短編小説

【リクエスト】方言萌えの攻めくんvs絶対地方出身とバレたくない受けくん

出会いは合コンだった。大学1年生になって友達が開いてくれた合コンにその子はいた。

大人しそうながらも芯はありそうな凛とした感じ。少し長めの前髪がかかる目元はお人形さんみたいにぱちくりと綺麗な形で、マジ?ってくらいまつ毛が長い。

特筆すべきはとにかくその美貌だ。顔面偏差値がすごい。少し地味目だけど落ち着いた色合いの服装は、その美貌をむしろ際立たせている。

「初めまして、葵音っていいます」

はにかんだ笑顔が大層素晴らしい。俺もめちゃくちゃ微笑んでしまった。

「想太です、よろしく!」

「あ、えーと男同士で何その笑顔?」
「遼太は黙っとれ」

無粋なヤジを飛ばす旧友を俺は睨みつけた。

そう、葵音って子は男側参加者なのであ〜る……。

 

 

『素顔を見せて』

 

 

「ね〜葵音くんて出身どこなの?」
「えっと神奈川。生まれた時からずっと住んでるよ」

斜め前で行われている会話を盗み聞き。なるほど神奈川ね。脳に刻んだ。しかしハ〜ああいう子がめちゃ訛ってると激萌えなんだがそうは上手くいかないか。

わいきゃいと合コンはすぎていく。友達同士を適当に集めた男9人、女の子7人という大規模な飲み会だった。っていうか男、余りすぎ。

俺は隣に座って気楽にピーチフィズを飲んでいる幹事・遼太にヒソヒソと声をかけた。

「いや〜誰か紹介してよってお前に頼んで良かったわ。すげー顔広いじゃん、いやデカいかな?」
「うるさいよ」

友達の多い遼太は、とにかく大学であっちこっちに知り合いがいた。

「ねー葵音ちゃんめっちゃ良いじゃん」
「やっぱり葵音がお気に入りか。…ふ〜ん」
「なっなっ隣座りたいから席替えしてよ」
「自分でやれや」

てめ幹事だろとヘッドロックして了承させた。

その際に遼太はピーチフィズを俺のトレーナーに溢してきたので更にヘッドロックを強化してやった。

 

 

「かんぱ〜い♪ささ、葵音ちゃん飲んでよ!」
「あ、ありがとう!」

幹事・遼太と俺は保育園からの付き合いだ。ごねた結果、俺は今目あての席に座っている。

いやらしくならないように、極力チラッと自然に葵音ちゃんの方を見てみると、お酒は弱いのかちょっと首が赤くてかなりキュートだった。キュートって言ってる自分が自分で寒いが、葵音ちゃんを見ていると自然にそういう表現が浮かんだ。

俺も大分浮き足立っているな。そうこのカクテルの様にスイートにね。ふふ。

「やー、今回の飲み会は大所帯だね。どう?気疲れしてない?」
「うん大丈夫だよ、想太くんて気が利くんだね」
「そう!?」

食い気味にエヘヘェ!と笑みを溢してしまったためか、葵音ちゃんは苦笑気味にちょっと笑った。その笑顔に心の中でイイネを100回押しておいた。

「ね〜ところでさ、葵音ちゃんて地元は神奈川なんでしょ?さっき偶然聞いちゃってさあ」
「!……う、うん。そう」
「神奈川のどのあたりなの?」
「……えっえ〜と…どこだっけ…ごめんド忘れしちゃった」
「えぇ?」

そんなことある??ちょっと天然なんだなあイイネ×200回っと……。

「そんなことよりさ!想太くんは出身どこなの?」
「東京。最寄りは新宿駅」
「え」

目がまんまるになった葵音ちゃん。

「す、すごいんだね……」
「全然すごくないよ!ずっと昔から譲り受けてる土地ってだけだから!」
「……ヒッ……!」
「?」

葵音ちゃんはなぜか青い顔で喉を鳴らし、そこからあまり喋らず、ふとごめんトイレと旅立って行き、戻ってくるの遅いな〜大丈夫かな〜と心配していたら気づけば全然知らない席に合流していたのだ!!!

俺は焦ってもう一回隣に座るべく立ちあがろうとしたら、隣の男メンバーが酔った勢いで盛大にテーブルに転んだ。割れるグラス、こぼれ落ちる料理、ゲロりそうなその男。

「ちょっ誰か店員さん呼んで!あとふきんふきん!田城ここでゲロるなトイレまで持ち堪えろーーー!!」

俺はこれはイカンと周囲に声をかけ、ドタバタ片付けと田城のトイレ付き添いをしているうちに無情にも飲み会は終了したのである……!!!!

 

「あ〜あ……葵音ちゃんの連絡先聞く前に帰っちゃったよ……」
「クソダサだな」

遼太と並んで歩く帰り道。消沈する俺に遼太は冷たかった。

「仕方ないな〜ホラ。連絡先、LINE」
「かっ神!!!」
「じゃあ這いつくばって俺の靴を舐めろ」
「なんでだよ」

やいやいしつつ、貴重な連絡先をゲット!!!

エヘエヘする俺に引きつつ、遼太は意味深に言った。

「葵音はな〜ちょっとコンプあるから気をつけた方が良いよ」
「え。あの美少年にコンプとかあんの?ちなみに何?」
「それは自分で考えろ、じゃあね!」

俺とは反対側のホームに迎えって走って行った遼太をぽかんとしつつ見送った。

コンプ……コンプレックス……。まつ毛が長すぎること?美男子過ぎて普通の人間の気持ちが分からないとかそういう系……???

!!

思考を巡らせふと閃いた。俺が地元は東京と明かしてから葵音ちゃんはおかしくなった。あの子はもしかして出身がコンプレップスなのではないか?

 

◼️

『ちっす!!遼太から連絡先聞きました!いや〜ごめんね突然連絡して』

ドキドキしながら家で早速LINE!

しばし沈黙があり……返信が来た!

『今日はどうもありがとう、よろしくね』

ンンン非常に他人行儀ッ!つれないなあ葵音ちゃん。しかしこの俺想太はメゲない男!

『今日はゆっくり話せなかったからさあ、今度一緒に飲み行かない!?葵音ちゃんとなら絶対楽しいし✨ね!おねがい!』

勢いで押す。とにかく押す。おっと先手を打たねば。

『他の男メンバー入れるとむさいからやだな〜〜!ふたりで行こ⭐️』

こういう時のこ断り文句筆頭『じゃあ皆で』を防いでやったぜ。ふふふ葵音ちゃん俺の包囲から君は逃れられないのだよ。

『う〜ん笑 良いよ』

よし!来た!ナイスガッツ!俺!!!!!

あの可愛らしい苦笑いが目に浮かぶ。俺のことは飼い主に超懐いてる大型犬と思ってくれれば良いからね、葵音ちゃん!

 

◼️

「葵音ちゃん〜!こっちこっち!」
「あ、どうも……」

ブンブンと手を振って存在をアピる。今日はとある居酒屋へ飲みにいくのだが、待ち合わせを駅でと決めていた。

「久しぶり」

にこ、と困った様に笑う葵音ちゃんに心撃ち抜かれた。今日もグレーと濃い紺という大人しめな色合わせの服だけど、上品でよく似合っている。あああ最高!良かった咄嗟に鼻血スプラッシュしなくて。

「ささっ荷物持ちますよ!」
「いや良いよ」

やいやいキャッキャしながら(一方的に)、居酒屋へと向かう。すでに俺の頰は緩みっぱなし。いや〜良い飲み会になりそうだ!

 

 

「えっ!ここって……」
「ここね、博多料理や酒の旨い居酒屋なんだよ。博多ってメシ美味いって聞くからさ。内密に予約しておきました〜♡」
「うっうん……!」

なぜか緊張の面持ちの葵音ちゃん。こういう系の店はあんまり馴染みないのかな。

「さっかんぱ〜い♡」

最初から福岡名産の日本酒で乾杯をした。今日は酒の力も借りて葵音ちゃんと打ち解けようと思ってるからね!色々聞きたいことあるし。

 

 

「……でさあ遼太がハッスルし過ぎてそのサマーキャンプで川で滑って全身ずぶ濡れになった訳よ。でね、全部服脱いで着替えて、濡れた服はすぐ乾くようにってバーベキューの近くで干してたら遼太のパンツだけ燃えちゃってさあ。仕方ねえから俺の新品のやつ貸してやったんだよ」
「〜!やばいじゃん〜!」

俺はまずは遼太との思い出話を繰り出していた。結果、葵音ちゃんは涙を浮かべて笑っている。
サンキュウ遼太。お前の面白エピソード、今メッチャ役に立ってるぞ。

ケラケラ笑い転げる葵音ちゃんはプリティの一言に尽きる。良かった〜!誘って良かった〜!

酒も料理も旨いし、2人っきりの個室は超良い感じだ。

「いや〜想太くんて面白いんだね」
「想太で良いよ、他人行儀なのやだな」
「!……想太」

見つめられてドキッとした。
まつ毛が落とす影は長くて、その瞳に吸い込まれそうだ。

「その、想太って友達想いだよね。この間の飲み会でも、他の子のお世話してたし」
「え?まあ、別に」

さすがにゲロりそうな奴放っておくほど薄情じゃないしな。

はにかんで笑われて俺は心を掴まれる。

2人きりの個室でそんな風にされると、俺は変な気持ちになりそうになる。いやイカンここで狼になったら!

あ、そうそう、そういえばあの話しなきゃ!

「……っそ、そういえばさ、ごめん全然話変わるんだけど。その、もしかして葵音ちゃんて、地元好きじゃないとかある?」
「!!」
「あ、や、ごめん。俺、単刀直入に聞くタイプだから。葵音ちゃんには俺に対して壁作って欲しくないってのもあるし……」
「……ん」
「その、気にしなくて良いと思うよ!神奈川だって全然都会だし、東京みたいなモンでしょ!」
「え」

そう、きっと葵音ちゃんは東京生まれに憧れがあるのだ。だから神奈川県民の自分をちょっとコンプレックスに思っているんだ!俺はそう考えていた。だからどんなに神奈川県が素晴らしいかを熱弁して聞かせた。

「ね!メッチャ良いとこでしょ!」
「うっうん……!」

俺はつい葵音ちゃんの手を握って言った!びくりと震えた白い指先を逃すまいとギュッと握った。

「それに自分の生まれた土地を誇りに思って欲しいな。こんな素敵な葵音ちゃんをここまで育ててくれた場所なんだから」
「!……想太……」
「ね!」
「ありがとう。……そ、そうだよね……」

悲しそうな葵音ちゃんの笑みがちょっと切ない。なぜだ。なぜそんな顔するんだ。

うーん、大分酒で酔ってきてたのもあるし、ちょっと色々整理したくなった。

「あー、えっと俺、ごめんトイレ行ってくるね」
「あ、うん、よかよ!」

酔いに身を任せながらトイレ目指してほてほてと廊下を歩く。

いや〜よかよって可愛いかよ。博多弁じゃん。
ああいうの最高。

って博多弁?

んん……?

俺の頭の中で一つの仮説が弾き出された瞬間だった。

 

 

「ごめんお待たせ〜!」
「ん、良いよ」

トイレから戻り、俺はどさあと葵音ちゃんの隣になだれ込んで座った。

「ちょっと」
「葵音ちゃんて、しゃれんとしゃあ」
「え、そう?嬉しい」

俺はその時確信して葵音ちゃんの手首を握った。

「!」
「葵音ちゃんて本当は九州……いや博多出身じゃない?」
「!いや、神奈川だけど」
「しゃれんとしゃあ=おしゃれだね、なんて言葉は関東の人間は普通知らないけどね」
「!!」

さっきトイレで調べた博多弁知識を念頭に俺はにじり寄る。

「ねえ、葵音ちゃん。さっきよかよって言ったよね。君本当はバリバリの博多民じゃない?」

「っ……!と、父さんの転勤で」
「おっと神奈川にずっと住んでたと合コンの時に言ってたよね!?」
「う、ううう…!!」

壁に両手をついて追い詰める。
じわじわと焦りの込み上げる葵音ちゃんの瞳を見て謎の満足感が込み上げる。

「さあ吐きなさい!本当のことを!!」
「う、ううう……!
かっ神奈川っていうのは嘘、ほんとごめん!
ほ、本当は……本当はきょ、京都出身なんだ!」

その瞳は右に左に揺れ動き、動揺が隠しきれていない!

「ほお〜じゃあ京都弁喋ってもらおうか!」
「う……ううう…ううう……!」
「ほらほらほらあ!」

「う……う……し、死ねどす!!!」
「!」

……その後、ダアーッハッハッハ!と俺の笑い声が居酒屋中に響いたであろうことを許してほしい。

「死ねどすは言わない……!!俺父さんの転勤でちょろっと京都住んでたことあるけど、さすがに聞いたことない……!!!」
「しゃーしい……!!!!」

頬を染めて悔し涙でぷるぷるする葵音ちゃんは愛おしくて仕方なかった。

しゃーしい=うるさいってもう博多弁だし。くう〜方言たまんねえ〜!

「ねー何で嘘つくの?博多弁メッチャ可愛いのに」
「……訛りが恥ずかしいけんね……あとウチが田舎なんも……それに都会に大いなる憧れがあるたったい……!!」

拳を握りしめてぷるぷるしている葵音ちゃんを、
こっち来なさいと抱きしめた。

「!」
もぞ、と暴れられたけどギュッと抱きしめ離さなかった。

「俺は方言好きだよ、大っすき。好きな子が喋る方言は特にね」
「……!」

ハッとした顔を俺を見上げた葵音ちゃん。俺はこの子に出会った瞬間から恋に落ちていた。見つめ合ったまま言った。

「さっきも言ったじゃん、自分の生まれた土地を誇りに思って欲しいって。地方だろうと訛っていようと、良いじゃない。こんなかわいくて素敵な葵音ちゃんを育ててくれた大地に俺は感謝してるんだよ?」
「想太……」
「おかげで出会えたから……」

良い雰囲気のままキスしようとして……

しかし無情にも、その時ガラ!と個室のドアが無遠慮に開いた。

「あっすんません間違えました!って……想太じゃん葵音も」

遼太だった。

「何で今現れたんだよお前ええ!!」

最悪のタイミングで現れた旧友に渾身のパンチを入れたのは言うまでもない。

まああいつは俺たちの仲人みたいなもんだから許してやったけど。

その後晴れて恋人同士になった俺たちにしょっちゅうちょっかいかけてくる遼太には死ねどすって言ってやって、そんな俺は顔真っ赤にした葵音ちゃんから怒られている。だいっきらいと。

けどそれも悪くない。
いやむしろ全然良い。

こっそり後から葵音ちゃんの「……本当は好いとーよ」が聞けるから。

 

 

 

end

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