浮気攻め

【あほんだら#12】巽との生活

それから昌也はパッタリと姿を現さなくなった。
連絡も一切寄越さない。

その音信不通ぶりがどこか変に感じて、僕は昌也のことが気掛かりでいた。

「昌也……何かあったのかな?」
「さあ。またどっかで人妻に手でも出して刺されてんじゃない」
「!」

あいつ本当にありうる!どっかひと気のないトンネルかなんかで刺されて放置されてるんじゃ……
ついさあっと血の気が引いてしまった僕。

「まあ新しい女が出来て寧々に飽きただけだろ」
「……!」

巽がサラッと言いのけるもんだから、僕はどこか心の奥深くを突き刺された様な気持ちになる。

巽は稀に意地悪だった。

 

 

巽は出勤前にやや手荒く僕を抱いて、僕らは一緒に足早にシャワーを浴びる。朝日差し込む中で、巽の背中一面の和彫を見るのはいまだ慣れない。

僕はシャワーを浴びながら指差した。

「……またアザが増えてる」
「ああ、腹んとこね……寧々がキスして慰めてくれたら痛いの治るけど」

僕はそっと跪いてキスをした。そっと見上げる。

「う……サンキュ、ちょっと痛むけど治ったわ。メッチャ良いアングル、ハハ……」

柄にもなく照れ笑いした巽。

巽は職業・闇金取り立て屋なので血生臭いことが絶えなかった。怒号飛び交う殴り合いを制して取り立てを実行する。

殴り合いの相手が別の闇金業者になることもあるらしい。

債務者が複数から借りていて、返済分が一部しか用意出来なかった場合、どこの闇金も自分のところに返済して欲しいので業者同士血みどろの殴り合いになる時もあるんだそうな。

まあ俺は負けたことないけどね、と誇らしげな巽。実際、喧嘩自体は随分強いらしかった。

「今日の取り立ては300万。応援しててよ。無事に終わったらなんか美味いもん食わしてやるよ」
「う、うん……あんまり無理しないようにね」
「寧々がいるから頑張れる」

そういって僕に深くキスをした巽。時間ないよと言っているのに、巽は2回戦を始めようとして……。

 

 

いってらっしゃいと巽を送り出して、急いでベランダに向かう。ちょっとすると巽が下からひょこ、と現れて超にこにこで手を振って来るので、それに手を振りかえす。そうすると機嫌よく彼は出勤(?)していくのである。

闇金取り立て屋の恋人を癒すという、それが僕の今の仕事だった。

まあヤクザの情婦ってことだ。将来は大丈夫なのかは全く分からないが、僕が巽を好きなのは事実だった。

あまり深く考えないことにしている。恋人がヤクザであるということは……。

 

 

「だ、大丈夫巽!?」

その日遅く珍しくヨレヨレで帰ってきた巽は、その美貌の頬に大きな青あざを作り、いつもの黒のスーツはところどころ破れていた。

巽がよろけていたので、玄関扉が開くと同時に抱き止めた。

「寧々え会いたかった、うう畜生流石にいってええよお……でも勝てたぜ寧々」

差し出された分厚いクラッチバッグを、僕は震える手で受け取った。

 

◼️

ベッドの軋む音がする。

取り立て終わりの巽は気性の荒い野生動物みたいだ。荒々しく僕を抱いて、欲求は止まるところを知らない。僕のやめてももう無理もおかまいなしだ。逞しい腹筋が月光のほんのり照らされて、肉食獣に今喰われているんだと実感せざるを得ないくらい……。

 

貪り尽くされてクタクタになって、泥の様に眠りにつこうとした時。僕を後ろから抱きしめて巽は言った。

「なあなあ、ところでさあ……寧々も背中に彫ってみない?」
「え!?いや流石に良いよ。何で?」
「寧々にカタギの世界に戻って欲しくないから。和彫ってのは何かと足枷になるしな」
「え……」
「要はさ。俺はすでに道を踏み外してて、そんな俺のそばに寧々にずっといて欲しいってこと。

やっと昌也から引き剥がせたんだ……逃してたまるかよ」

真剣過ぎるほどに真剣にそう言われてすごくドキッとした。

 

 

時々巽の執着心が怖い時がある。

以前に巽と付き合うっていう誓約書を書かされたことあるけど、あんなのちゃんとした恋人になった今は捨てたって良いくらいなのに、巽は頑なに処分しなかった。

僕と何か強固なつながりを作ろうと必死な様に見えた。そんなことされなくても、僕は逃げたりしないのに。

 

 

そんな巽との同棲生活はそれからも続いた。

実際に闇金に身を置いている巽のそばにいると、巽のいる闇金がどんな場所なのかが分かってきた。

巽のいる闇金は随分な高利貸しであること。ナイフ沙汰もままあること。取り立ての強引さで他の闇金からも恨みを買っていること。

そんな中で、さらに僕は更にある日知ることになる。

巽自身にどうやら自己破産経験がありそうだということを。

 

 

続く

月夜オンライン書店

月夜オンライン書店では、過去に掲載したシリーズの番外編やココだけの読切作品を取り扱っています。

リンクはこちらから🔽

boothで見てみるnote で見てみる

※boothとnoteは取り扱い内容同じです。

よろしくお願いします♪

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です