短編小説

【短編】いない方が良いのかな #すれ違い

読者さんリクエストにお応えしました。

 

お題⬇️

美形×平凡の喧嘩からのすれ違い。

喧嘩の原因は生活のリズムとかが合わなくてお互いストレス溜まっちゃって、、、受けは我慢するんだけど先に攻めが爆発しちゃって受けを傷つけちゃうみたいな感じ。

 

真純 受けくん。会社員。
冬馬 年下攻めくん。売れっ子YouTuber
栄  受けくんの会社の同僚。
ーーーーーーーーー

同棲したら寂しい思いなんかしなくて済むんだって思ってた。でも違った。

「真純い。ごめん会社行く前に洗濯もの、これも回しといて」
「あ、うん。オッケ!あ、冬馬あのさ」
「ごめん寝る。徹夜明けなんだ。じゃ」
「あ……」

そう言ってさっさと寝室へ向かう年下の恋人を、だいぶ寂しい気持ちで見送った。

今度の旅行の話、そろそろ良い加減したかったのになあ……。
またか。

ため息をそっと吐いて僕は洗濯機へと向かった。仕方ないさ。さっさとやっちゃお。

我慢がまん。モヤモヤはどっかいけ〜!

 

僕は真純。平凡会社員なんだけど、恋人の冬馬はなんとYouTuber。でも売れっ子なんで、僕より全然収入あるというデキる奴。あとスゲーイケメン。

一緒に住めば毎日イチャイチャキャッキャキャッキャ出来ると思っていたのだが、全く違った。

 

売れっ子の彼は毎日動画撮影しに行ったり編集したりで大忙し。そして夜通し作業しては朝眠る。

一方僕は夜寝て朝は会社へ。
最近さらに売れ売れになってきた冬馬は、さらに多忙を極めている。同業者同士の集まりとかもあるみたい。まあこれは仕事のための人脈作りらしいので僕は全然止めないんだけど……。

冬馬が頑張ってるのはよ〜〜く分かってる。

だけどさ。最近の僕らはあまりにも生活リズムが絶望的に合わない。

離れて暮らすとなかなか会えないね、ってことで同棲始めたのに。

全然イミないじゃん。

僕はなんでもない顔をしているけど、ほんとうは毎日さみしいのである……。

 

 

 

会社へ着く。

隣の席の女性社員がスマホで誰かとすっすすっすメッセージのやり取りしているのが視界に入った。

ああ、良いなあ。ああいう何気ないこと。イチャイチャしたいよなあ僕だって……。

「おっす、真純。元気ないじゃん」

ふと僕のデスクに現れたイケメン。

「栄……」
「これ飲んで元気だしなあ」
「栄〜!」

僕にエナジードリンクを差し入れてくれた。栄は僕の仲良い同期で、気が利くしあと普通に仕事デキるやつ。

僕が落ち込んでいると察知して、時々飲みにも連れ出してくれるスゲー良いやつ。

「そうそう、その顔しとけ。じゃね」

さっと現れさっと消えていく。何あいつ流れ星?

かっこいいよなあ。変な意味じゃないけど。

たまに冬馬にすら話しちゃうもんね。
やべーデキる奴いるんだよって。

 

 

「真純〜メシ食お」

会社の昼休み。栄が話しかけてきた。

並んで食堂でラーメンを啜った。

「……で、どう?同棲の恋人の方は」
「全然。ず〜っとほったらかされてる」

「まじ?そういえば前行ってた旅行の件は?さすがに行くんだろ?」
「やー……。それが。まだ全然、行き先すら話せてもいなくて……」

ぶっと栄はお茶を吹いた。

「一緒に住んでてソレ!?行き先なんか『どこ行く?』『ん〜大阪♡ユニバ行きたい♡』で決まるだろ。

そんな会話できないとかあんの?
やばくね?お前ら……」

引き気味の栄。ううう、分かってるようううう…。

「まあ、YouTuber かなんか知らんが。忙しくても旅行を強引にねじ込め!!な!!!一緒に過ごさなきゃ、仲なんて深まらないんだし。

それに、旅行!!!っていえば相手もハッとするかもよ。うわーほったらかしにしてたって。な、頑張れよ!あ、仕事の電話だもしもし」

「栄……」

良い報告待ってっから〜と言って、栄は去っていった。

 

栄…まじ良いやつ。栄に宝くじが当たりますように。そう念じて僕も席を立った。

 

 

帰りの電車内で、揺られながら考えた。

そういえばそうだよね。僕、あんまりハッキリ自己主張したことなかったから。

旅行!行こうよ!前から約束してたやつ!ってそういえば、さすがの冬馬も気づいてくれるかな。

うん、きっとそうだ。

年下の冬馬は集中力あるんだけど、のめりこむタイプだから。グイってそこに割り込んでいけば、きっと僕という存在に気づいてくれるはずなんだ!

 

久しぶりに感じる明るい希望を胸に、僕は家の鍵を開けた。

 

 

ひょこと冬馬の編集部屋に顔を出す。相変わらずとりつかれたようにカタカタと編集作業をやっている。

グイッと行くぞ…!

「……た、ただいま〜冬馬!ねっねえ!前ちょこっと言ってた件だけど、来週の旅行さ。どこ行く!?僕ふたりでゆっくり温泉とか」

「わり。旅行キャンセルで」
「え……」

突き放されて僕は呆然とした。膨らんだ風船が急速にしぼんでいくみたいな感じ……。え、え、そんなあ。

「じゃ、じゃあ日帰りでも」
「まじ無理。時間ない。本当に無理。ごめん」

え、それだけ……?

「うっ…じゃ、じゃあさ、来週じゃなくても良いよ!再来週でも、来月でも!」

「あー、しばらく予定読めないんだよなぁ、ごめん。色々案件とか色々予定がつまちゃってて……」

冬馬がカタカタとパソコンのキーを叩く手は止まらない。僕はイライラとボルテージが上がるのを感じた。

「ねえ、今その作業そんな大事!?」
「……うるせえな」

いまうるせえって言った!?
胸にグサグサ突き刺さる。

「ねえ!こっち向いてよ。僕の方向いてよ!!」

我慢できなくて、ぐいっとこっちを向かせた。

「!」

切れ長な瞳と久しぶりにちゃんと目が合ったな、って気づいて改めて傷つく。

だけどその目はすぐに逸らされた。

「……あーっ!クソ、ミスった。今の編集分、消えちまったよ!いきなりグイ!とか真純がやるからだろお。またやり直しってウッソだろ。良いかげん寝てーよ……はあ……」

イライラの止まらない冬馬。

「ご……ごめん」

どうしよう、やっちゃった!謝ろうとはしたんだけど、冬馬は僕の謝罪を聞き入れてはくれなかった。寝不足でイライラしてるのもあったのかもしれないけど。

「……もう邪魔なんだよ!まとわりついてくんなよ!今は1秒1秒が今の俺には貴重なんだよ!!」

「さすがに言い過ぎでしょお!!!」

「んもううるせえな!!!どっか行ってくれよ!!」

 

そう吠えるように怒鳴られたら、僕はもう出ていくしかなかった。

 

 

バタン!と軋みながら大きな音を立てて閉じた玄関のドア。

マンションの簡素な階段をカンカンカンカン!と音を立てて降りた。

外は雨がパラついていた。

 

なんだよ、なんだよ冬馬のやつ!!!あんな言い方しなくたって!!

冬馬なんか知るか!という気持ちで階段降りて、ちょっと行ったものの。

……チラリと振り返る。

冬馬は追ってこない。

あれかも、いま慌てて靴履いてるのかも。

とか、猶予を持たせてあげたのに。

……1分まっても追ってこない。

5分待っても追ってこない。

え、ウソ。来ないの……?

 

やがて雨が無視しようがないくらい降ってきて、びしょ濡れになりながら外で結構待った。

 

でも冬馬はやっぱり来なかった。

心配じゃないんだ。こんな明らかに雨の中そとに出てちゃった恋人のこと。

それか雨音に気づかないくらい熱中してるの?動画編集に。

ばか。ばかばかばかばか。ばか。死ぬほどばか。

 

 

だいっきらい。冬馬。

来週の旅行の日は僕らが付き合い始めて5周年の記念で行くはずだったやつじゃないか。

忘れちゃったの……?

そんなの改めて言わないとだめ!?それくらい自分で思い出してよ冬馬あ。

 

 

その後。ポケットに入っていた小銭を駆使して、なんとかファミレスでやり過ごし、数時間経ったところで僕は家にソッと帰った。

冬馬は力尽きたのか、デスク前で寝落ちしていた。まあ、動画ちゃんと出来たんだろうな。

 

重いため息を吐いた。

ここ最近は動画動画で本当にそればっかり。

……僕のこと邪魔なのかなあ。ウザいのかなあ。恋人と久しぶりに旅行に行きたいってそんなに贅沢かなあ。だめかなあ。仕事だってもちろん大事。分かってる。でもさ、そんなたかが数日、休めないってあるのかなあ。

 

……冬馬は僕に飽きちゃったのかなあ……。

 

 

モヤモヤが晴れることなく、それからも同棲は続いた。続いたっていうか、話し合いをする余裕がなかったので惰性で続いた感がある。

僕も一応サラリーマンの身。夜に飲み会が入ることもあって、家に遅くに帰ってクタクタで寝る。みたいなこともまあまああってさ。

一方冬馬は生配信中で、編集部屋から出てこない。けど楽しそうな声だけぺちゃくちゃ聞こえる、とかね……。

その楽しそうな声、僕は自分に向けてくれたこと最近全然ないけどね。

しょんぼりしながら眠る。独り寝の夜。

◆◆◆

「よ!真純い、元気…ってかやばくね正気どこ行ったんだよお前」

会社で栄に心配されてももはや曖昧に笑うのみで誤魔化した。

 

 

 

言いたくないんだ、自分のこんな境遇はさ。

 

 

結局僕らの5周年記念旅行はうやむやになり、ディナーとかもなく、日々は過ぎた。

寂しい。さみしい。つらい……。

ふくらみ過ぎた寂しさに押しつぶされそうだ。

僕は思った。もう終わりにした方が良いんじゃないかって。

それから何度となく、別れ話を切り出そうとしてみた。

……だけど冬馬と過ごした日々は僕にとってかけがえがなくて、別れよう、って言おうとするだけで涙が溢れそうになって、僕は慌ててトイレに駆け込んだもんだった。

トイレで声を殺して思いっきり泣いた。

泣けば泣くほど、やっぱり冬馬のことが僕は大好きだったんだと思い知らされた。深みのある声、やや冷たさのある整った顔立ち。ううんそれだけじゃない。『真純』って呼んで僕を抱きしめてくれるあの力強い抱擁が僕は1番好きだった!今は全然、そんな風にしてくれないけれど。

 

 

……そしてやっぱり冬馬は、リビングに戻った僕の目が赤いことに気づくことはなかった。

作業作業で。

 

一方会社では、栄に定時後に飲みに強引に連れて行かれ、近況を吐かされた。そして言われた。

「別れろ」

結局、変化に気づかないのは相手に興味がない証拠なのだとも。

僕のことをずっと気にかけてくれる栄からそう言われると、やっぱりそうなんだろうな。

グサッと来たけどさ。

僕のこころはようやく決まった。

 

 

 

翌日。土曜日の早朝。僕は荷物をまとめたショルダーバッグを肩にかけていた。

そっと冬馬の作業机へと近寄る。

あいかわらず冬馬は死んだようにデスクで眠っている。作業をやっていたのだろう。大体いつも動画編集の合間に気絶するように仮眠みたいな形で寝ている。

きみらしいね……。

あまりにもいつも通りすぎて逆に少し笑えるくらいだ。

そっと冬馬の髪を撫でた。

 

さようなら冬馬。君なら一流の動画配信者になれる。元気で。

別れ話する勇気がなくて、何も言わず去っていく僕を許してくれ……。

 

 

 

家を出る。その後は、友達ん家に身を寄せるつもりだった。もちろん栄。

「真純。荷物持つよ」

僕から事情を聞いてわざわざ駅まで迎えに来て、荷物を持ってくれるという超良い奴。

電車を待ちながらぽつぽつと話した。

「……終わる時ってあっけないもんだね……」
「真純……元気出せよ」
「……」

僕が何か他の件で落ち込んだりした時は、いつも冬馬の動画を見て癒されていたものだ。

でももうその手は使えない。あの声を聞いたら泣きたくなってしまう。

僕は思い至って、冬馬のLINEをブロックし、そして冬馬のチャンネルもまたブロックした。

これでもう連絡を取ることはない。

ボタンひとつで、あっさりとしたもんだ。

 

振り返ってみれば僕が冬馬の動画を見始めたのって7年前なんだよね。ファンになって2年経った頃。思い切ってD M送ってみたらフレンドリーな返信来て、意気投合して飲みにいくようになって。ある時泥酔してさあ。

酔いに任せて一線を越えてしまい、気づいたらベッドで朝を迎えたんだ。ベッドで青ざめた僕に慌てて冬馬は『付き合ってください!本気です!』って言ってきて……。

『僕は動画編集ばかりで寂しい思いさせちゃうかもしれないけど、好きな気持ちは本当です』

ってまっすぐ告白してくれて。

あの時すごい嬉しかったよなあ……。

あの時はまだそんなに売れてなくて、知る人ぞ知るチャンネルだった。最初の頃は遊びにいったりする余裕もあったなあ。付き合い始めて、だんだん人気に火がつき始めて……。

僕だって冬馬という魅力ある人が世間に知られていくのは嬉しかった。今では大物YouTuberだ。
それでもさらなる高みを目指す冬馬。すごいや。

でも僕はすごい冬馬じゃなくて良いからただそばにいて欲しかったなあ…。

ダメだ。今しんみりするのはダメだ。本気で消えたい気持ちになってしまう。

「あ、電車来たよ。乗ろう、真純」

土曜早朝の電車に人はいない。

そう言われてガラガラの電車に乗り込もうとした時。

 

背後から僕をものすごい力で電車から引きずり下ろした人がいた。

「真純!!!」

冬馬の憔悴した形相がすごくてギョッとした。

「え、冬馬どうして」
「な、何で黙って出てったんだよ!!!」

な、泣いてる!?

僕に縋り付く冬馬の手をパシと栄は払い落とした。

「君が冬馬くんか。真純はなあ君のことですごい落ち込んでたんだよ。今更迎えに来ても遅いんじゃない」
「うるせえよ!あんた誰…あ、栄って男か」

「よく分かったね。何俺のストーカーか」
「そんな訳ねえだろ!!あんた真純によくちょっかいかけてただろ!お前という存在のせいで俺はなあ……!!」

プルルと電車が発車する合図が聞こえる。

「ほら真純!今こそちゃんと冬馬くんと話し合え!ようやく聞く耳もったみたいだぞ!がんばれよ」

そう言って僕にショルダーバックを押し付けた。

 

プシュウとドアが閉まる。
最後、栄はバイバイと苦笑していた。

 

 

駅のホームに取り残された僕ら。

「……冬馬……あの……?」

冬馬は話し出した。

「……真純。ずっとほったらかしにしてしまっててごめん。俺早く登録者数何百万人ていうのを達成したかったんだ。

何かしらの形で『すごい俺』にならなきゃ、いつか真純は離れていくかもしれないって思って……ずっと漠然と不安で……

それで目標の登録者数がもう目前てところまで見えてきて、それで俺はのめり込みすぎてしまって……過集中しちまう。いつもこうなんだ。

ほんとごめん。真純。

っていうか旅行って付き合って5周年記念の旅行だったよな……忘れてた俺、サイテーだ。

何百万人登録者がいようが、真純が出てったら意味ないのに…俺は馬鹿だった」

「……良いよ別に……」

分かってくれるなら別に良いんだ。
あ。でも。

「…前うるせえって言った」
「すいませんでした!!」

冬馬はがばあとなんか縋ってきた。びっくりした。

「!?」
「ってか栄と付き合うことになったの!?」
「え!?なってないよ!栄はただの良い奴だよ」

「ほんとに!!!?」
「うん」

「じゃあ何で真純にこんな親切なんだよ!?いつもデキる男・栄の話を真純から聞いては俺はイライライライライライラして、真純を取られるかも。早く俺だってスゲー男にならなきゃって……焦ってしまって……」

「え、そんなこと考えてたの!?」

冬馬はやば、という感じで口元を抑え、心底気まずそうにコク……と頷いた。

「……こんなカッコ悪いこと言いたくなかった……」

そんな本心を隠していたのか。

「……俺は真純より年下だから。真純は頼れる同年代の方が良いのかなって思ったりして…不安だった。早く栄に追いつかなきゃって…思ったりして…」

そしてだから異常に動画にこだわっていたのか。
鬼気迫る形相で編集作業していた冬馬を思い出す。

「栄はただデキる奴でただ良い奴なだけだよ。それに僕にとってはただの友達。それだけだよ。

それに別にすごくなくたって、僕は冬馬がそばにいてくれたらそれで良かったのに」

そっと冬馬が俯いたまま、僕の手を握る。

「ほんと……?」
「うん」

「真純の隣、まだ空いてる……?」
「うん」

「まだ俺と付き合ってくれますか」
「……うん」

ぱあっと笑顔になった冬馬。

「じゃあさ、まずは記念日の旅行、行かなきゃな。どこ行こっか。ウチでゆっくり話そ、真純」

 

 

 

 

 

end

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