「雨宮先生はフリーのオメガだし、先生だし、美青年だし。あの先生相手なら誰も文句言わないだろ。
あっごめん、星屑くんがダメって意味じゃないんだけど。
でもどう?今パッと思いついたアイディアにしては悪くないだろ?カムフラージュするにはさ・・まあ任せるけどね」
じゃあそろそろ時間だからと立ち去っていった高崎くん。
残された梓と2人、顔を見合わせた。
梓と雨宮先生が付き合って・・みる?
『お試し交際』
翌日の職員室。
どうせ断られるだろうとダメ元で相談したアイディアは、拍子抜けする程簡単に『良いよ』と受け入れられた。
「えっ!?良いんですか雨宮先生・・!?」
「うん。灰原くんと番になった振りしとけば良いんでしょ。良いよ、そんなんで星屑くんを護れるならさ」
ふいに見つめられてドキッとした。優しくて美青年とか、ズル過ぎる。
「でも生徒と付き合ってるって、大丈夫なんですかね?何か処罰とかないんですか」
梓がう〜んと唸りながら聞いた。
「まあ・・過去に生徒と番になった先生もいなくはないし。運命なら仕方ないみたいなとこあるから・・。まあ大丈夫じゃない」
あっけらかんと先生は言う。
「はあ・・そっすかね・・」
納得しきっていない梓だった。ここに連れてくるまで大分揉めたもんな。他に良い方法ないからしぶしぶ来ただけで。
「・・あっでも!今日の明日のでやっぱ雨宮先生と番になります、だと怪しいし!カモフラージュ目的だろってバレたら意味ないし!?
とりあえず僕がひかりを構わず、雨宮先生に纏わりつく感じでどうですかね。番になったとかは言わず。
それで心変わりしたっぽい印象を周りに与えられれば、ひとまずそれで良いんじゃないかなって!
・・僕はひかりと番でいたいんです」
梓・・。
雨宮先生は、僕をチラリと見やりふふと笑った。愛されてるねって言われたみたいでなんか恥ずかしかった。
「別に僕はそれでも構わないよ?任せます」
そんな訳で話は纏まった。
これから僕は梓にフラれ、梓が雨宮先生にくっつく様を見ていることになるらしかった。
それから梓は本当に僕に構わなくなった。
そして目に見えて雨宮先生に纏わりつく様になった。
音楽コースの授業の日、全然関係ないはずの梓が授業終わりにやってきて、雨宮先生に『そのノートの山重いでしょう?僕、職員室に一緒に持っていきますよ』とか皆の前で言うんだ。
放課後もやたらに雨宮先生に絡みまくる。
あっという間に噂は広まった。
『灰原がやっと目を覚ました』
『理想の番』
『推せる』
などなど、正統派の美形同士のカップル(?)は歓迎された。(『ざまあ、クズ』っていう声もひそひそ聞こえてきたど。)
ちなみに先生にこっそり聞いてみたが、怪文書なんか全くこないらしい。・・僕と違って。
「いや、教師に怪文書送る勇気なんて普通ないから」
先生はそう言って僕をフォローしてくれたけど、ちょっぴり傷ついていた。
雨宮先生に変な迷惑がかかってないなら良いことだ。
でもさ、もし僕が雨宮先生の立場だったらそれでも怪文書、来たと思うからさ・・。
そうして過ごすこと数週間。
ありがたいことに嫌がらせは止み、2通目の手紙以降は何も来ていない。ズタズタにされることなくどうやら命拾いをしたらしかった。
しかしその代償として。僕はぽつんと1人過ごすことが多くなった。
梓とは同室ではあるものの、梓は夜は自習室に行って深夜まで勉強することが多くなった。朝も起きたらいない。
僕と一緒にいないってことを周囲に印象付けるためと、本人から聞いたから別に心配はしていないんだけど。
でも・・
あれだけ毎日ひかりひかりと煩かった梓が側を離れて雨宮先生に毎日べったり。僕は正直物凄く寂しかった。
だってお似合いなんだよ。キラキラしてるんだ、2人があまりにも。2人並んで歩く様は随分絵になっていて、カップルっぽいのも板についてきた。
きっと将来の梓と運命の番はあんな感じなんだろうなと思うと、グッサリと胸に来るものがあった。
自分が星屑どころかただのクズ石だと、思い知らされていく・・。
音楽コースの授業のある日。僕は美しい雨宮先生の授業を受けることがどうにも苦痛になってしまい、頭痛いと嘘をついて医務室へ行った。
いや、雨宮先生にこっちから協力をお願いした訳で、先生に嫉妬するとか頭おかしすぎるんだけどさ。
でも・・先生を見てるのが今は正直辛かった。先生を見ていると、胸がどうにもザワついてしょうがなかったんだ。
それにここの所よく眠れなくて体がいつも重くて・・。
疲れ切ってたんだ。だから授業を休むことを自分に許可した。
医務室のベッドで布団に包まれながらアレコレと考える。
・・あーあ。梓とはずっとちゃんと話せてないままだなあ・・。今日、寂しいよーとかLINE、してみる?昨日なんか珍しく既読スルーで、何もメッセージ返ってこなかったし。
でも寂しいって何だ?
僕のスタンス的には『梓はただの幼馴染、仮の番』な訳なんだから、寂しいとか言ったら気持ちがバレちゃうかもだし・・。
ああ・・でも・・。
なにか・・対策は・・。
・・。
「・・星屑くん」
その声にハッとした。高崎くんだった。いつの間にか眠っていたらしかった。
「あ、久しぶり・・」
「医務室行くって聞いて気になってさ・・大丈夫?」
「あ、うん平気だよ」
「・・まああんな話聞いたら寝込むよね・・。怒ってるかい」
心底申し訳なさそうに彼は言った。でも。
「え?あんな話って?何で怒るの、誰が誰に??」
「あれ、知らない?
昨日。灰原くんと雨宮先生がキスしてるとこ見ちゃったって人がいて。今随分噂になってるよ」
ザワ、と全身の肌が粟立った。
「もしかして本当に番になっちゃったのかな、って心配になってさ。それなら星屑くんには本当に悪いことしたなって思って・・」
「い、いや!それもカモフラの一環のはず、さ!」
自身に言い聞かせていた。
だ、だよねえと高崎くんは安堵の声をあげた。
「ホンモノの番じゃないのにキスまでして見せるって、灰原くんも随分体張るなあ。
星屑くんのためにそこまで、ってすごいよね」
感心した高崎くんに、あははと照れ笑いして見せたが心は死んでいた。
そうだよね、梓。そういうことで良いんだよね?ね、そうだって言って!
続く
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