カッとなって昌也を強引に振り解こうとするも、離してくれない。
「もうそんなこと言わなくて良いよ!僕ら終わったんだよ!あとは勝手にしてったら!」
「今までだって何度でもやり直してきたじゃん」
「ハア!?」
もう昌也〜〜!!ダメだこいつ!!!
「一緒に来てよ寧々」
「無理、もう新しい彼氏できたから!」
せい!とばかりに昌也の古傷を狙って肘鉄を喰らわす。怯んだ隙に今度こそとその腕を逃れた。
「巽を怒らせたくないんだ!!もう僕に近寄らないで!!じゃあね!」
あと誓約書も書いてるし!接近された場合は無効だよね!?じゃないと僕が死んじゃうよお!ダッと背を向けて走り出した。
「巽って誰だよ!まさかあの借金取りの男じゃないだろうな!?」
「そうだよ!」
なんか昌也が後ろから騒いでいたけど、ぼくはただがむしゃらに走って帰った。
天使だなんて今更言うな!あほ!ぼけ!あほんだら!!わけの分からない感傷になんか浸りたくなかった。
ゼエハアして巽との家に帰って、とりあえずシャワーを浴びた。こんな寒い冬にこんな汗かくって何?はあ……。
巽はヤクザのくせして家は綺麗で、シャワールームもピカピカしていた。ヤクザのくせしてって語弊があるかもしれないけどさ……。昌也と暮らしたボロアパートを思い出しながら熱いシャワーを浴びた。天使とか今更なんなんだよ!もっと早く言ってくれたら……くそ、くそ!!もう心なんか掻き乱されるもんか!!!
その後、ちゃんと着替えるのも面倒で暖房をガンガンにかけながら巽が時々きてるバスローブを勝手に羽織りリビングのソファに何となく寝そべっていた。
モヤモヤがはれず、寝返り打ったりなんだりしていると突然玄関の鍵が開いた。
「えっ巽?」
「……寧々?」
ぎし、とリビングに入るなり僕がこんな姿だったので驚いたのかもしれない。巽は一瞬止まり、その後みるみる険しい形相に変わっていった。
「え……おまえ昼から何?まさか……」
「え?」
巽は鬼みたいな顔してズンズン歩いてきたんで、僕は怯えた。
「えっ何あっご、ごめん巽が働いてる(?)うちにこんな……!」
ノンビリしてと続けたかったのだがそれは遮られた。
「ここか!?」
バン!と巽はあっちこっちの扉を開け始めたのだ。最初何してるのか本当に分からなかったのだけど。
「ここか!!?どこだ!!!」
次々にチェックしていくが止まらない。
「く、ここか!?……いない……」
巽はベランダの窓まで開けて最終チェックして、ようやく気が済んだみたいだったので声を掛けた。
「たっ巽……!僕、浮気とかしてないからね……?」
巽は心底安堵のため息を吐いて僕をぎゅっと抱きしめた。
「……俺はまさか昌也に入り込まれたのかと思って……良かった……俺の寧々……本当に……見つけ次第、間男は殺さなきゃと思って……」
内臓がヒュッとなりながら、僕は巽の背に手を回した。厚みのある筋肉質な身体。この身体にいつも力強く抱かれているので、これで本気で締められたらひとたまりもないだろうと僕は知っている。
「うっうん……やだなあ、ちょっとね、急いで帰ってきたら汗かいちゃって。それでシャワー浴びてただけなんだよ」
僕の後頭部をそっと撫でながら巽は言った。
「家事くらい別にそんな急いでやらなくても良いんだぞ?ゆっくりしとけよ」
「あっうんえっとね……昌也に会っちゃったから逃げ帰って来たんだよ……う!?」
思わずと言った感じで髪の毛をギュッと掴まれて呻いた。
「あ!ああごめんな寧々大丈夫か……」
パッと離してくれたけど、さっきの痛みはちょっと忘れられそうもない。一瞬垣間見えた巽の執着心を物語ってるみたいで……。
ソファに並んで、僕は今日の出来事を話し出した。だんだん険しくなっていく巽の表情に内臓がギュッとなりながら……。
「天使とは、ふ、腹が痛いな。ずっと天使がそばにいただろう。今更か。
それにしても昌也、一回しばき倒さなきゃいけねえかなあ……寧々はもうやすやすと話しかけて良い人間ではないとその身に知らしめてやろうか」
手のひらを意味深に握りながらそう言うので僕は本当に肝が冷えた。これはうっかり殺しそうだ。
「い、いや大丈夫だよ!ちゃんと巽と付き合ってるって言ってきたし!」
「!」
ハッと僕を見つめた巽。
「寧々の口から?そう言った?」
「うん」
「……寧々〜!」
さっきまでの殺気はどこへやら。パアアと喜んでしまったヤクザなワンコ・巽は僕にのし掛かってきた。
「俺が?寧々の彼氏。寧々がそう言ってくれる日を俺はずっと待ってた!」
スリスリ懐かれてちょっと苦笑してしまった。昔飼ってた大型ワンコを思い出した。
「まあこれもある意味昌也のおかげか……。ご褒美にアイツ、楽に殺してやろうかな」
殺気は消えてはいなかった。喜びにちょっと押し退かされていただけらしかった。事件を起こさせてはいけない。
「ね!巽、昌也の話ばっかりしてないで僕の方見てよ」
ぐいと強引に巽の頭を引き寄せキスをした。誘ったキスに巽はすぐに乗ってきた。
……白昼のマンションで巽と行為をするのは殊更恥ずかしてくってどうしようもなかった。仕事帰りの巽はいつもみたいな黒服のスーツ着てて、僕は元々バスローブ1枚だしさ。巽がするりと脱いだワイシャツが床に落ちる。その背には見慣れた一面の龍の和彫り。巽は元々セクシーさのあるタイプだけど、龍の和彫りを背にして特有の色気を増していた。その背にしがみついて悦楽に耐える。だけど巽はなかなか僕を離してくれなくて……。
ようやくアレコレ終わった頃にはだいぶ良い時間になっていた。初めて僕からお誘いしたことで、巽はようやく機嫌を取り戻した。その日たまたま早く仕事が終わった巽は、僕に会いたい一心で早く帰ってきたらしかった。
「俺ってかわいい奴だろ。ほっとけないだろ」
「それ自分で言う?」
ふふんとどこか得意気な巽であった。かわいいなと思った。僕に会いたくて走って帰ってくる男ってそりゃ可愛いに決まってる。
「俺は寧々が好きだよ」
そうハッキリ言われると恥ずかしく目を伏せてしまう。
「寧々に本気で恋してる」
追い討ちをする様に耳元で囁かれて僕はただ頷くばかりだった。
このまま巽との平穏(?)な日々を取り戻すものと思っていたけど、そうではなかった。
なんとまた昌也は現れたのだ。
巽と連れ立ってすこし出掛けていた、その時に!
レンガ倉庫の前を何となく僕らが散歩していた時に声を掛けられた。
「よう、寧々!探したよ」
ヒッと心臓がギュッとなった。隣にいる巽の苛立ちゲージが急上昇するのが手に取るように分かる。ギラリと昌也を睨みつけている!
「え、あ、昌也、もう近寄らないでって」
僕の静止を聞かず、命知らずの昌也はなんと巽に喧嘩をふっかけた!
「巽ってお前だよな?どけよ」
昌也はトン、と小突く様に巽を押した。僕は内心ヒッとする。雷が一瞬発光するが如く、巽の怒り
が目に見えたからだ。
「口の聞き方がなっちゃいねえなあ……」
巽は売られた喧嘩は買う主義らしい。今すぐにでも殴り合いしそうだ。
「お前なんかどうでも良いんだよ。寧々を返せよ」
「なんでてめえに返すんだよ。そもそも寧々はモノじゃねーよ口の利き方わきまえろ」
巽が昌也の胸ぐらを掴む。僕は堪らず割り込んだ。周りを見つつ昌也にヒソヒソ言った。
「昌也!!!巽はマジのヤクザで借金取りなんだよ!知ってるでしょ取り立て屋の怖さ!!もう、もう僕から離れないと死ぬよあんた!!」
「寧々。別れても俺を心配してくれてるのか」
「!別にそういう訳じゃ……」
今までこのどうしようもないあほんだら男の身を案じて生きてきすぎて、それが癖になってしまっていた。ダメだこんなんじゃ。今の昌也のセリフで巽が傷ついた気がする。きっとそうだ。
「もう僕らは終わりなの!僕は巽のモンなの!!それで昌也の借金は大幅に減るってそういう決まり」
「寧々、なら……!」
昌也の割り込みを僕は止めた。
「僕は別に無理やり巽といるんじゃない。巽のことが好きになった」
最初ちょっと強引だったけど、今では巽に気持ちがあるのは事実だった。
無言で僕をじっと見下ろしている巽。
「なあ、寧々。俺人生で初めて本気で人に惚れたんだよ。俺を救ってくれた寧々に今は本当に恋してる。お前のことばかりずっと考えてる。だから巽に寧々は渡せない。寧々、戻ってこいよ」
続く
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