オメガバース

僕らは双子。僕は運命のオメガじゃなかった方

蒼眞と幸乃は双子のオメガ。
好きな人の運命の番が、自分の双子の弟だったら?

かわいそうな子が好きなので自給自足していますが、ただ可哀想なだけの話です。そういうの好みじゃない方は読まない方が良いと思います。読み終わったあとしょんぼりします。

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僕の好きな人は宇宙で1番カッコ良かったと思う。お隣に住む8歳年上の人で、悠人兄ちゃんて呼んで懐いていた。綺麗な顔をしていて、すらりと背が高く、スポーツ万能で爽やかだった。

僕、蒼眞(そうま)と双子の弟の幸乃の面倒をよく見てくれた。

「蒼眞と幸乃は本当によく似てるよなあ」

なんて苦笑しながら言ってたけど、悠人兄ちゃんは何故か僕らを絶対に間違えなかった。両親や学校の先生ですら時折間違えたというのに。

悠人兄ちゃんとはよく一緒にゲームしたりおやつもらったりした。子供好きの優しい悠人兄ちゃんと一緒に過ごす時間はいつもあっという間だった。

 

「な、蒼眞。これ幸乃に内緒でやる」

悠人兄ちゃんは時折こしょこしょと耳打ちしては、特別なチョコレートくれたりした。僕は闇取引をしているようでドキドキしたし、何より悠人兄ちゃんに特別扱いされるのが天にも昇る気持ちだった。

『蒼眞はお兄ちゃんでしょ』そんな風に両親は言って僕にあれこれ幸乃に譲れって言ってくるし。双子なのに!

だけど悠人兄ちゃんはそんなこと言わなかった。僕だけを見つめて僕だけを特別扱いしてくれる。

僕の初恋はすんなりと悠人兄ちゃんに持って行かれた。いや差し出したといっても良い。

爽やかでカッコよくて優しくて、こんな悠人兄ちゃんなら誰でも好きになるってさ。

 

 

それから日が経って、僕と幸乃は学校で検査を受けた。

僕らは双子だからやっぱり2人ともオメガだった。保健の授業で身体の仕組みを習った。オメガには運命のアルファがいて、惹かれあって番になりますと。子供も作れます、ふむふむ…。

 

 

「ねえねえ悠人くん」

小さい頃に比べたら随分背が伸びた僕の身体。でもそれより断然悠人くんは背が高かった。

悠人兄ちゃん、て呼ぶには何だか恥ずかしい感じになっていたので、悠人くんと呼び名を変えていた。

ひょこ、と悠人くんのお部屋に遊びに行った僕を、悠人くんは気軽にいつも通り受け入れてくれた。

「お、蒼眞。おやつ食ってくか」

そう言って椅子から立ち上がりかけた悠人くん。

「良いよお。小ちゃい子供じゃないんだし。えっとね。その、僕さあ、検査の結果オメガだったんだよね」

ぴた、と止まった悠人くん。

「ほお。じゃあ蒼眞、運命の人探さなきゃなあ」
「う、うん。そいえばさあ。悠人くんは検査受けたことある…?」

相当ドキドキしながら聞いた。じっと僕を見つめながら悠人くんは言った。

「あるよ。アルファだった」
「え…っそう、なんだ」

別に告白とかされた訳じゃもちろんない。オメガとアルファだったら運命の番かもしれない、という1ミリの可能性があるというだけ。

なのに僕はみるみる顔が真っ赤になってしまい、これじゃ「あなたが好きです」って言ってるみたいなもん。

来たばかりだというのにあたふたと帰り支度をして逃げるようにその場をあとにしようとした。

「あっそうだ、忘れてた。宿題やばいのあった、から帰るね!」
「お、おお。忘れもんするなよ」
「う、うん!」

「そいえばさあ、幸乃もオメガだったの?」

実に何気なく聞かれたセリフに、そうだよ!とだけ答えて僕は走って帰った。

 

 

 

高3になる頃。僕と幸乃は双子だから似ていたけど、ちょっとした、だけど大きな違いが出来ていた。幸乃にはなんというかこう、色気というものが出ていたのだ。顔は僕と同じで標準的な感じのくせに、あいつはなんかこう、色っぽいのだ。

「さては!恋してるな!?」

そう言って絡みついた僕に、幸乃は辞めてよおとだけ言った。

 

 

ある時。悠人兄ちゃんに受験勉強見てほしいなと思って、僕は依然隣に住む悠人くんの家に遊びに行った。ガラ、と玄関開けると幸乃の靴もあった。お、先客か幸乃め。

ふたりを驚かせようと思って、僕は抜き足差し足、超ゆっくり階段を登って悠人くんの部屋まで行った。

 

そ、と扉の隙間から見えてしまった。

悠人くんと幸乃がキスしていた。いやそれどころか行為はどんどんヒートアップしていく。

僕は硬直して身体が動かなかった。趣味悪く、覗き見なんかして…。

「…は、幸乃、匂いでわかった。やっぱりお前が俺の運命だって…」
「ん…」
「良かった、ほんとに。ずっとそうだったら良いなって思ってたんだ。愛してる、幸乃」

心底愛おしそうに友希を抱きしめた悠人くん。あんな悠人くんを僕は知らない。僕をあんな風に見つめてくれたことはない。僕を、僕のことを特別扱いしてくれてると思ってたけどそうじゃなかったんだと思い知らされた。

僕はちっとも特別なんかじゃなかった!

 

ぼたぼた涙垂らしながら僕はひとり、逃げるようにしてその家をあとにした…。

 

 

恥ずかしそうに、「僕ら番になりました」と翌日報告を幸乃から受けた。

「えー!おめでとう!」

何にも知らなかったような顔をしながら僕は絞り出していった。笑顔を貼り付けて。

どうして幸乃は特別なのに僕はそうじゃないの?同じオメガで僕らは双子なのに。

僕は幸乃と僕の差分を作るほんのわずかな遺伝子の差をめちゃくちゃに呪った。だってこれだけは自分の力ではどうしようもない。

けど、一歩違っていたら僕が幸乃だったかもしれないのだ…。

 

「悠人くんのことはその…元から好きだったの?」

僕は何故か幸乃に聞いてしまった。

「うーん、最初はただ頼れるお兄ちゃんて感じだったんだけど。その…色々特別扱いしてくれたりしてて、実は。だから良いかも…なんて思ってたんだ」

聞けば僕以上に、幸乃は特別扱いされていた。僕がもらったおやつより良いものをもらっていたし、知らないところで遊びに連れてってもらってたらしかった。

「そうなんだあ、悠人くんてやっさしいんだね!」

 

なんて幸乃の前では言ったけれど…。

「う…うっ…」

夜。僕はひとり枕を濡らした。

僕がもらってた特別が、あんまり特別じゃなかったから。

人を扱うのが上手いんだなあ、悠人くんは…。

 

 

言えなかった僕の初恋は砕け散り、一方幸乃は一生の愛を得てさらに輝きを増してきた。僕と同じ容姿のはずなのに、幸乃はどこか違っていた。

そばにいる悠人くんもすごく幸せそうで…。

 

 

好きな人が別の誰かを想う時のその横顔を、僕は他人の目として見れるのだ。

僕は幸乃じゃないから。

僕がもしも幸乃になれたら…。そう願わずにいられなかった。

 

 

だけど悠人くんと幸乃の蜜月は長く続かなかった。幸乃は突然の事故でこの世を去ったのだ。

幸乃を失った時のことは正直思い出したくない。

 

それに事故から1年程経った今では、当時のことが霧がかかったようにぼんやりとして正確に思い出せない。トラウマなのか…。

 

 

今日は幸乃の一周忌。僕は大学生になっていた。
悠人くんとふたり、墓石の前で手を合わせる。

「…また幸乃に会いたいな…」

悠人くんは随分痩せた。カッコよかったのにその心身には翳りが見えていた。幸乃が側にいないから。いなくなったから。

僕はそんな悠人くんの横顔をもう見ていられなかった。

どうして僕じゃだめなの?僕と幸乃は双子でそっくりだったはずなのに。…でも僕じゃだめなんだよね。

僕は手を合わせてお祈りした。

神さま。どうか次に生まれ変わったら僕を幸乃にしてください。悠人くんにこんなに愛してもらえるならどんなに短い生涯でも構わないから。

 

 

 

end

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