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【のろまの矜持#14】再会

※加賀美視点です。視点が切り替わってばかりで申し訳ないです。

「何でお前に協力なんかしなきゃいけないんだよ!」

俺は心底ブチギレながら車をかっ飛ばしていた。

その助手席には詩音。それは双子らの車だった。

「仕方ないだろ。お前のキックで腕痛めてんだから。こんなんで運転出来ねえよ。さっさと運転しな」

「俺だって頭痛えわ……!」

詩音も詩音でイラついた風貌でそっぽを向く。俺は本当にコイツがいけ好かない。

「ナツミちゃんが無事なら良いけどねえ……」
「黙れよ!!」

俺は力任せにダッシュボードをぶん殴った、車は一瞬だけ右方向に大きく揺れた。

 

詩音が言うには、兄の莉音がナツミをホテルに連れ込んでるらしい。

抜け駆けが面白くない詩音は、俺に提案してきたのだ。そこに2人で割り込まないか?と。

コイツらの話なんてどこまで本当で何が嘘かなんてわかりゃしない。そんな話に乗りたくないが、かといって俺はナツミと直接連絡を取ることができないのだ。

『証拠あるんかてめえ!』

コイツらの家で床に叩きのめされた時、俺はそう吠えた。

ブチギレた俺に詩音はスッと差し出した。ナツミが俺の知らないホテルにいる写真を……。

俺はリアルに血の気が引いていくのを感じた。本当に手指が冷たくなる感覚がした。

『兄貴が記念にこそっと撮ったんだってさ。かわいいね〜とか何とか……お先、て煽られたら俺だって面白くないだろ』

ナツミが来ていたのは明らかにバスローブだったから。ナツミみたいなおぼこい奴が着ると余計に男を煽るやつだった。

 

法が許す最大速度で車を飛ばす。幸い夜の道は空いている。

心臓が破裂しちまいそうだ。

ナツミ、何でそんな姿許している?そいつのことが好きになったのか?

 

 

一方。

車の窓ガラスに顔を向けて、そこに映った自分を何となくみていた詩音は、温度のない表情でにっと笑った。

ホテルまでは車で行けばすぐだ。割り込みは間に合うかどうか微妙なところ。勝利を確信したのだろう莉音が、煽りついでに部屋番号まで吐いたのが幸運だった。

概ねタイムアウトだろうが、ギリ間に合う可能性もなくはないか?莉音も加賀美も押しのけて俺がナツミを食うのもそれは旨い話だが、いや、ここは間に合わなくても良いかもしれない。

他の男が抱いたばかりのナツミを見たら加賀美はどうなる?ショック死するんじゃないのかこの男。ナツミに未練たらたら、どころか本気で恋しているこの男が。

笑いを噛み締める。

ああ、恋人たちを引き裂くってのはなんて甘美なのだろう!

 

 

ホテルが見えてきたと思った矢先。

「通行止め……って畜生!」

何か知らないが軽い事故でもあったらしい。ボンネットが歪んだ車にパトカーが赤ランプをチカチカさせて止まっていた。

「ふざけんなよちっくしょう!」

俺は車を急停車して、やり場のない怒りを窓ガラスにぶつけた。車が一瞬揺れた。

「詩音、こっから出ろや。走るぞ!」

俺は詩音を引き摺り出して車を降りて猛スピードで走り出した。

すぐ近くにあるはずのホテルがイヤに遠く感じた。

息せき切って走っても全然距離が縮まらない気がする。そうかこれはきっと悪夢なんだ、そうに決まっていると俺は悔し紛れに思い込もうとした。

 

 

詩音に案内させた部屋の前にたどり着いた。

ゴク、と喉が鳴る。ここにナツミがいるっていうのか。

「おい!莉音、ここ開けろよ!」

詩音は何度も莉音を部屋の外から呼んだ。最初無視されていたが……。

「ああもう、詩音お前うるさいよ。これじゃ流石にクレーム……って」

「どけよ!ナツミ!」

力任せに双子に割り込んで押しのけて、部屋に強引に入った。

ピンクのサテンの安っぽい内装にまず寒気がして次に目に入ったのは……。

「……か、加賀美さん……」

背中を丸出しにして、ベッドにぺたんと座っているナツミ。俺に背を向け、顔だけこっちに向けて死ぬほど驚愕している。

寝乱れたベッド。バスローブは、着てたけど脱がされた風にくちゃくちゃと丸まっていて……。

「……う……嘘やろ?」

時間が止まった様に感じる。交差する視線。お互いに呆然と見つめあって……。

双子がなんかぼそぼそ後ろで喋ってる気がするけど、何も頭に入らない。

「……ナツミ、お前、こんなとこ、で。何してん……」

声が震えていると自分でも分かる。

「……なにって……」

要件ひとつしかあれへん。そんなのわかってる。

莉音が嫌味ったらしく声をかけた。

「ナツミ。シャワー浴びてきたら。汗かいたでしょ」
「……」

ナツミは途端にぱっと俺から目線を外し、無言のまま頷いた。

心臓を鷲掴みにされる気持ちだった。

ナツミって気安く呼ぶんじゃねえよと言おうとして、俺はふと気がついた。

床に開封済みのゴムの袋が落ちていることに。

「!!」

それは今まで体験したどんな痛みよりも鋭く胸を刺した。

俺はきっと罰が当たったのだ。

ナツミを今までちゃんと大切にしてこなかったから。

こんなことになるのなら素直に好きだと言えば良かった。それから愛しているとも。

 

 

 

続く

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