しばらく父さんとは押し問答し、やがて電話は向こうから切れた。
『すまん寧々にはもう頼らん、先方にこれから家に来てもらう様に頼むから。いや心配するな大丈夫だからとにかく。じゃあ』
「あっちょっと父さん待っ… …!」
冷や汗が嫌な予感がする。いやこれは直感だ。
父さん、絶対闇金からお金を借りようとしている。
冷や汗がぶわと吹き出すのを感じた。
いや大丈夫って何が!?全然大丈夫じゃないよ!
こうしちゃいられないと僕は一目散に父さん達のところへ向かって走り出した。
電車に乗っている間も人をかき分けて路上を走っていく間も頭の中でアラートが鳴り止まない。
高額な借金はダメだ。あの鷹揚な昌也ですら変えてしまうんだから。間に合え僕!
◼️◼️◼️
「父さん!」
バン!と父さんたちの住む親戚の家を訪れ、家の中に駆け込んだ。
「……寧々!」
そのリビングにいたのは、黒ずくめのスーツを着た男数人。見るからにヤクザで、纏っているオーラの重さが尋常ではなかった。
僕に視線をやった男らの眼光にビク、と震えた。
ヒッと怯えたが自分を奮い立たせる。
その真ん中にいたのは、母さんと父さん。
「……今な、丁度サインしたところなんだ」
終わったと目眩がしたが耐えた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!父さん何考えてる訳!?」
「銀行の融資は借りれない、ずっと親戚の家にもいられない。こうするしかないんだ。すぐに返すから……な、寧々」
テーブルの上に置いてある紙。契約書あれか。一目散に書類に飛びついて破ろうとした!
「割り込みするな!」
でもダメだった。黒服の男の1人にさっと取り上げられて、余計なことをするなと一撃殴られた。
「寧々!」
「父さん黙ってて!!」
それでももがく僕を足蹴にして、男らは書類と交換に札束を何個もボン、ボン!と適当に置いていく。
こんなの受け取ったら終わりだ!
「お、お前ら!こんなの持って帰れよ!いらないんだよ!!契約なんか破棄だ!!」
僕の声はひっくり返っていた。取り立て屋の強引さを肌で知っていたから。僕はヤクザ男の手にお金を押し返そうとした。でもねじ返されて、また殴られて……。
「寧々、もう良いんだ!」
「くっお前らやめろ!良い加減にしろって……ぐ、痛い……」
僕がズタボロになってもう争う気力を失った時、勝ち誇った様に男の1人が言った。
「それじゃ期限までに返済頼みますよ。確実にね。じゃなきゃ倍返し、3倍返しと膨らみますからね」
奴らが帰った後父さんは言った。
『どうしてもまた2人で事業をやりたかった、結婚した時からふたりでやってきたラーメン屋の事業。色々揉めたりしたこともあったけど……母さんと歩んだ人生そのものだから』
と……。
◼️◼️◼️
僕はなんとも言えない気持ちで帰路についた。
魂を抜かれた、亡霊みたいな歩みだったと思う。
……ああ言われちゃどうしようもないよ。いや気持ちは分かるけどさ。なんで闇金行っちゃうんだよ。父さん向こう見ずなとこ、昔からあったもんな……。母さんと手を取り合ってラーメン屋またやるのは良いんだけどさあ。
ああ。あああああ……。
『父さんが闇金から借りちゃった。しかも数千万』
という事実が重くのし掛かる。ずっしりと両肩に……。
はあ、と深くため息を吐き、通行人がチラと目線を投げかけて行った。
それにしても一体どうしてウチはこうもお金に縁がないんだ。貧乏神が取り憑いているとしか思えない。あと浮気の神。なんてね……。
ああ。あああああ〜!!!
思わず叫びそうになって天を見上げた。鈍色の厚い雲がただ広がっていて、その圧迫感にまた真下を向いた。
ふざけて現実逃避するのももう限界だ。
胃がギリギリ痛む。
……。
……父さんが借りた闇金の社名、巽ん所じゃなかったんだ。
もし巽のとこから借りていたら、巽に土下座すればなんとかなるかもなんて浅はかな願いは打ち砕かれた。
しかもあの闇金の社名、巽と取り立てでしょっちゅうカチ合ってるとこだった。巽が殴り合いの喧嘩を制して勝ってきてるとこ。
闇金業として、巽に仲介を頼むのは絶望的だった。今までの恨みも合わせて巽が刺されかねない。
闇金の取り立てを無視すればこの親戚にも迷惑がかかる。居場所は知られている。僕らが逃げることは親戚を捨てるも同然だった。
それに僕の家族の危機。見捨てることなんてそもそも出来なかった。
どうすれば良い?
これは僕の身売りなどで済む話ではなかった。
それに仮に僕が巽の闇金からお金を借りたとして、父さんとこに返すなんて馬鹿げていた。それじゃ借金に利息が乗ってさらに火の車が加速するだけ。
……巽みたいに自己破産するしかないのかな。でも僕が借りた訳じゃないから僕が自己破産したとて無意味だ。
父さん母さんに自己破産してもらって……?でもそれで闇金の取り立てってちゃんと止むの!?
ああ、わからないことだらけだ。
どうしよう!どうしよう!?
「誰か……助けてよお!!」
つい路上で叫び声を上げてしまった哀れな僕をどうか許してほしい。
その時ちょうど電話が掛かってきた。
巽だった。
「!」
巽なら僕が知らないアイディアを授けてくれるかもしれない。一縷の望みをかけて僕は電話に出た。
「助けて巽……」
続く
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