オメガバース

【stardust#5】誰かの嫉妬が向かう先

梓と並んで歩く廊下。寮への帰り道。

梓がやたらイチャイチャとくっついてくるせいで、周りの人に好奇の目で見られている。ある者は叫び声をあげ、またある者は涙を溢し・・

ホント皆ごめん。そろそろ果たし状でも来ちゃったりして。・・ありそうで笑えない。

だから僕は自分の気をどうにか現実から逸らすべく、梓に以前から気になっていたことを雑談混じりに聞いてみた。

「・・そういえばさあ、オメガのフェロモンてどんな感じなの?結構その、良い感じ・・?」

梓はその匂いにドキドキしたりするの?

「んー?オメガのフェロモンて甘い香りがするんだよ。甘い香りっていっても個人差あって、花みたいな匂いの人とか、蜂蜜っぽい人とか色々いるね。

運命のオメガだと特に好きな匂いに感じる、なんて説もあるらしいけど。どうなんだかね」

「へえ、そうなんだ・・」

 

じゃあさっき梓のこと取り囲んでたオメガの子達に、気になる匂いの子とか、好きな匂いの子いた?なんて僕には聞けなかった。

だってあんなにオメガがいたし、1人くらい気にいる匂いの子がいてもおかしくないから。

それに音楽コースのオメガの子達の中にも、梓を好ましく思った人だっているだろうから。

 

『挑戦状』

 

 

相部屋に戻ってくると、僕はバタンとベットに寝転んで瞳を閉じた。今日は色々あって疲れていた。その元凶の一つと同じ部屋なんだけど。

「ひかりぃ。寝ちゃうの?」
「んー・・うたた寝しようかな・・的な・・」

そう言うと突然、隣にボスンと何かが寝転んできて目を開けた。梓だった。間近にその美しい顔を見てびっくりしてドキドキしてしまった。

「・・1人用のベッドなので。あっちいって」
「ねー・・朝の続きは?」

ドキンと心臓が跳ねた。背を向ける。頬が熱かった。

「しない」
「えー!?何で」
「・・気が変わったの」
「ひかりの鬼!詐欺師!!!今日一日楽しみにしてたのに!!!」
「怖いんだけど」

グイと何か硬いものを押し付けられて僕はヒッと慌てた。ねえー!とめげない梓に肘鉄を食らわす。

「・・明日もレッスンあるし!その・・体調とか喉になんかあると困っちゃうの!
ただでさえベータで肩身せまいからさ。・・梓なら分かってくれるよね?」

こういえば根は優しい梓は納得するはず。
予想通り、ぐぬぬ・・と梓は唸って引き下がった。

「・・あーあ。俺、音楽の先生になろうかなーそしたらひかり独り占めだもんなー」

僕を後ろから抱きしめて梓は呟いた。
なにそれとふふと僕は笑った。ここまでは良かったのだが。

「・・てかさ、あの音楽の先生やたら美青年だね。美しいっていうか綺麗っていうか」

心臓がドキンとまた跳ねた。これは悪い意味のやつだ。

「え・・雨宮先生のこと?」
「雨宮先生っていうんだ?モテそうだよねー、何かさ。あの先生ってアルファ?」
「いや・・オメガだけど」
「番っているのかな」
「え・・その、まだヒート来たことないらしいから、アルファと番ってことはないんじゃないかな・・」

そんなこと聞いてどうするの梓。まさか・・。

雨宮先生、今度紹介してとか?
雨宮先生の好きなタイプ聞いておいてとか?

嫌な汗が背を伝うのを感じながら、梓の発言を待った。

「・・ふーん。そりゃ困ったな」

ん?

「何で梓が困る訳?」
「・・雨宮先生にひかり盗られたら嫌だから」
「はあ?」

意図を測りかねて振り返った。不安気な瞳と目が合った。不安に形を歪ませていても、尚綺麗な形の瞳。

「美形でまだ若くてさあ、ひかりに音楽を教えるスキルがあって・・ひかりが憧れを持つ理由が沢山ある」

何とも言えない僕に、梓は続けた。

「ヒートの来ないオメガ、ってさっき言ってたけど。じゃあ尚更相手はベータでも構わないよな?雨宮先生は、ひかりを気にいるかもしれない。

帰り際、じっとひかりのこと見てたし」

いや見てたのは梓の方だけど・・!

「・・いや、いや!!ないから!!!!」

ちょっと頭がショートしちゃったけど、全力で否定した。あり得ないから!!

「ないとは言い切れない。幼馴染の俺にはさ、ひかりの良さがよく分かる・・」

真面目にそう言ってのけた梓。

「・・梓は恋に盲目過ぎるんだ」

それだけ返した。

「俺、今度から毎回レッスンの日は授業終わりに迎えに行くから。雨宮先生を監視しよう」

「・・勝手にしたら」

 

梓が僕を認めてくれるのは嬉しい。でも僕はそんな素晴らしい人間じゃないし・・運命の番でもない。

梓にはいずれ、僕なんかよりもっと素晴らしくて恋愛感情が湧く相手が現れる。僕らは今だけの関係、それが現実ってやつで・・

僕は嬉しい気持ちを丸め、そっと心の中のゴミ箱へと捨てた。

 

 

その日はその後、食堂で晩御飯食べて、お風呂入って。

夜は何となくスマホ見たりダラダラとしていた。それは夜21時を回った時のことだった。

梓は別の友達の部屋に用事があって行っていて丁度いなかった。

突然、部屋の扉がカタンと少し揺れた。

「!・・梓・・?」

でも扉は開くことなく、そっと扉の下に何かを差し入れられた。それは手紙の様だった。

バタバタと人が走り去って行く音が聞こえた。

・・?

意味不明な手紙。何か嫌な予感がしつつ、でも怖いものみたさもあって僕は開けることにした。

机に座り、ハサミで端っこを切って封を開けた。

「ー・・!!」

開けた途端にザララ!っていくつか出てきたのは虫ピン。中には1通の紙切れ。

「何これ・・」

目を通して僕は唖然とした。どうしよう、こんなんどうしたら・・!

 

その時。バタンと音がして振り返る。丁度梓が部屋に帰ってきた。
「おそくなってごめんね、ひかり!」

僕は超スピードで虫ピンを手で払って集め、ノートの下に隠した。手がチクチクと痛んだ。

「・・あ、おかえり梓。もっとゆっくりしても良かったのに」

何でもない風に声を掛けた。こんなん、気づかれちゃいけない。

「だって俺たち番じゃん。少しでも一緒に過ごしたいし」

「何言ってんだよ梓ぁ。出来立てカップルじゃあるまいし」

ケラケラと笑ってみる。

自分の身に起きたことを笑い飛ばしたかったから。

 

 

さっきの手紙の内容が『灰原梓と番を解消しろ。さもなくば突き落とす。覚悟しろ』だったから。

 

 

続く

【stardust#6】突き落とすなんて無理だと思っていた・・あんな手紙、なんてことないさ。朝方、階段から滑り落ちて天に召される夢を2回程見たけど、僕は別にそんな気にしちゃいない。 手紙で...
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