オメガバース

【stardust#17】あなたにもう一度会いたい

※ひかり視点です。

梓も声も失って、ライバルを蹴落とすなんて芸当は結局出来なかった僕。

欲しがりなくせに臆病で、変なところでお人好し。だから結局何も手に入れられない。そんな僕が、僕は心底大嫌いになった。

それに・・これから確実に来る梓と雨宮先生が番になる未来を考えると、毎分毎秒胸が張り裂けそうだった。いやだ、来るな、来るなそんな未来!!そう念じては、夜中にガバと悪夢を見て起き上がった。

 

自分が心身ともに追い詰められていることに気づいたのは、ある日の朝だった。

ある朝。部屋でペットボトルの水を飲もうとしてカタンと倒した。

透明な水が机の上にしくしくと広がっていくのを見て、僕はそれを止められなかったのだ。

僕の代わりに泣いている。
そう思っている自分に気がついた。

 

だから、僕は学校を辞める決意をした。

 

『悲しみの先』

 

 

学校を辞めるなら早い方が良い。

そう思って部屋で退学届を書いていたら、後ろからパッと取り上げられた。高崎くんだった。

「・・学校辞めるの?」

怜悧な瞳に見つめられて、僕はバツが悪かった。逃げるのか?と言われてる様な気がして。

ふ〜ん・・と何やら高崎くんは頭の中で考えてから切り出してきた。

「・・僕もここのところしんどくて、実は休学しようかなってちょうど思ってたところなんだよね。僕も一緒に休学届、出しにいくよ」

え・・

意外だった。高崎くんは僕に悩んでいる素振りなんて見せなかったから。心優しいルームメイトの悩みにすら気づいてあげられなかった自分の鈍感さを、呪った。

 

 

僕は退学届、高崎くんは休学届。2人で作ってその日の内に職員室に持ってって、雨宮先生の机に置いた。

ロクに後先考えずにそんな届を出すなんて、あらためて考えてみれば馬鹿げていたのだけれど。

次の日。雨宮先生に当然2人して呼び出された。

「これどういうことなの・・?」

すごく心配そうに言われて胸がズキズキと痛んだ。だって僕が欲しいものはもう手に入らないから。先生が梓を持っていくから。

・・なんて。きっと先生だって分かっているのだろうな・・。

話せない僕に代わって、高崎くんが上手い事アレコレと説明してくれた。

「・・星屑くんは声が出ないことがやっぱり心底辛いらしいんです。

僕も僕で・・以前、番を亡くしたんですけど。そのことから未だ立ち直れていなくて、すごく辛くなる時があって・・」

高崎くん、そうだったのか・・。

うなだれながら話す彼に、雨宮先生はかなり同情していて・・ウ〜ンと唸ったあと、こう言った。

「そしたらさ、学校をとりあえず今日から1ヶ月くらいお休みしてみるの、どう?それならギリギリ星屑くんも留年せずに済むし。

本当に退学や休学をするのかは、それから決めても良いでしょ!ね!」

 

そんな風にして、僕らは部屋に返されてしまった。2人並んで廊下を歩いた。教室へ向かう生徒達とは逆方向へ向かって。

 

 

脱出失敗だったなあ・・なんてうまく働かない頭でぼんやり考えていた。最近考えがまとまらない・・。

高崎くんも大丈夫だろうか。と思っていたら。

寮の部屋の扉をバタンと閉めるなり、高崎くんは言った。

「・・まあこれで学校から1ヶ月、僕らは正式にお休みを頂いた訳だよ。狙い通りさ。

ってことでさ。しばらく僕の実家、遊びに来てみない?」

え・・?僕は高崎くんを見上げた。

「いやさ、最初から1ヶ月くらい学校休みたいですって言っちゃうと、もっと頑張れとか言われるじゃん。

でも学校辞めます、とか休学します・・って思い詰めた顔して言えば、じゃあ1ヶ月くらいなら休んで良いよってなるでしょ。

ね、星屑くん。先生の言う通りいきなり学校辞めることはない。

1ヶ月さ、ゆっくり休みながら考えようじゃないか。僕も付き合うよ」

え・・

「ね!2人してちょっとお休みしよ」

そう言って高崎くんはニコと笑った。

 

・・後で知ったけど、高崎くんは僕のために少し嘘をついてくれていたのだ。

番を亡くしてまだ立ち直れていないのは本当、でもだから学校を休学したいっていうのは嘘だった。

どうしてこんな風に親身になってくれるのか、僕は分からないでいたけれど。

 

 

そこから話はトントンと進み、僕は本当に高崎くんの実家にしばらくお世話になることになってしまった。

高崎くんの実家が病院を経営していたのもあって、僕の両親も何も反対しなかったのだ。

 

寮を出る日、校門のところで学園を振り返った。

梓。またいつか会えるかな。

でも次に会う時、君はもう・・。

 

 

訪れた高崎くんの実家は、空気の綺麗な田舎にあった。近くに畑があって毎日野菜と果物が取れるらしかった。お母さんは少しふくよかな優しそうなおばさまで、お父さんはちょっと厳しそうだけどそれは愛ある感じで・・

子供部屋にしてはあまりに広い部屋で、高崎くんと僕は一緒に過ごすことになった。

何か高そうなピアノ、大量に楽譜の並んだ棚。好きな時間に起きて好きにピアノでも弾いて過ごして良い。そんな贅沢な自由をもらってしまった。

 

高崎くんの部屋で最初に過ごす夜。

僕は梓のことを考えていた。

梓。いまどこで何をしてるの・・。雨宮先生をその手に抱いているのかい・・?

物理的に離れていると、もっと会いたくなってしまうんだね。

寂しいよ、梓・・。

 

沈んでいる僕を見かねたのか、励まそうとしてくれたのか。

高崎くんが何曲か弾いてくれた。クラシックの名曲が、僕の心を癒していく・・。

落ち込まないでと心を直接撫でられている様な感じで、言葉じゃないから届くものがあった。

何も感謝の言葉は伝えられないから、せめて小さくパチパチと拍手した。

 

そんな僕を高崎くんは振り返った。

ベッドの淵に座る僕をじっと見つめてきて・・

ちょっと不思議に思っていると。

 

「・・いや、僕の昔の番も同じ様なことしてたな〜って。懐かしくなっただけだよ。
会いたいなって、やっぱり思うよね・・」

ふ、と笑ってみせた高崎くんが、僕にはすごく寂しかった。

僕にはほんの少しだけ分かるよ、その気持ち・・。

 

 

僕は歌うことは出来ないから、ただ高崎くんがピアノ弾いてるのを見つめているだけだったある日。

ピアノ用の椅子に座って、さあ弾くぞという時。

あ、そういえばとくるりと振り返って、彼は言った。

「ところで久しぶりにちょっと歌ってみない」

え・・

歌いたいけど、無理だよ。そう言わんとして眉を下げた僕に、高崎くんは優しく続けた。

「声を出さなきゃって思わなくて良いし、声が出たら出たで下手でも良い。
心の中で歌ってみてよ。ここでは誰も講評なんかしないから」

ふふと目を細めて笑う高崎くん。笑うと目がなくなるんだよね・・その笑顔に最近ちょっと、ホッとしている。

 

僕はふと肩の荷が降りた。そうか、別に採点されないから下手でも良いのか・・。

 

「まあ、さあどうぞって言われるとやっぱり緊張するだろうし。僕は僕で好きにピアノ弾いてるよ。星屑くんはそれに合わせて歌ってみても良いし、頭の中で全然別の曲歌ってても良い。
お互い自由ってことにしよ」

そう言ってニコと笑うと、高崎くんはピアノを弾き始めた。

「星屑くんには特別に聴かせてあげよう。・・番を亡くした時に作った曲だよ」

白くて長い指先が音を奏でていく。それは透明感があって癒してくれる様な音色。

沁みるメロディだった。高崎くんはこれを当時どんな想いで作ったのだろう。もしも梓に同じことが起きたら、僕だったら耐えられない。

でもそれが実際その身に起きた高崎くんを思うと、胸が押し潰された。

曲のテーマになっている切ないメロディは何度も繰り返された。

これは『あなたに会いたい』って何度も伝えているんだろうか。
それとも『守れなくてごめん』なのか。
『僕もそっちに行きたい』なのか。

あるいはそれら全てなのか・・

あふれるような切なさに、僕の梓への想いもシンクロしてしまって・・

『あなたにもう一度会いたい』

ついつい、こぼれる様に歌った。歌ってしまった。

それはかすかす声のごく小さなメロディだったけれど、僕が久しぶりに自分の声を取り戻した瞬間だった。

 

 

高崎くんのピアノに合わせて、僕は自由に歌う。これが最高のリハビリになった。

出始めた声はひどくガサガサで、当初は音程も酷いものだったけれど。でも一度声が出始めれば、その後ぐんぐんと僕の音域と声量は増していった。

高崎くんの弾くピアノの音色はバリエーション豊かで、叙情的なもの、ポップで楽しいもの、壮大なもの・・何でもあった。

歌うことは楽しいものであると、久しぶりに思い出させてくれた。

 

良かったねと目を細めて笑う高崎くん。
僕は人生で初めて、梓以外のちゃんとした友達が出来た。

 

ある日の晩。夕食後にベランダから2人で並んで星を見ていた。空気が澄んでいて、すごく綺麗に見えた。

「・・綺麗だね」
「うん」

「・・僕の番はさ、歌手志望だったんだ。それで東京まで有名な先生のとこに毎週レッスンに通ってたんだけど。その時に交通事故に遭って・・即死で苦しまないで済んだのが唯一の救いでさ」
「・・そっか・・」

「・・でも運命って残酷だよね・・」
うん、うんと頷くしか僕には出来なかった。

胸がただただ苦しい。
運命に引き裂かれる気持ち・・僕と重なるものがあった。

星を見上げて彼は言う。

「僕の番も見てるかな、この星・・」
「きっと見てるよ」
「せめて、番が安らかでいられるように、僕は毎日ピアノを弾いてるんだ。番に届きますようにって」
「届いてるよ、絶対・・!」

 

離れてても相手の幸せを願っている高崎くん。

そうだよね。
僕も梓に、せめてそう願えたら・・。

 

 

それから歌とピアノ漬けの日々を重ねていたある時。
高崎くんは言った。

「そういえばさあ、今度歌のコンテストあるんだけど、良かったら出てみない?」

「え・・」

「オリジナルの音源で出すんだって。新人発掘オーディションみたいなやつだよ。僕ピアノ弾くし」

「ええ・・?高崎くんはさておき、僕なんかが出ても良いのかなあ?」

「落選したって失うものないしさ。
・・それに、僕。番を亡くした時に作った曲を、君にちゃんと歌ってみて欲しいんだ。君なら僕の気持ち、分かってくれるだろう・・?

詩は自由に作って良いからさ。

星屑くんの歌は良い・・本当だよ」

 

そんな大事なものを預けてくれるなんて、良いのかい。僕はそれから少し悩んだけど、やってみることにした。

高崎くんの部屋で、彼がピアノを弾いている間。

僕は空白のノートとペンを前に考えた。

どう表現したら良いんだろう。

『あの人』が大好きだった気持ちを。
大好きな人を失ってしまった悲しみを。
それでも側にいたい、そんな気持ちを。

高崎くんの大事な曲。彼の想いを踏みにじらない様に、丁寧に言葉を選んでいく。

僕自身の気持ちも重ねながら・・。

 

随分悩んだけど、出来た歌詞を恐る恐る持っていったら、高崎くんは喜んで気に入ってくれた。良かったとホッと胸を撫で下ろした。

「良いね!これで録音して出してみよう。

これならきっと・・綾人も喜ぶよ。ありがとう、星屑くん。いや、ひかりくん」

 

じゃあ僕も透くんて呼ぶねと言って、2人で笑い合った。

 

 

その後、ありったけの想いで歌って音源をとった。

それは僕個人としては梓へ宛てた、読まれる予定のないラブレターのつもりだった。だから全霊で歌い上げたのだけれど。

 

・・聴かせる予定はない歌ほど、届いてしまうものみたいだった。

 

 

続く

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