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【のろまの矜持#3】僕なんかいらないと捨ててくれ

それから僕は、双子店長の家に有無を言わさず車で連れて行かれた。運転するのが兄、後ろのシートで僕の隣に座って涙を丁寧に拭いてくれるのが弟だった。

街並みが通り過ぎていく。僕はぼうっとしながら感傷に身を任せていた。

加賀美さんの残像は一旦浮かべば消えなくて、僕は加賀美さんが呆れるほどやっぱり好きなんだと思い知らされた。

 

 

15分ほど走ったろうか。車は一軒のログハウス前についた。

「さ、ナツミくん。ここだから……足元気をつけて」

ドア前には可愛いリース、鍵を開けたら可愛い猫チーフのドアマット、中はそこかしこに動物モチーフの可愛い小物ばっかりだった。

あまりの少女趣味ぶりに少し虚を突かれた。
僕の困惑を察知するかのように、彼らは言った。

「あー、俺たちね、こんなデカい男だけど無類の可愛いもの好きなんだよね。まじで。ごめんね〜」

「ささ、どうぞ」

いそいそと肩を押されてリビングへ通された。かわいいものは僕も好きな方だったので、別に良かったけど。

 

「ね!まずはホットミルクでも飲んであったまってよ!ブランデーも入れておいたから」

コト、と出されたのは取手部分がうさぎさんのマグカップ。中には並々とホットミルク……。

やさしい温もりに泣けてきて、僕はありがたく飲んだ。心配そうに僕を見守る双子、金髪混じりの兄の莉音くんと、銀髪混じりの弟の詩音くん。彼らが視界の端にいた。

なんでこんな僕にやさしくしてくれるんだろう
田舎町は皆こうなのかな?あは、泣ける。もしそうなら生まれてからずっと田舎町にいれば良かった。

でもきっと違う、彼らだからこんなに僕にやさしくしてくれるのだ。僕はずっと…ずっと邪魔だのろまだと言われてきたから、分かっている。

「でさ、どうしよっか?元恋人の男、また来るって言ってたけど……」
「俺らで追い返しても良いよ。ナツミくんは厨房に隠れてば良い」

僕は頭を振った。

「あ、いえ、良いんですそんな……。僕がバイト辞めれば済む話ですから。ご迷惑をおかけし」
「「それは今更ナシでしょ!」」

語気を強めて双子を声を揃えた。

「う、そっかそうですよね。自分の勝手な判断で辞めるとか迷惑すぎ」
「いや違うって!ねー元彼氏のせいでバイト辞めないでよーせっかくかわいく色々作れるようになったじゃん辞めないでよーなっちゃんお願いだよー」

そう彼らに頼みこまれて、僕はまた内心じわ、と来てしまっていた。こんなに求められること、人生でもう訪れない気がするのだ。

「……僕はここに本当に居ても良いんでしょうか?」
「もちろん!」

力強く言ってもらえて、僕はこのとき心底嬉しかった。恩返しをしなくては。

「あ、でさ!あの元彼氏!そんでどうする!?って話なワケよ。俺考えたんだけどさあ、ナツミくんが俺たちを手玉に取ってることにしちゃえば良くね!?」

弟の詩音くんが言った。エ、と僕は目を丸くした。イイネ!と即乗った兄の莉音くんに対しても。

「そしたらあの元恋人、すんげー焦るんじゃない!いいじゃん、ざまあって言ってやろうよ」

盛り上がる双子くん達。

僕の脳裏にまた加賀美さんの顔が浮かぶ。

どうだろう?僕がそんな状態に仮になったとして加賀美さんは焦ったりするだろうか?

『……なんやナツミ、随分尻軽やったんやな。別にどうでもええけど』

僕を冷たく一瞥して背を向ける。きっと加賀美さんならこんな反応だろう。イメージしてみてズキッと心刺されるように痛んだ。好きな人に背を背けられるのは辛い。僕が先に背を向けたのだけれど。

それに加賀美さんには年下の巨乳の彼女がいるんだ。僕が新しい恋人作ろうとどうなろうと知ったこっちゃないのだ。

「……ってえ、ナツミくん!?どうしたの泣かないで!?」

また溢れるようにポロポロやってしまった。

「ごめん俺らと恋人設定やるのそんな嫌だったかな!?ゴメンね!!?」

慌てふためく彼らに対して僕は弁明した。

「ち、違うんです。違うんです。……僕なんて、加賀美さんにとってちっぽけな存在で、お二人に協力してもらっても、多分加賀美さんはショックじゃないと思ったら泣けちゃっただけで。

……加賀美さんはそもそも別に恋人がいるはずですし。僕はお手軽でインスタントな遊び相手だった。それだけ……」

「ナツミくん……」

「だから僕が望んでいるのは一つだけ。

お前なんかもう要らないって、いっそ加賀美さんにはハッキリ捨てて欲しいんです。

今回どうして彼がわざわざ来たのかは分からない、でもあの人は少し気まぐれなところもありましたから。なんとなく探してみただけかもしれない。いやきっとそうなんですよ。

希望を持たされるのはもう沢山なんです。

そしたら加賀美さんを嫌いになる前に、諦められるから……。加賀美さんは本当は素敵なひとなんです、僕には釣り合わなかったというだけで……」

双子は顔を見合わせてから、同情顔で僕にアレコレと更に世話をした。

「ああ、ダメだよなっちゃん。そんなこと悲しいこと言わないで……今日はもうお休みしなよ、ね?

詩音、ベッド準備してやって。ウチで一番フカフカのやつだ」

 

それから僕はふわもこの寝巻きに着替えさせられ、寝室のフカフカのベッドに突っ込まれ、枕元にはもふもふのぬいぐるみを何体か置かれた。

「寂しくなってもこの子達いるからね」
「寝れなかったら何度でもホットミルク入れてあげるから。遠慮なく俺ら起こしなよ」

それじゃ、と去っていった彼ら。僕を1人寝室に残して。

カーテンが少し開いた窓から月光が優しく差し込んでいる。やさしい人たちに出逢わせてもらえたことに神様に感謝しながら僕はうとうとと眠りに落ちた。

 

◼️◼️◼️

双子の男達は、ドアを閉めたあとリビングに戻るとブランデーを出してきてロックで乾杯をした。

「……ナツミくんどうする?」

「あんなセリフ言わす男ってそもそも一体どういう男なんだよ」

「だよなあ。あ〜むかつくやつだよなあ。
でもあんな雑に扱われても相手の男責めてないのなっちゃんえら過ぎじゃない?」

考えられん、と言わんばかりに双子はグラスに酒を継いだ。

「加賀美だっけ、やっぱ『お前じゃなきゃダメだ!戻ってこい!』って縋り付かせたいよな」

だな、と頷いてから詩音は吹き出した。

「その後ナツミに振らせるんだろ。鬼か悪魔だよお前」
「お互い様だろ」

莉音も笑った。

「しょうがねえじゃん。

調子づいててフラれて焦って追ってきた男、ソイツを焚き付けて燃えさせて、その上で元恋人を取り上げて目の前で喰って見せるのが性癖なんだから……」

「クソみたいな性癖だな」
「お前も同じ性癖だろうがよ」

そう言っておもむろにグラスを置くと、双子の男は互いにキスをした。一通り深く舌を絡めてキスして、そして非常に苦い顔をして離れると失笑した。

「「気持ちわり」」

節操がないのも、肉欲の発散に飢えているのも、可哀想な男の子に限り放って置けないのも、全部ぜんぶ一緒だった。

飢えてるなら買うなりナンパで引っ掛けるなり、マットウに恋人をつくるなりすれば良い。しかしそれはなかなか出来なかった。

性癖を突き刺すシチュエーション、理想の可哀想な男の子が現れなければ興味は微塵も湧かなかった。

あり余る肉欲を時折互いで誤魔化しては、気持ち悪いと失笑しながら吐き捨ててきた。

彼らは超久しぶりの理想の出会いに神に感謝した。

莉音は金髪混じりの髪を撫ですきながら言った。

「なっちゃんは理想だよなあ……あらゆる点で理想だよなあ……僕を捨てて欲しいって台詞はグッと来たね。不憫で。俺はナツミが欲しくなる」

詩音も頷いた。そして言った。

「まあ最後は兄貴と殺し合いか。まあ良いけどね」

良くねえよ、と双子はまた笑い合った。

そして加賀美を焚き付ける算段をし始める。夜が更けていく……。

 

 

 

続く

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