梓と並んで歩く廊下。寮への帰り道。
梓がやたらイチャイチャとくっついてくるせいで、周りの人に好奇の目で見られている。ある者は叫び声をあげ、またある者は涙を溢し・・
ホント皆ごめん。そろそろ果たし状でも来ちゃったりして。・・ありそうで笑えない。
だから僕は自分の気をどうにか現実から逸らすべく、梓に以前から気になっていたことを雑談混じりに聞いてみた。
「・・そういえばさあ、オメガのフェロモンてどんな感じなの?結構その、良い感じ・・?」
梓はその匂いにドキドキしたりするの?
「んー?オメガのフェロモンて甘い香りがするんだよ。甘い香りっていっても個人差あって、花みたいな匂いの人とか、蜂蜜っぽい人とか色々いるね。
運命のオメガだと特に好きな匂いに感じる、なんて説もあるらしいけど。どうなんだかね」
「へえ、そうなんだ・・」
じゃあさっき梓のこと取り囲んでたオメガの子達に、気になる匂いの子とか、好きな匂いの子いた?なんて僕には聞けなかった。
だってあんなにオメガがいたし、1人くらい気にいる匂いの子がいてもおかしくないから。
それに音楽コースのオメガの子達の中にも、梓を好ましく思った人だっているだろうから。
『挑戦状』
相部屋に戻ってくると、僕はバタンとベットに寝転んで瞳を閉じた。今日は色々あって疲れていた。その元凶の一つと同じ部屋なんだけど。
「ひかりぃ。寝ちゃうの?」
「んー・・うたた寝しようかな・・的な・・」
そう言うと突然、隣にボスンと何かが寝転んできて目を開けた。梓だった。間近にその美しい顔を見てびっくりしてドキドキしてしまった。
「・・1人用のベッドなので。あっちいって」
「ねー・・朝の続きは?」
ドキンと心臓が跳ねた。背を向ける。頬が熱かった。
「しない」
「えー!?何で」
「・・気が変わったの」
「ひかりの鬼!詐欺師!!!今日一日楽しみにしてたのに!!!」
「怖いんだけど」
グイと何か硬いものを押し付けられて僕はヒッと慌てた。ねえー!とめげない梓に肘鉄を食らわす。
「・・明日もレッスンあるし!その・・体調とか喉になんかあると困っちゃうの!
ただでさえベータで肩身せまいからさ。・・梓なら分かってくれるよね?」
こういえば根は優しい梓は納得するはず。
予想通り、ぐぬぬ・・と梓は唸って引き下がった。
「・・あーあ。俺、音楽の先生になろうかなーそしたらひかり独り占めだもんなー」
僕を後ろから抱きしめて梓は呟いた。
なにそれとふふと僕は笑った。ここまでは良かったのだが。
「・・てかさ、あの音楽の先生やたら美青年だね。美しいっていうか綺麗っていうか」
心臓がドキンとまた跳ねた。これは悪い意味のやつだ。
「え・・雨宮先生のこと?」
「雨宮先生っていうんだ?モテそうだよねー、何かさ。あの先生ってアルファ?」
「いや・・オメガだけど」
「番っているのかな」
「え・・その、まだヒート来たことないらしいから、アルファと番ってことはないんじゃないかな・・」
そんなこと聞いてどうするの梓。まさか・・。
雨宮先生、今度紹介してとか?
雨宮先生の好きなタイプ聞いておいてとか?
嫌な汗が背を伝うのを感じながら、梓の発言を待った。
「・・ふーん。そりゃ困ったな」
ん?
「何で梓が困る訳?」
「・・雨宮先生にひかり盗られたら嫌だから」
「はあ?」
意図を測りかねて振り返った。不安気な瞳と目が合った。不安に形を歪ませていても、尚綺麗な形の瞳。
「美形でまだ若くてさあ、ひかりに音楽を教えるスキルがあって・・ひかりが憧れを持つ理由が沢山ある」
何とも言えない僕に、梓は続けた。
「ヒートの来ないオメガ、ってさっき言ってたけど。じゃあ尚更相手はベータでも構わないよな?雨宮先生は、ひかりを気にいるかもしれない。
帰り際、じっとひかりのこと見てたし」
いや見てたのは梓の方だけど・・!
「・・いや、いや!!ないから!!!!」
ちょっと頭がショートしちゃったけど、全力で否定した。あり得ないから!!
「ないとは言い切れない。幼馴染の俺にはさ、ひかりの良さがよく分かる・・」
真面目にそう言ってのけた梓。
「・・梓は恋に盲目過ぎるんだ」
それだけ返した。
「俺、今度から毎回レッスンの日は授業終わりに迎えに行くから。雨宮先生を監視しよう」
「・・勝手にしたら」
梓が僕を認めてくれるのは嬉しい。でも僕はそんな素晴らしい人間じゃないし・・運命の番でもない。
梓にはいずれ、僕なんかよりもっと素晴らしくて恋愛感情が湧く相手が現れる。僕らは今だけの関係、それが現実ってやつで・・
僕は嬉しい気持ちを丸め、そっと心の中のゴミ箱へと捨てた。
その日はその後、食堂で晩御飯食べて、お風呂入って。
夜は何となくスマホ見たりダラダラとしていた。それは夜21時を回った時のことだった。
梓は別の友達の部屋に用事があって行っていて丁度いなかった。
突然、部屋の扉がカタンと少し揺れた。
「!・・梓・・?」
でも扉は開くことなく、そっと扉の下に何かを差し入れられた。それは手紙の様だった。
バタバタと人が走り去って行く音が聞こえた。
・・?
意味不明な手紙。何か嫌な予感がしつつ、でも怖いものみたさもあって僕は開けることにした。
机に座り、ハサミで端っこを切って封を開けた。
「ー・・!!」
開けた途端にザララ!っていくつか出てきたのは虫ピン。中には1通の紙切れ。
「何これ・・」
目を通して僕は唖然とした。どうしよう、こんなんどうしたら・・!
その時。バタンと音がして振り返る。丁度梓が部屋に帰ってきた。
「おそくなってごめんね、ひかり!」
僕は超スピードで虫ピンを手で払って集め、ノートの下に隠した。手がチクチクと痛んだ。
「・・あ、おかえり梓。もっとゆっくりしても良かったのに」
何でもない風に声を掛けた。こんなん、気づかれちゃいけない。
「だって俺たち番じゃん。少しでも一緒に過ごしたいし」
「何言ってんだよ梓ぁ。出来立てカップルじゃあるまいし」
ケラケラと笑ってみる。
自分の身に起きたことを笑い飛ばしたかったから。
さっきの手紙の内容が『灰原梓と番を解消しろ。さもなくば突き落とす。覚悟しろ』だったから。
続く

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