて欲しいよなあ。君ら『お楽しみ』で何よりだねホント」

僕はそっと顔を背けた。頬が熱い。キュ、と水道を止めて手を拭いた。やけに水が冷たく感じた。

俯いていじいじとエプロンの裾を掴む。

「……あの、や、やましいことは別になにも……」
「声聞こえてるよ」
「!」

顔を上げて、なじろうとした。なんて無神経なこと言うんですかと。

そしたら僕が怒るより先に間合いをつめた詩音くんは僕にキスをした。

僕を抱きしめて頭を抑えるから逃げられなかった。その力強さは莉音くんにはないものだった。

「……〜〜!」

やっと体を押し離した詩音くんは、僕の腰をしっかり抱いたまま。

眉を下げてさみしそうに言われてドキッとした。

「出し抜かれちゃったなあ俺……俺の方が絶対君のこと好きなんだけどな。ねえ俺の部屋来ない?来てよ。君のことなら体張って何からでも守るから」

「そん、な……」

「好きな人に振られてしまって俺は寂しい」

「振るって……そんな、あー、僕はただ……」

莉音くんが僕の手を先に掴んだだけであり、詩音くんがダメだから振るとかそういう訳じゃないのと、そもそもそんな選びまくる権利など僕にはなくて……。

「莉音とは付き合って俺とは付き合わないんでしょ?じゃあ振られてるじゃん?何が違うんだろ、双子なのに。ねえ」

そのまま壁際に押しやられ、詩音くんは僕の両側の壁に手をついた。すっと伸びた逞しい両腕だった。

「俺は君のこと心配してるんだよ。莉音は気に入らないと軽く相手をぶったりすることあるから……ナツミくんが莉音にほんとは何か酷い目に遭わされてないか?ってね。

俺は恋人にはそんなことしたことないからさ」

真っ直ぐ見つめられて言われて心底ドキッとした。

双子はやっぱり通じ合うものがあって、お互いのことが何でも分かるんだろうか?

「図星?」
「……」

その時、タンタンと階段を降りてくる足音が聞こえて僕はするりと詩音くんの元から離れた。

『ナツミ』と階段下から声が優しく聞こえて、僕ははあいと返事する。

その声は確かに優しいはずなのに、なぜか逃れようのない圧がある。僕は自分がどこか飼われていると感じていた。

 

 

 

続く

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