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【あほんだら#13】ご破産

なぜ僕が巽の自己破産経験を知ることになったのかというと、経緯はこうだ。

巽とある日買い物に行った時。たまたま財布を忘れた僕は巽に何気なく言ったのだ。

「巽、ごめんお金貸してくれない?クレジットカードでも」

「俺クレカ持てないから。ほら万札やるから。返さなくて良いからな」

「え、え?」

その時は急いでいたし、何気ないやりとりだったけど『クレジットカードを持てない』という言葉が引っかかった。

巽が家にいないとき、その言葉をそのままウェブで検索したら自己破産というワードが飛び出してきて、僕はびっくりしたんだ。

思えば巽は債務整理だの自己破産手続きだの、そのあたりにやたら詳しかった。

それピンと来た。

闇金取り立て屋だから当たり前とも思ったけど、僕はある時冗談混じりっぽく聞いてみた。

「た、巽さあ、もしかして自己破産経験あったりして?」
「!」

そのとき巽はスッと表情を失って、ただ試すように僕を見つめた。振られることを恐れているようにも見えた。

巽には自己破産経験がある。きっとやっぱりそうなのだ。なんて声を掛けたら良いのか少し迷った。

巽は僕の幼馴染で、いつの頃からか道を違えて派手に変わっていったけど、あれはあのとき家庭になにか問題があったのかもしれない。

そのとき既に闇金取り立ての入口に彼は立っていたのかもしれない。

巽は僕の悩みを聞くことはあっても、僕に愚痴や悩みを吐露することはなかったから。鈍い僕はいつも巽に助けられてばかりいた。

「巽が自己破産してようと、地獄に住んでようと、だからって巽を嫌いになったりしないよ、そんな怯えた顔してないでこっち来なよ」

「…!」

巽はハッとした顔をして、それからぎゅっと僕を抱きしめた。

 

その後ベッドで彼は言った。

「……今まで言えなくてごめん。ウチは父さんの事業が一時上手くいかなくて……そのとき俺はどうにか親を助けたくて、ある男が持ちかけてきた投資話に飛びついた。持っている金を何倍にも増やせるって言われて……でも詐欺だったんだ。金は増えるどころか俺は何百万と借金を負った。

俺はバカだった、若かった、焦りすぎていた。返せるアテはもちろんない。自己破産するしかなかった。

寧々の家もラーメン屋やってたから分かるだろ。親が困っている姿を見るのは辛かった」

「巽……」

「俺がなあ、闇金取り立て屋なんかやっているのは詐欺野郎を苦しめるためだよ。詐欺師が弱者から巻き上げた金の何倍もの金額を、俺は詐欺師からむしり取る。

こんな思いはもうこりごりと詐欺師から足を洗ってもらえればそれで結構。海に沈めて欲しいならやってやるぜ。

どう?正義のヒーローみたいだろ。……なんてな、高額な借金・自己破産経験で感覚がおかしくなっただけだ。せめてヒーローぶらなきゃ自我が保てないってだけさ……」

巽は甘えるように僕を見つめた。

「それに昌也ん家はスゲー金持ちだったし、どう考えても選べるならあっちが良いだろ。自己破産したなんて寧々には絶対言えなかった……でもバレるときはバレるもんだな。自己破産経験あるの?って聞かれて終わったなと思った。いよいよ本当のご破産だと……」

僕は巽をよしよしと撫でた。

「今更自己破産なんて驚かないよ。ウチなんか実家全焼だよ。昌也といたから借金地獄も慣れてるよ。別に何が来たって驚かないよ。なんて僕も随分図太くなったなあ……」

ははと笑ってしまった。

「寧々がいてくれるなら闇金もやってて良かったな……いやここまで来たのは自己破産経験あったからか?あの時悩んだことも、こうして今に繋がってるなら良かったと思える。……ありがとう寧々、俺と出会ってくれて俺のところに来てくれて」

巽は感極まってしまい僕に背を向けた。それから巽はその日、僕を抱いて久しぶりによく眠った。結構短時間で目を覚ます人だったから、ただそういう性質なのだと思っていたけれど、色々な思いでただ眠りがつかえていただけだったんだなと僕は知った。

寝過ぎたと目を覚ました巽はすっきりとして、憑き物がどこか落ちたようにも見えた。

「寧々」

嬉しそうに僕を呼ぶ声に、なあにと答えると巽はやっぱり嬉しそうに笑った。

根がワンコな巽は、純朴なワンコらしさを取り戻したというべきか、更に懐かれて僕は参った。

 

一緒に暮らす巽は、それからも繰り返し何度も僕に言ってきた。

「寧々、借金だけはやめておけ。うまい投資話なんか全部詐欺だ。大金が必要な状況をまず作るな。困ったらまずは俺に相談するんだぞ、良いか……」

闇金取り立て屋が言うお説教はあまりに真っ当で、それはそれで少し面白かったりもしたのだけど、巽はいつも真剣に僕を諭した。

きっと色んな人を見てきたからだろう。自分もどん底にいたことがあるからだろう。

僕をどん底に行かせまいと護ろうとしてくれる気持ちだけは、いつも痛いほどに伝わってきた。

 

巽と僕はそれから仲睦まじく末長く暮らしましたとさ……と話が締めくくれたらどんなに良かっただろうか。

ところがまだまだ話は続くのである。

 

ある日、こんな電話が掛かってきたのだ。

「あ、父さん。どうしたの。え、またラーメン屋やるの?はあ、まあ親戚の家にもずっといれないしね……新店舗立てるからちょっと金貸してくれって……いや僕がそんな余裕ないのわかってるでしょうよ。うん。無理だよ。

そうそう、まともに銀行とかに融資を頼みなよ……え?もう借りるアテは作ってあるって?どこに。

何その金融機関。聞いたことないんだけど。それ銀行じゃなくない?え、大丈夫?

それ闇金とかじゃないでしょうね?」

 

 

 

続く

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