ホラーBL

都市伝説探索レポート『きさらぎ駅』

不良と不登校くん、学校のはみだし者ふたりが都市伝説の解決に挑む話。

段々距離が縮まっていくblホラーストーリーです。

画像はAIイラストです。イメージとしてお楽しみ頂けると嬉しいです。

⚠️途中で結構怖いイラスト出るので苦手な方はご注意ください。

ーーーーーーーーーーーーー

『終電で眠ってしまい、ふと気がつくと誰もいない無人駅に到着していることがある。

だけどうっかりその駅で降りてはいけない。二度と戻って来れなくなるから。

その駅の名はきさらぎ駅』

 

これはそんなきさらぎ駅に大切なものを落としてきてしまった男の子と、それを救おうとした僕の話。

 

 

 

 

今日も渋谷駅は死ぬほど混雑している。夜は尚更。そんな駅の喧騒を、僕は今日も1人でぽつんと見ていた。

制服をチャラチャラと着崩した男女のグループが脇を通り過ぎていく。いいな、あんな青春が僕にもあったのかな。

まあ、不登校になって長い僕には関係のない話だけど。一応書類上は高2ってだけ。

 

いけない、集中して探さなきゃ。気を改める。

僕が探しているのは可愛いナンパ相手の女の子……ではもちろんない。

『死霊の世界に片脚を突っ込んでしまい、困り事を抱えた人』である。

僕は訳あって、そういう人たちを救済しないといけない立場にあった。

 

じっと気を張って探していると、人間の負のオーラを感じ取ることができる。集中しろ、どこにいる……。

その時、ドクンと心臓が鳴った。

あの人だ。
いま目の前から足早に歩いて来ている、ちょっと悪っぽい男の子だ、と確信した。憔悴した顔をしている。

年は17、18。高校生だろう。

だけど怖いなあ、不良だろうなあ……。

身長は180はあろうかという大柄さで、ハンサムだけど金髪でとにかく眼光がすごい。

 

ううっ、下手したら蹴っ飛ばされそうだ。

だけど恐怖心を抑えこみ、声をかけた。

「あ、ねえ、そこのあなた!最近怖い夢見てませんか?」

「……!?」

「ごめんなさい、申し遅れました。
僕、怨霊祓いをやっているんです。彼岸 由真(ひがん ゆま)と言います。

あなたから随分重たいオーラが出ていたのでつい声を掛けました。最近何かすごく困ってることないですか?

例えば知らない女の声がやけに頭に響いてきたりとか」

 

その不良っぽい男の子は、信じられないものを言い当てられたという顔で僕のことを見た。きっと背筋に冷たい汗が流れているのだろう。

顔をかけた人にこういう顔をされるのは慣れっこだった。

 

◇◇◇

 

「俺の名前は瓦落 駿(がらく しゅん)。それにしてもお前やべえな、何なんだ?」

場所を喫茶店に移して、ふたりで会話した。

「えっと実家が神社?みたいな場所で、その関係で僕は怨霊祓いをやってるんです。あなたみたいな人を救うのが僕のおつとめ。

あ、学校は正直言うとちゃんと行ってないんです、はは……」

「……ふ〜ん……。ま、俺も学校なんかマジメに行ってねえけどな」

怪訝な顔をしつつ、少しは共感してくれたみたいだった。そして瓦落くんは声を落としてボソボソと話し出した。

「……でさ。さっきの話しだけど。マジで言われた通り、俺の頭ん中で女の声がすんだよ。俺は気い狂ってなんかいないぜ。

心当たりはある。いわくつきの場所に行ったからだ」

僕は頷いた。

「きさらぎ駅。いま都市伝説でしょっちゅう噂になってるヤツ。……信じる?」

瓦落君は、まるで冗談には見えない顔でそう言った。僕は真剣に頷いた。

どこかホッとした表情を浮かべた瓦落くんは、詳しく話し出してくれた。

 

「自分でも信じられねえけど、俺、一回だけ確かにきさらぎ駅に行ったことあるんだよ。嘘じゃねえ。

友達と夜遅くまで遊んで、渋谷から終電で帰ろうとして、眠っちまって……それでふと起きたら真っ暗な無人駅に着いてたんだよ。もちろん誰も周りにいねえ。

ぼんやりしてた俺はフラフラと電車を降りそうになった。その時ウッカリ電車とホームの間に定期入れを落としちまったんだよ。あれは俺にとって大事なヤツなんだ!

それでやべえ、駅員呼ばねえと。そう思って慌ててるウチにドアが急に閉まっちまってまた動き出したんだ。俺は電車を降りる前だった。

んで、電車が発車してせめて何駅か確認しようと思ったら駅の看板には『きさらぎ駅』ってあったんだ。

本当だ。嘘じゃねえ。

問題はここからだ。

あれ以来、頭ん中でオンナの声がするんだ。

『きさらぎ駅に来て。迎えに来て。
7日以内に来てくれなかったらあなたを殺すから』って……!!

だけど調べたけどきさらぎ駅なんてどこにもねえ!あれから何回前と同じ電車で終電に乗ってみてもきさらぎ駅になんて辿り着かねえ。

それに今日がもう6日目なんだ!日に日に頭の中の女の声が大きくなっていく。もう耐えられねえ!

なあ、助けてくれよ!」

今まで抑えこんでいた恐怖が一気に吹き上がってきたのだろう。瓦落くんは僕に掴みかかるかのように迫ってきた。肩をグイと掴まれる。力が強い。それほどの恐怖心なのだろう。

これは救いがいがあるはずだ。

「分かった、わかった、大丈夫ですよ!僕が一緒にきさらぎ駅まで一緒に行ってあげますから。一緒に解決しましょう」

「え……ま、マジ……?」

僕は任せてとばかりに頷いた。

 

◇◇◇

 

「なあ、これで本当にいいのか?」
「はい大丈夫です」

僕らは前に瓦落くんがきさらぎ駅に行ってしまった時と同じホームで同じ電車に乗っていた。ならんで座席に座る。

「これは何回やってもダメだったんだぞ?」
「僕といれば大丈夫ですよ。

……あとまあ、いやかもしれませんが手はこのままで……」

周りから見えないように、僕らは手を握っていた。

霊的な力の強い僕とこうして強く念じていれば、死霊の世界に繋がることが出来る。

死霊の世界と生きるものの世界は稀に交差してしまう時がある。彼も前回は偶然行けてしまったのだろう。

「それからさっきも言いましたけど、ちゃんと目を閉じて眠ってくださいね。眠ってこの生ける世界から目を背けることが、一つポイントです」

耳元でヒソヒソ言う。

「う……分かってっけどよお……」

いざ行こうとするとドキドキするのだろう。

「渋谷発、終電発車します」

電車が発車のアナウンスを告げた。

覚悟を決めたかのように瓦落くんは目を閉じた。
鼻筋が通っていて結構綺麗な顔立ちだった。

僕も目を閉じた。

 

 

神経を集中させる。周りの喧騒が聞こえなくなる。

そうしてしばらく経った時。

『……来て、迎えに……早く。マッテル……』

!!

瞬間的に女の啜り泣く様な、何とも言えずおぞましい声が頭に響いた。これは瓦落くんの頭の中で聞こえている声……?

奇妙なシンクロを体験する。これもいつものことだった。

でもこの依頼主とのシンクロは大事だ。死霊を祓うには。

 

◇◇◇

 

「次は終点、きさらぎ駅」

そう聞こえてハッと目が覚ます。瓦落くんはまだ目を閉じている。

「瓦落くん!起きて!きさらぎ駅に着いた、降りるよ!」

まるで撃たれたかの様にハッと飛び起きた瓦落くんを連れ、僕らは電車を降りた。

その瞬間ドアが勢いよく閉まり、電車は反対方向へと去って行った。

 

「……な、んだ……ここ……!」

瓦落くんが絞るような声を出した。

無理もない。

真っ暗でところどころ真っ赤なライトが点灯していて、床にはところどころ血溜まりのようなものがある……。

そんなこの世のものとは思えない場所だったから。

駅の看板には間違いなく『きさらぎ駅』とあった。

 

「マジで来ちまったんだな……」

ゴク、と喉を鳴らすように彼は言った。

「行こう……」
「ま、待てよ……!」

さっと僕の腕を掴む瓦落くん。
不良ながらも多分オカルトは苦手なのだろう。まあ普通はそうだ。

僕はリュックから懐中電灯を取り出してライトをつけた。

無人の改札を通り過ぎる。誰もいない。

「な、なあ……どこに行くんだよ?」
「とりあえず道が続くままに……。女性の声が頭のなかで聞こえていたのでしょう?

多分来ますよ、向こうから」

「ヒッ……!!!」

「僕の勘ですが……きっと瓦落くんに頭の中で呼びかけている女性が、定期入れも預かってると思いますよ。まずはその女性に会わないことには始まりませんから」

「う、ウソだろお、オイ。勘弁してくれよ……!ってかお前なんでそんなサクサク歩けんだよこんなとこ。キモ座りすぎだろ」

僕を離すまいとしてか、僕の腕をさらにギュッと握った瓦落くんだった。

内心苦笑する。まあ、そうだよなあ。これが普通の反応だよなあ。

オカルト苦手だったら、僕もイジメられたりしなかったかなあ。

 

 

「……おっかしいな……」

グルグルと駅の中を歩く。駅の外に出ようとしてもどうしても出口が見つからないのだ。

ピンと来た。

「ループしてますね、これ」
「ヒッ……!」
「こういう時は一度、元来た道をもう一度戻ってみましょう。何か見落としがあるかも」

そう言って戻ろうとした時。

!!!

懐中電灯のライトが照らした先をみて、ドクンと心臓が鳴った。

「……誰かいる……」

白いふわふわとした、人間にしては大きすぎるなにかが、線路の上に浮いていた。

 

 

ゾワゾワと悪寒が肌を走る。間違いない。あいつだろう。

一歩ずつ近寄る。

「……お、おい、彼岸……!」

ヒソヒソと声をかけてくる瓦落くん。恐怖心でいっぱいなのが伝わってくる。

「ごめんね、瓦落くん。多分あの人だと思うんです、あなたに話しかけているのは……」

 

そのとき。

『……来てくれたのね……』

響くように頭の中で女の声が聞こえた。
嬉しそうなおぞましい声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には白い影が目の前に来ていた。

!!!

流石に僕でも怖い。
脚が震える。でも勇気を出して言った。

「……瓦落くんの定期入れ、返してください!大事なものなんです」

『これナホって書いてある。これは、あたしの名前。あたしの!持ってきてくれたんでしょ!?

ねえ、ユウヤあ!!!』

 

白い女は一転して膨れ上がり、巨大な亡霊と化した。襲いかかってくる!

恐怖で呆然とする瓦落くんの腕を掴み、僕は間一髪のところで走り出す。

全速力で逃げ出した。

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ……ッ!!一体、何なんだよさっきのアイツ!う、ゲッホ!!」

逃げ込んだ駅員用の待合。

整った風貌を歪め、荒く息をつかせた瓦落くん。僕も汗ダラダラだった。

だけど悠長にしてはいられない。ここもいつまでも安全か分からない。

謎を解かなければならないのだ。瓦落くんに水を差し出し、僕は問いかけた。

「ナホって、心当たりあります?」
「……定期入れにナホって名前書いてあんだよ。元々ナホのヤツだったのを俺がそのまま使ってるから」

ナホ。彼女の名前かな。まあいるか、こんなイケメンだったら。

 

「……妹の名前。もういないけど」

「!」
「これ以上聞かねえでくれよな。言いたくないから……」

違ったらしい。随分な背景があるようだ。

「だけど、だけど俺の妹は絶対さっきのバケモンじゃねえ!声も違う、話し方も違う。絶対他人なんだ!」

必死な訴えに僕は頷いた。

「それにユウヤって言ってましたしね。きっと誰かと間違えているのでしょう。

……少し待って」

 

僕は目を閉じて意識を極度に集中させた。

死霊と対峙したあと、何かヒントがあれば僕は残留思念を拾うことが出来た。

集中しろ……僕……。

何も聞こえないくらい意識を研ぎ澄ました時。

ふとインスピレーションが湧き出る様に頭の中に映像が流れ込んできた。

……絶望する男や女。彼らがビルやホームから飛び降りる瞬間。バラバラになった身体の破片。啜り泣く声。きさらぎ駅に流れ着いて彷徨い歩く姿。それでも誰かを待ちわびる気持ち……。

 

「分かった……」
「な、なにがだよ?」

「……きっとここは、大切な人に捨てられて命を自ら絶った人たちの魂が流れつく場所なんです。

皆待っているんです。自分をかつて捨てた人が、やっぱり迎えにきてくれるのを。

さっきの女性はきっと生前ナホという名前で、恋人かなんかがユウヤだったんでしょう。死して我を失い、ユウヤと瓦落くんを間違えているんです」

「んなこと言って、どうすりゃ良いんだよ!お、俺にユウヤの代わりになれってのかよ!」

憔悴した表情で瓦落くんは叫んだ。
僕は首を振った。

「瓦落くんがユウヤではないと知らしめるんです。僕に任せて」

ハッとした顔で僕を見つめた瓦落くん。

僕は腕時計を確認する。時間がない。こんなんじゃあっという間に期限の7日が経ってしまう。

僕は瓦落くんの手を引いて歩き出した。

 

◇◇◇

「……ユウヤ、おい、ユウヤあ!」

またホームに戻ってきてあたりを彷徨いながら、
瓦落くんが声を張り上げる。

僕をユウヤと呼べ、と彼に命じたのだ。

あの女の死霊の狙いは瓦落くん。ユウヤと間違えているからだ。

ならば僕こそがユウヤだと勘違いさせれば、とりあえずは瓦落くんへの呪いは消えるだろう。

僕が呪いを引き受けてしまえば、彼は解放される。

そう説明した時。瓦落くんは顔色を変えて抗議してきた。

『お、お前、意味分かって言ってんのか!?正気かよ、ただの通りすがりの俺の呪いを身代わりに受けるなんてよ!どうかしてるぜ!!』

『それが僕のおつとめなんですよ』

そう言い交わしたけれど、彼は全く納得できていない顔だった。

不良風だけど、根は優しい子なのかもしれない。呪いを押し付けてラッキーと感じる人だって過去にはいたのにね。

まあ、そんな彼を説き伏せて今こうユウヤと僕を呼ばせている。怨霊を呼び寄せるためだ。

 

瓦落くんはいつまでも無駄に声を張り上げる必要はなかった。

…ドクンと心臓が鳴る。悪寒が肌にまとわりついた。

来た!

目の前にあの白い怨霊の女が現れた!

『……ユウ、ヤ……?』
「僕がユウヤだよ、待たせてごめん」

僕は両手を広げてそう言った。

来い、来い、こっちに来い!

『ユウヤ……』

ふわふわり、しかしおどろおどろしい女の死霊は僕に向かって抱きつかんばかりに近寄ってきた。

よし、狙い通り……!

「(……彼岸……!)」

顔を真っ青にして僕を案じている瓦落くん。無理もない。

 

一方僕は、ギリと手元の小さな刃物の感触を確かめた。

これは怨霊に効果のある小刀。怨霊を切り裂くことが出来る。油断させて突き刺す。これが僕の払い方だった。

 

「待たせてごめん、ナホ」
『ユウヤあ……!』

今まさに女の死霊を抱き、背後から刺そうとした時。ハタ、と見えない力で手が押し戻された。

『ユウヤ。アタシ、刺すの?ステル?また?前とオンナジ!!!』

一瞬で死霊の憎悪が膨らむ。
ヤバい!と思うと同時に、死霊は一気に化け物のような姿に変身した!

 

『イヤアアア!!!!ユウヤア!!!!!』

この世の終わりともつかない激しい音量に耳がビリビリと痺れる。

その時。突如轟音と共にホームに電車が入ってきた。

怨霊の感情の揺らぎが影響でもするのだろうか。

詳しい理由なんか分からない!

だけど電車の電光掲示板には渋谷行きと案内が出ている!今しかない!

「っが、瓦落くん!アレに乗って!」
「おっお前はどうすんだよ!」
「僕はどうでも良いです!早く!!逃げて!君だけでも!!!!」

一瞬迷って走りだした瓦落くん。それだけ見送って僕は女の死霊に向き直る。

『騙した、騙した!また騙した!!!アタシをまた捨てるの、ユウヤああ!!!』

宙を舞う悪霊は、憎悪に燃えている。

それを見て、小刀を持つ手がぶるぶる震える。

コイツはここでどうにか消滅させなきゃ。僕が今殺される。

やられる前にやれ、今すぐだ!

「ああああああ!!!!!!」

走り出した、悪霊めがけて!

だけど悪霊の飛ばした石つぶてが身体中に当たり、僕は弾き飛ばされた。小刀なカランと飛ぶ。

『ユウヤ、ずっと、イッショ!!!』

歪に笑う死霊の、無数の歯が目前に迫る。かぱと口を開けている。バクンと食べられる一瞬先の未来が見えた。

 

ダメだ、助からないーーー。

 

そう覚悟を決めた時。

「らああああ!!!!!!!」

瓦落くんが落ちた小刀な拾い上げ、死霊に突き刺した!しかし慣れない小刀、致命傷にはならない!

『アアアアアアアア!!!!!』

耳をつんざく轟音の様な悲鳴が響いた。女のものだ。

「瓦落くん、どうしてっ!」
「お前1人置いていけっかぁ!!!」

瓦落くんは死霊に向き直った。

「ナホ!よく聞け!!!!俺はユウヤじゃない、コイツもだ!

ナホ、自分捨てたヤツをいつまでも惨めに待ってんじゃねーよ!!!自分を惨めにしてんのは自分だろ!!!!だせえ真似すんな!!!!生まれ変わってみせろよ!!!お前にはその価値があるって、今度こそ証明してみせろよ!!!!!!」

『ガアアアアアア!!!!!!!!』

もがき苦しむ女の声。
同時にジリリリリ!と発車ベルが鳴る。

『渋谷行き、発車します』

時間はもうない。

「おい、立て!!」
「……!!!」

瓦落くんに無理やり引きずられる様にして必死に走り出す。僕らは電車に飛び乗った。きさらぎ駅から、渋谷駅に向かうーーー。

 

◇◇◇

 

「お客さん!終点だよ」

ハッと飛び起きた。いつの間にか気を失っていたらしい。

車掌さんが無愛想にこちらを見下ろしている。途端に流れ込んでくる周囲の喧騒。

瓦落くんは僕に寄りかかるようにして眠っていた。

 

渋谷駅とある。

……帰って来れた……。

 

心底ホッとした。崩れ落ちそうになるのを逞しい力で支えてくれた人がいた。瓦落くんだった。

「あ、ありがとう……」
「お互い様だろ……」

 

◇◇◇

結局のところ、あの死霊を祓えたのかは分からない。でも、僕らは無事に帰って来れて、頭の中で女の声もしないし、いつの間にか例の定期入れは瓦落くんのポケットに入っていたし。

これらを鑑みるに、多分祓えたのだろう。

霊力のある小刀によってではなく最後は瓦落くんの心からの言葉によって……。

ファミレスで時間を潰し、明け方5時代の始発を
待つまでの間。

疲れでぐっすり眠る瓦落くんの寝顔を見て、すこし苦笑した。

死霊祓いが助けられちゃダメだよね。

でも勉強になったよ。ありがとう、瓦落くん。君はただの不良じゃなかったね。

 

 

 

始発の時間がやって来た。

ふたり、ホームは別だった。

「あ、じゃあ。僕こっちなので。お疲れ様でした。もう大丈夫だと思いますから、よく家で休んでくださいね。それじゃ……」

そう言って去っていこうとしたらぐいと袖を引っ張られた。

「おい、何さっさと帰ろうとしてんだよ。連絡先ぐらい教えろよ。ってかその敬語やめろ」

「え?あ……うん」

言われるがまま携帯を出して連絡先を交換した。

「今回はありがとな、ほんと」
「あ、いや。最後は瓦落くんのおかげだから」

「俺のために身体張ったヤツがいたから俺もああ出来ただけ。ホントにお互いさまだろ。

なあ、近々またどっかで会おうぜ。学校いつ暇……ってお前学校行ってねえんだっけ。

なんで行ってねーの。死霊払いが忙しいから?」

真顔で言われて苦笑した。

「ううん。僕、彼岸て苗字でしょ。

それで中学の時に彼岸花を毎日机に置かれてイジメられて不登校になって、学校はそれっきり」

目を少し見開いた瓦落くん。ショック受けさせちゃったかな。

すこし目を伏せて彼は言った。

「いるよな、くだらねえことするヤツら。俺が焼き入れてきてやろうか」

「え?あ、いいよ。もう。学校行かないなら行かない方が楽だし。それにこの先大学とかどうせいいかないし」

特に人生に希望などないのだ。

瓦落くんはふうんと頷いた。

「ま、俺も大学行くことはねえな。変なとこで気が合うな俺ら。

はあ。ま、今日のところはこれで解散。

また連絡する。俺のことブロックすんなよ。したら殺すからな。

じゃあな、由真」

クールな不良くんはそう言って帰って行った。

後ろ姿は背が高くてやっぱり格好良かった。

 

僕も反対側に歩き出す。

由真呼びって、友達だと思って良いのかな?

……内心暖かい気持ちが湧きあがるのが我慢できなかった。

また連絡する、ってホント……?

今までは怨霊祓いしても、誰もそれっきり。感謝はすれど誰も僕には近寄らなかった。

霊感強くて周囲を怖がらせ、彼岸花みたいな苗字で、友達なんかずっといなかった!

 

でも彼は違うらしい。

ずっと友達ができなかった僕に、久しぶりに友達っぽい人が出来た瞬間だった。

でもこんな僕に友達なんてな……。

それはそれでズキリと胸が痛む。

 

電車に乗る。

明け方5時代の空は、一際まぶしく感じられた。

いいや、今だけは友達ができたことを喜ぼう。そう思って、目を閉じた。

 

 

 

続く

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