オメガバース

【stardust#2】仮の番契約の虚しさは僕だけが知っている

夜遅くに部屋に戻れば梓と顔を合わせずに済むかもしれない、だなんて今思えば随分浅はかなアイディアだった。

寮の廊下とかトイレとか、非常階段とか、どうでも良いような場所でどうにか時間を潰し、僕が梓との相部屋に戻ったのは深夜1時のことだった。

部屋を覗いてみれば明かりは消えていて、梓のベッドの布団はこんもりしている。

よし、先に寝ている様だと安心して自分の布団に潜り込んだのが運の尽き。

「捕まえた!」
「ギャア!!!?」

梓が巧妙に僕の布団に潜んでいたんだ!ガッチリ捕らえられた。

 

「なっ何してんの!?びっくりした!!!」

びっくりし過ぎて心臓がバクバクしていた。

「ひかりが帰ってこないから!ずっと待ってたんだよ!?」

後ろからギュッと抱きしめられて、ドキドキバクバクしてどうにかなってしまいそうだ!

「もっとちゃんとした場所で待っててよ!?」

「そしたらどうせ逃げるんでしょ!?」

「そうだよ!!」

「ひかりの意気地無し!」

「梓が図々しすぎるんだ!!」

ぜえはあと息を切らして罵り合う。片想いの幼馴染相手に。本当何してるんだろうね・・!

「ひかり」

急に真面目な声にドキッとした。
僕を後ろからガッチリ抱きしめたまま、梓は言った。

「どうして俺を避けるの?」

「・・!」

「俺のこと嫌い?」

「・・・」

「俺はさ・・ひかりのことが好きだよ」

「!!・・だから、嘘つかなくて良いって!」

自分が惨めになるだけだった。辞めてくれ!

「嘘じゃない!今までうっすら好意を表してきたけど、全然気づいてくれないし!!

ひかりが俺と同じ高校受けるって聞いた時はすごい嬉しかった。超ラッキーなことに部屋まで一緒になれたのに!!

・・なのに、ひかりは俺を無視する。どうして?俺はこんなに好きなのに。仮の番なんて嘘。本当の番になって欲しかったんだ」

布団の中で手を重ねられて、握られた。鼓動が早くなって、頬がカアッと熱くなった。後ろ向いてて暗闇で本当に助かった。でなきゃ僕の本当の気持ち、バレてただろう。

「・・好きって、本当だったの・・?」
「そうだよ」

強く抱きしめられて、ドキンと心臓が大きく跳ねた。ずっと片想いしてきた梓に、こんなこと言われる日が来るなんて夢みたいだ。

嬉しいよ、梓。心から。でも。

「梓はただの幼馴染じゃん。僕に友達以上の感情なんかないよ」

冷たくその手を退けた。ごめんね梓。君の気持ちに応える権利が僕にはない。

「そっかぁ・・」

哀しそうな声が闇にぽつりと響き、僕の胸を刺した。

「・・どうしてひかりが運命のオメガじゃないんだろう」

僕の肩に顔を埋め、絞り出すように梓は言った。

「何でだろう、ね・・」

「俺、アルファなんて嫌だよ」

「ええ?梓、それは贅沢だよ。皆アルファになりたくてもなれないっていうのに」

「ははっ・・アルファなんか、何が良いんだか。運命の番だかなんだか知らないけど、要は結婚相手が最初から決まってるんだ。

神様が決めた許嫁ってやつさ。・・好きな人くらい、番う相手くらい、自分で決めたいのに」

それは苦悩に満ちた声だった。僕には何も言ってやれないよ・・。

これで話は終わりかと思ったが、梓は諦めなかった。

「ねえひかり、俺に協力してよ。
運命なんて蹴散らしてやる、って俺が証明するんだ。運命のオメガが現れようと、俺はひかりを想い続ける。

俺、ひかりが好きだよ。この気持ちだけはずっと変わらない。

だから俺の番になってよ、ひかり」

 

あまりにも真剣過ぎる程の告白に、クラクラした。好きな人にこんなに求められて、断りきれる程僕は強くなかった。

「・・仮の番なら、良いよ。でも僕に気持ちはないからね。梓はただの幼馴染だ。お互いをいつか出会う本命のための練習相手にする、ってことなら良いよ」

そうやって予防線を張った。これでいつか梓に運命の相手が現れて僕は振られても、傷つかない振りが出来る。

「ひかり・・!良いよ、それでも嬉しいよ」
嬉しいような哀しいような声で、呟くように梓は言った。

 

・・本当は君が心から大好きなんだって言えたら、どんなに素晴らしいだろう?

「・・ひかり、うなじ出して」

僕は言われるがままにワイシャツのボタンを外してぐいと肩まで降ろした。

僕のうなじに強く喰らい付いた梓。その強烈な痛みは、いつか出会う本物の番が味わうもので。

ー良いな、ホンモノは。噛みつかれたら2人の関係が何か変わるのだろうか?気持ちが変わったり、愛が深まるんだろうか?

偽物のは僕には分からない。その甘い甘い痛みを脳裏に焼き付けるだけ。一生忘れないように。

 

「ひかりだけがずっと好きだよ」

そういって僕を強く抱きしめた梓の、腕にそっと手を重ねた。

その瞬間だけを切り取れば、僕は確かに幸せだったと思う。

 

 

だけどこの時の僕は知らなかった。

運命のオメガに出会ってしまったらアルファがどうなるのか。

フェロモンの強さに当てられて、運命の結びつきの強さを実感せざるを得ない梓が、どんな顔をするのか。

 

気の迷いで生まれたベータへの恋心なんて、吹けば飛ぶようなものだってことも、自分がそれに死ぬほど傷つくことになるってことも・・。

 

続く

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