浮気攻め

【あほんだら#11】バッドエンド

『初めて本気で人に惚れた』か。胸が刺すようにズキンと痛んだ。僕も昌也のことをかつてそう思っていた。どうして同じタイミングで同じ気持ちになれないのだろう。

「……戻るなんて出来ない。昌也のことはもう好きじゃない。これ、返すから!僕の前にもう現れないで、頼むから!」

僕はカバンをガサゴソと探り、昌也から昔もらって大事にしていたネックレスを昌也に押し付けた!

「え?あ、これ。おい、寧々!」

昌也の狼狽えた声が耳に響いた。俺を捨てるのかとでも言いたげだ。

「辞めてよ、そんな声だすなよ、僕が悪いみたいだろ?今までだって散々、何度でもチャンスなんてあげただろ!」

僕は吠えた。頬がカッカとして息が上がる。

「それはもういらない、僕には必要ないんだ!誰か新しい女の子にでもあげてよ。さようなら昌也、2度と会わない。もう今度こそ。僕には巽がいるから。……行こう、巽」

僕は巽の手をグッと引いて反対方向に走り出した。

 

 

ぜえはあと息を吐く。

「く、は……はあ、はあ」
「寧々、水」
「ん……」

巽が自販機で買ってくれた水を飲む。そばの川辺では水がキラキラと反射している。

ぼうっとしていた。昌也との数年間を思い出していた。

「寧々、俺を選んでくれて嬉しいよ」

巽は眩しそうに僕を見つめてきて、僕が所在ないくらいだった。

ついに終わったんだと思った。僕は巽に抱きついた。

「もう昌也のことは思い出したくない。忘れさせてくれるよね……?」

もちろんと巽は僕にキスをした。これからは巽のことだけを信じよう、僕はそう決心した。

「誓約書なんかなくても巽のそばにいるからね……。破いても平気だよ」

そっかと巽は破顔した。

 

 

その晩、ふと巽は僕をおいて少し出かけると言って出て行った。

「今晩はもしかして帰れないかもしれない。だから戸締りだけしっかりして、間違っても昌也なんていれるんじゃないぞ」

「分かってるよお」

じゃあなと言って巽は出かけて行った。

 

□□□

※巽視点

それは凍えるほどに寒い日で、細く欠けた月だけがポツンと浮かぶ夜だった。

「……いってええ……!」

俺はマンションから少し離れたひと気のない駐車場で昌也をねじ伏せその腕を捻り上げていた。

痛いというのでさらに捻りあげると、声なきうめき声をその男はあげた。

「ストーキングとは感心しねえなあ……来るだろうと張っておいて正解だ。お前とは一度タイマンで話つけなきゃとは思ってたんだよなあ」

ミシミシと骨が鳴る。苦痛に歪む男の顔が、俺は大好きだ。

「へ……。ただの借金とりのくせに、よ……」

片眉をあげた。肝の据わった奴というべきか、命知らずと言うべきか。

俺は一瞬腕を離して、渾身の頭突きを入れた。

「いってええええ……!!」

歯を食いしばって唸る昌也。頭がグラグラしてるだろう。
その髪の毛をグッと強く引っ掴んで顔を上げさせた。昌也はめちゃくちゃ痛そうな顔をしている。

「なあ、ヤクザ舐められると困るんだよ。ヤクザのオンナに手を出すって命放り投げますって意味なんだよ。分かる?おまえ」

ポケットから折りたたみのナイフを取り出す。その握り心地はすでに随分と手に馴染んでいる。

息をのむ音が聞こえる。

「お前はどうにも分かっちゃいない。寧々を手に入れるのは大変だったんだぜ?忠犬みたいにお前のことをいつまでも辛抱強く待つ寧々をさ、こっちに振り向かせるのは……。

あの手この手で俺がどんなに苦労したことか。まあお前がちゃらんぽらんのあほんだらで逆に助かったけどな。

寧々の手をついに離したのはお前なんだから、今更欲しいなんてルール違反だ」

俺はあえてチャリ、と刀身を起こし、その音を聞かせた。

「これが最後の忠告だから。次来たらマジで東京湾に沈めるからな。あ、その前にズタボロにお前を抱いてプライドをズタズタにしてやろうか。なんてな……」

男の生意気な瞳が俺をぎらりと捉えた。

 

 

 

その日の夜、帰ってこないと思っていた巽は案外早く帰ってきた。

僕はその姿を見てびっくりした。

「ごめんごめん、わりとすぐ終わってさ……」
「や、やだ巽、どうしたの!?」

砂埃まみれで、殴り合いでやりあったのだろうあざ、それに……。

「……ここ、血がついてる。どうしたの?」

震える声で尋ねた。

「俺の怪我じゃないから安心しな」

「い、いや……いや……」

後ずさる僕を巽は逃すことなく捕まえた。

「ヤクザだって言ったろ?あるさ、こういうことも……それより昌也は来なかった?そっか大丈夫だったか。良かった……。

寧々は俺のことだけ見ていれば良いんだよ」

キツく僕を抱きしめ、ゾッとするような優しい声で巽は笑った。

 

続く

【あほんだら#12】巽との生活それから昌也はパッタリと姿を現さなくなった。 連絡も一切寄越さない。 その音信不通ぶりがどこか変に感じて、僕は昌也のことが気掛か...
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