ホラーBL

【都市伝説探索レポート#3】異世界行きエレベーター

⚠️途中怖いイラストあります。

 

 

エレベーターに乗り、決められた順番で各階を移動すると、異世界に行くことが出来るらしい。

それがどんな場所なのかは誰も知らない……。

 

 

 

 

 

「……いよお!由真。こっちこっち!」
「瓦落くん……!」

今日ぼくら2人が落ち合ったのはいつもの喫茶店ではなく、とある雑居ビル内の居酒屋である。

もっかい言う。居酒屋!

「……高校生ふたりでこんなとこ来て良いんだっけ!?」
「お前も俺も高校ロクに行ってねえじゃん」
「うっ……!」

最もなツッコミを受けて見事に黙らされる。

「い〜だろ別に。俺大学生によく間違えられるし。すんません生ビール2つ!」

「!?」

妙に注文に慣れた瓦落くんの大人っぽい横顔に、隔たりを感じてしまった僕だった。

 

 

ずらりとテーブルに並んだ枝豆だの唐揚げだのビールだの。恐縮ながら乾杯をした。作法は1ミリも分からないが。

「はあ〜うめえ〜」
「ねえ、何で今日僕こんな所に呼び出されてるんだっけ!?」

巨大なビールジョッキを片手にチラ、と僕を見つめた瓦落くん。イケメンは悪戯に少し笑って、枝豆を僕の口にぐいと放り込んできた。

「うぐ」

「まあ、アレだ。由真と親睦を深めたろうかなって思って。怪奇がらみでコーヒーしか飲んでねえよ俺ら。お互いのこと何も知らねーし。ってわけで今日は男子トークや。お気に入りのAV女優、好きな体位は?初体験は?っていう話をしようと思ってだな。まあこういう話は酒が必要だろ」

「!?」

聞いただけでほっぺがカッカしてしまった僕である!

っていうかこれがリア充?怖っ…!!!

 

 

 

「いや〜楽しかったわ」

「僕は瓦落くんが超絶リア充なことだけはよく分かったよ……まさか14歳であんなことやこんなことを……怖っオカルトより何より怖いよ」

ふたり楽しく飲み交わし(?)、最後会計は瓦落くんが払ってくれた。彼は尻ポケットに雑に突っ込まれたブランド物の財布を取り出していた。何で不良って羽振り良いんだろう。これもある意味怪奇だ。

ありがたいけどさあ……!

「こんなん補導されたら即終了だよ!瓦落くんのばかあ!あほ!!」

居酒屋からの帰り際、ヒソヒソと抗議したらシレッと言われた。

「補導?別に慣れてっけど」

そうだ、相手は不良だった……!頭が痛い。酒のせいじゃなく!

ほろ酔いで良い気分なのか、瓦落くんは言った。

「なあ。由真。酔ったついでにアレやってみね。
異世界エレベーターチャレンジ。なんかSNSで見たんだよ」

「?」

首を傾げた僕に、ニヤとイケメン不良は笑った。

 

 

 

 

「指定の方法でエレベーターに乗ると、異世界に行けると。はあ、なるほど……?」

瓦落くんから聞いた方法はこうだった。

 

まず、ひとりでエレベーターに乗り4階、2階、6階、2階、10階と移動する。

この時点で誰かが途中で乗ってくると失敗。

そして10階についたら降りないで5階を押す。

5階で女性が乗ってくるがその人には絶対に話しかけてはいけない。そして1階ボタンを押す。

するとなぜか10階へ向けてエレベーターは上がりだす。

10階に着く前に別の階を押すと失敗する。しかし辞めるなら最後のチャンス。

異世界に通じることが出来るという……。

 

その話を聞いて僕は少し背筋がざわついた。この感覚がする時、死霊が近くにいる気がする……。

 

「でもさ、それどこでやるの?」
「ここ。ちょうどこの雑居ビル、良い感じに古くて何かイケそうだろ。10階以上ある建屋なら何でも良いっぽいぜ」

瓦落くんが指差したのは、さっき飲んでた雑居ビルの隣の古いビルだった。テナントがチラホラ入っているがまばらだった。

「でも瓦落くん、怖いの無理じゃん。大丈夫なの?」
「へ〜き。この都市伝説のキモはひとりでやること。2人でやれば失敗する。だからダイジョブ」

ニッと笑った瓦落くんにちょっとずっこけた。

酔ってて少し気が大きくなってるくせに、やっぱり怖がりなのであった。

 

 

 

ドキドキしながら指定の通りにエレベーターを動かしていく。

4階、2階、6階、2階、10階……。誰も乗って来なかった。

「10階についたら降りないで5階を押す、だったよね」

そして5階についた時。

「……!」

事務服を着た少し地味な女性が乗ってきた。分厚いファイルを持っている。仕事中だろうか。

しかし本当に女性が乗ってきた。瓦落くんと目を見合わせた。

次の指定通り、1階ボタンを押そうとしたらそれよりも早く女性が10階を押した。

10階に上がりだすエレベーター。

 

失敗か……。瓦落くんと目で会話した。

まあ、しょうがないよね。

でも一応、10階ついたら念の為その階をチェックしてみよう。

 

◆◆◆

(瓦落視点)

チーン!と10階でエレベータの扉が開く。

さっと同乗のオンナは降りていき、足早にどこかへ消えていった。

「瓦落くん。ちょっとここ調べてみよう」

由真に促されて一緒にエレベーターを降りて探索した。

「……異世界って夢ある感じじゃないね」

なんて由真が言った通り、そこは確かにただの雑居ビルの10階に過ぎなかった。

「あの女性、どこ行ったのかな……?」

嫌な感じに心臓がうねる。

……その階にはテナントなど何も入っていなかったのだ。もちろんさっきの地味目なオンナもいなかった。

 

「なんか妙に気になるんだよねさっきの人。……僕さ、あっちの方また見てくるから、瓦落くんは下の階お願い。じゃあ!」

「あっおい!俺を置いてくなってえ……!」

ヒッと声を荒げたものの、由真はあっという間に廊下の曲がり角に消えた。

 

 

仕方なしに9階を調べていく。

ザワ、と背筋が震える。

なんかこのビル、やけに暗くて湿っぽいんだよな。

9階もテナントは何も入っていなかった。

酔いが完全に醒める。無理だ。由真と合流しようと思って階段を登る。10階に着こうという時。

「がーらくくん!」
「!!!!!びっくりさすんじゃねえよ!」

振り返ったら階段下の踊り場のところに由真がいたのだ。マジでいつの間に?

手をひらひらと振っている。
驚き過ぎてキレてしまった。

「お前なあ、わざと下から来るとか鬼かよ。俺を殺す気か」

へへと笑った由真。

「いやー、結局あの女性いなくてさあ。異世界って感じでもないし。瓦落くんでも驚かそうかなって」

「何だそりゃ」

「収穫なし。ね。帰ろ」

由真はタンタンと階段を登ってくると、俺の腕にするりと腕を滑らせてきた。

 

 

一緒にエレベーターに乗り込んで、1階ボタンを押す。

由真は俺の腕に自分の腕を絡ませたまま。

え……なんだこれ……?

謎のドキドキを抱え、エレベーターが降りるのを待つ。手持ち無沙汰で、階下へと下るエレベーター内の案内を見ていた。

「……ねえ。瓦落くん、こっち向いてよ」

ぐいと両手で手を頬を掴まれる。

「……!」

真正面から見つめられてドキッとした。由真は案外かわいい顔をしている。

「ね、キスしない。僕したことないんだ。相手してよ、お願い」
「は、え、なに言っ」

そう言って本当にキスしてきた!

柔らかい唇の感触にドクンドクンと心臓が鳴る。

え……由真ってこんな奴だったか?俺のしょうもない下ネタに顔真っ赤にして俯くような奴じゃなかったか?それか吹っ切れたのか?分からない。

でも違和感がある。

 

俺が硬直している間に、いつのまにかエレベーターは下に着いた。

「帰ろ」

そう言って由真は俺の手を引いてスッとエレベーターを降りた。

 

 

スタスタと歩く由真。俺の手を引いたままだ。

「なあ、どこ行くんだよ」
「ふたりでゆっくり出来るとこ」

暗にラブホに誘われている……。一体どうしたって言うんだ?なんか変だ。

 

あれ、それにしてもやけに月が赤く見える。月ってこんなんだったか……。

「!」

道すがら、道路で黒猫が瀕死で倒れているのを見つけた。車にでも当てられたか。

「なあ由真。あれ」
「ああ。ああいうの気味悪よね。行こ」

そのセリフを聞いた瞬間、コイツは由真じゃないと確信した!手を振り払う。

「お前、誰なんだよ」
「なあに、まだ酔ってるの?」

「お前、由真じゃないだろ!由真はそんな冷たい奴じゃねえ!お前、誰なんだよ!ホンモノはどこだ!!!!」

悪寒で背筋がブルッと震えた。正体不明のヤツが目の前にいると思うと、恐怖でどうにかなりそうだ。

するとアッハハハハと由真は笑い出した。

笑いながら口が裂けていく!

「ホンモノはどこなんだよ、だってぇ?
ここは死者の世界さ!さっさとその魂寄越しな!!!僕がお前と入れ替わるんだ!!」

ソイツは無数に歯の生えるを口を俺に向けて大きく開いた!

俺は圧倒されて座りこんじまう。

 

噛 み 殺 さ れ る !!!

 

ヒッと身を縮めた瞬間、ギャアア!!と轟くような悲鳴が聞こえた。

真っ二つに裂けた体はずるりと崩れ、やがて消滅した。

その背景にいたのは……。

「ゆ、由真……!」
「瓦落くん!」

霊力のある小刀を片手に、返り血を浴びて俺を見下ろす由真だった。

「行こう、瓦落くん!ここに長くいちゃ行けない!」

後ろを見れば、ドロドロに蕩けた人ならぬものがあちらこちらで蠢き、こっちに集まってきている!

その手を取って立ち上がり、俺たちは走り出した!

 

 

由真はさっきのビルのエレベーターに俺を押し込み、一緒に乗り込んだ。

「えっと……まず10階、それから5階、10階、2階、6階、2階、4階だ!それから階段で降りる」

ガチャガチャとボタン操作する由真。

「な、なあ。何でそんなことするんだよ?」
「こういうのは来た時と逆のやり方をするんだ。そうすると元の世界に戻れる……はず……!」

「お、おお……!さすが由真だぜ……」

「だけど途中からひとり霊が乗ってくる。5階だ。ソイツは絶対のせちゃダメだ。追い返して、良いね!?」

「あ、ああ……!」

5階についた時。

実際にドロドロに蕩けた赤い霊が乗り込もうとしてきた!俺を無視してまっすぐ由真へと向かっていく!

由真は対抗すべく小刀を振り上げ、言った。

「お前!!!お前なんかどっか行けよ!!さっさと消えちまえ!!!」

!!

それを聞いた瞬間、俺はバシッと由真の手首を掴んでいた。

「お前、本当に由真か?」
「!?な、何言ってんの!?それどころじゃないでしょ!?喰われちゃうよ、瓦落くん!!!」

人ならぬ幽霊は由真に襲い掛かろうとしている!今にも小刀を取り上げそうだ!

「瓦落くん!!ねえ!!!!」
「……!!!」

なおも俺は手が離せなかった。その隙をついて赤い霊は由真から小刀を取り上げ、由真を切りつけた!

 

真っ赤な血飛沫がエレベーター内に飛ぶ。

「瓦落!!この、この裏切り者!!!ああああああああ!」

だけど悲鳴とともに由真だったものはドロドロに溶けていき、やがてただの血溜まりへと変わった。

 

そして赤い霊だったモノは、本当の姿を取り戻した。

由真だった。

「……瓦落くん……ありがとう、それに無事でいてくれてよかった……」

俺に縋り付いてきた由真は、倒れるようにしてそのまま意識を失った。

俺は今度こそ、コイツが本物だと思った。

俺は死霊が言っていた通り、エレベーターのボタンを操作した。それから街へ戻ると、おかしな現象はもう起きなかった。

 

 

 

その後由真を、俺の家に連れて帰りベッドに寝かせた。5時間程眠ったあと、由真は目を覚ました。

俺たちはお互いの身に起きたことを共有した。

偽物の由真にキスされたことはなんか気まずくて黙っておいたが。

由真は今回の事件をこんな風にまとめた。

「まずはありがとう瓦落くん。君のおかげで帰って来れたよ。

異世界エレベーターのやり方、霊力の強い僕と一緒にやってしまうと死者の世界へと行けてしまうみたいだね。

結局、5階で乗ってきた女性は霊だったんだ。あの霊に案内されて10階に着き、僕らはすでに異世界にいた。あれは死者の国だ。

あそこで自分の魂を喰われてしまうと、死者が自分に成り変わり、現世に戻ってきてしまうんだろう。

死者の国から帰るには、来た時と逆にエレベーターを動かす。あれに乗れなかったら僕はこっちに帰って来れなかった。

僕は途中で小刀を奪われて霊達に足止めされていたのもあって、最後のチャンスが5階から乗ることだったんだ。

最後にエレベーターで瓦落くんが味方してくれなかったら、僕はアイツに魂を喰われて死霊になっていた。

そして僕の偽物がなりすまして現世を生きていたことだろう。

……ほんと、2人とも戻って来れて良かったよ」

俺は由真の手にそっと触れた。

「ごめんな由真。俺が興味本位で変なことに誘ったから……」

「ううん大丈夫。ああいう場所こそ僕が言って、死者の国との繋がりを封じてこなきゃいけないから。そういうのも僕のおつとめなんだよ。その辺はうまくやっておいたから。だから気にしないで」

由真は、そっと俺の手に自身の手を重ねてくれた。

「……ねえ、そういえば教えてくれない?

最後どうして一緒にエレベーターに乗っていた偽物の僕を見破れたの?僕は呪いをかけられて赤い霊の姿だったのに」

「ああ……。

霊に対してお前なんか消えちまえっていうセリフに違和感があったんだ。

由真は死霊に対して結構誠実だから、あんな物言いしない。由真らしくないなって」

「瓦落くん……そっか……へへ、分かってくれる人がいてうれしい」

すこし照れたように由真は笑った。

「……友達だろ」
「そっか……そうだよね……」

しみじみと由真は言った。

「そ、だから僕も瓦落くんの偽物見破れたよ」

由真と離れ離れになっている間、由真の方にも俺の偽物は現れていたらしい。

「偽物の瓦落くんさあ、ほかの心霊スポットも行ってみようぜとか行ってきてさあ。やたら僕を暗がりに連れてこうとするし。これはおかしいなって」

「俺のコピーが雑なんだよ」

「しかもいきなりキスしてきてさあ。ビックリしたよ」

!!

「ね、コピーが雑だよね。……瓦落くん?」

「え!ああ、雑だなそりゃ。何なんだよ、なあ?」

変に心臓がドキドキバクバクする。なんだ?このソワソワは。

こういう気持ちを俺はいつもうまく説明できない。

「ま、まあさ!とにかく無事帰ってこれて良かったよな、ハハ」

「うん……うっ!」

由真は肩を抑えて突然うずくまった。

「おい、どうしたんだよ!?」

「……何でもないよ」
「そんな訳ねえだろ!怪我か、見せてみろ」
「あ、やめっ!」

なかば無理やり由真のトップスを剥ぐと、その背中には無数の黒いアザのようなものが!

「なっ何だよコレ!?喧嘩か!?虐待でもされてんのか!!!?何で早く俺に言わねえ!」

気まずそうに由真は俺を見上げ、うなだれ
て言った。

「あは、見られちゃったね。

……霊力の宿る小刀で死霊を切り裂くと、無理矢理成仏させることが出来る代わりに、この身に祟りを受けてしまうんだ。

祟りを身にいっぱい受けて死んでいくのが僕の仕事なんだ。

でも大丈夫だよ。これがおつとめなんだ。

心配しないで……」

 

 

 

 

続く

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