◆元彼視点
目が覚めて、携帯を即チェックする。いつの間にかこんな習慣がついた。
ずらずらと来ているLINEのメッセージに目を通す。
『今度いつ会える?』アヤコ。大学の時の元カノ。別れてからも時々寝てた。顔が気に入ってたけどもう良い。
『今日夜飲まない?』ナミ。バーで以前にナンパした子。巨乳だけど、こっちももう興味ない。
次々ブロック。
『何で連絡くれないの?良い加減返信して』ミキ。会社の子。可愛くて巨乳で小悪魔タイプで、会社で一番人気だった子。前は夢中だったけど、今はどうでも良かった。
ため息を吐いてミキにだけ返信。
『俺たちもう終わりにしようって前言ったじゃん。ただの会社の知り合いに戻ろう』
ブロック。これで終わり。
一番メッセージが欲しい人からの連絡は相変わらず来ない。
変わりに来るのは以前ちょっかいを出していた女の子、それか・・
唐突にもう1件のメッセージを受信した。
『今度の待ち合わせ場所、ここな。1秒でも遅刻したら会わねえから覚悟しとけよ若造』
「!」
該当カフェのURLつき。
別れた元恋人の、新しい男を名乗る人物から。
元恋人からの直接の返事は、ない。
『新しい男』
アイツが出ていってもう大分経つ。1人で暮らすには広い部屋。
朝食変わりにもそもそとしたパンを食べる。コーヒーも今では自分で淹れる様になった。いつもニコとそこに座っててくれたアイツはもういない。
新しい男にメッセージを打つ。
『アイツに代われよ。声だけでも聞かせろ』
すぐに返信が来た。
『誘拐犯じゃねえから俺w』
『ふざけんなよおっさん』
イライラが募る。既読だけはすぐ着いたが。
会社に行く準備をしつつ携帯を時折チェックするも返信は来ない。
電車に乗り、会社のデスクに着いた頃。やっとおっさんは返事を寄越した。
『俺に相手して欲しかったらちゃんとおじさまって呼んでね?まあ返事しないけど』
ついでにふざけたゆるキャライラストがベーって舌出してるスタンプ押してきた。
そのおちょくり方に心底腹が立った。誰が呼ぶか、くそ!!!
イライラと携帯を鞄にしまった。社用PCを立ち上げ、仕事で気を紛らわせようとした。
新しい男って、どんなヤツなんだ?やたら自信満々な口ぶりだが。
アイツよりも歳上で渋い感じだとは以前聞いたけど、要はおっさんだろ。尽くすタイプの歳下の恋人を見つけて、手放すまいと躍起になっているだけの。大した取り柄もない。
苛々を仕事でやり過ごし、気づけば会社の昼休み。ミキが声を掛けてきた。
「仕事のことで相談があって聞いて欲しいんですが・・」
とか何とか。わざと周りに聞こえる様に言ってくるもんで、俺たちは外で一緒に昼飯を食べることにした。
カフェに席に通されるや否や。ミキは俺にヒソヒソと噛み付いてきた。
「何で一方的に振るの!?ひどいじゃない」
「気持ちがなくなった」
「嘘。他に女出来たんでしょ」
はあとため息を吐いた。面倒だ。この際全部言うか。
「・・前の恋人とヨリを戻したくなった。それだけ」
「はあ!?何それ。顔もスタイルも平凡でつまんないって言ってたくせに」
「まあ人間、ガワが全てじゃねえよなーって俺もようやく気づいたんだよ」
「あたしは見た目だけって言いたいの!?」
「そうは言ってないだろ・・ミキは可愛いよ、でも俺には違ったんだ」
ミキは唇を噛んだ。イライラが募ってくるとやる癖。くるぞいつものやつが。
「アイツは料理だけが取り柄、だけどその料理も地味だしなーって愚痴ってたじゃない。あれ何だったのよ」
捲し立てる。始まった。
「その地味な料理が俺の疲れた身体に効いてたんだよ。俺のためにやってくれてたの。俺は愛されてたって離れて分かったんだよ」
「どうせおばさんくさい料理でしょ。華もない」
そのおばさんくさい料理ひとつさえマトモに作れない女は言う。そしてさらに続けた。
「ただニコニコしてるだけ、一緒にいても飽きちゃったって言ってたじゃない。それに俺に一途過ぎて誰かに取られる不安も微塵もなくて刺激ないって。要はモテないんでしょ。そんなののどこが言い訳?バカじゃない」
「俺を安心させてくれてただけだよ。それがどんなすごいことか、俺は知らなかったんだ。・・容易に出来ないことさ」
あたしはそうじゃないって言うの?と言わんばかりの苛々MAXの瞳でミキは俺を睨みつけた。水でもぶっかける気か?臨戦態勢を取る。
・・ああ、ミキはいつもこうだ。いつもすぐにイライラして、一緒にいても全く気が休まらない。その点アイツは・・と思ったところで。
「あ、どうも」
唐突に会社の人達に声を掛けられた。
2人ともぱっと元の顔を取り繕い、どうもとにこやかに会釈。
彼らは俺たちの隣の席に通された。
ミキとの話は強制的に終わった。ちょうど運ばれてきたサラダに俺は齧り付いたが、何の味もしなかった。
ふと見た時計は12時半。
元恋人と、その新しい男と会う日まで残りあと1日。ああ、アイツを早く取り戻したい。
きっと出来るさ。
見た目は地味寄りの元恋人とおっさん、自分で言うのもナンだが若くて華のあるタイプの俺が並べば、結局は一目瞭然だろ。
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◆主人公視点
僕はその日、寝坊してしまい起きたら12時半。時計を見てびっくりした。
慌ててリビングに行ったら、暁都さんは本を読みながらコーヒーを飲んでるところだった。その傍らには僕の携帯があったけど、もう気にしないことにした。
「お、やっと起きてきたねえ〜。今日は朝ゆすっても全然起きてこないからそのまんま寝かしといたよ」
良く寝れた?と僕を抱きしめる。寝過ぎちゃっ
たと言えば、それで良いよと言われてしまった。良い歳してこんな甘やかされて良いんだっけ・・?
暁都さんが朝食用に買っておいてくれたパンに齧り付きながら、今日の予定を立てた。
「今日さあ、君さえ良ければなんだけど。美容院行ってまた新しい服買いに行かない?」
「え、何でですか?」
「あさって元彼と会うだろ?洒落れた感じにしてって、あああ惜しい奴逃したな〜!って思わせたいから。あと自慢したいから。俺が」
にゃはと彼は笑った。僕は曖昧に微笑んだ。
「気持ちは嬉しいんですがそんな変わりますかね僕・・?」
「変わるって!君は磨けば光るタイプだ。俺が見立ててやるから、一緒に来てよ」
ええ?と半信半疑だったけど。ねえ良いでしょとキュッと手を握られて僕は頷いた。
まあいっか。暁都さんはお洒落なタイプだし。任せて変なことには多分ならないだろう。
・・ってぶっちゃけ過度な期待はしてなかったけど、いい意味でその的は外れることになる。
「あああ、良いじゃん君・・!」
めっちゃ嬉しそうな暁都さん。
お店の試着室のウインドーには、大分垢抜けた自分が立っていた。
暁都さんも使ってるらしい何か高そうな美容院で、重たかった髪を切って軽く色を入れてもらった。カッコつけて言えば、今フリーランスだからこそ出来る髪型。
そしてまた同じく高そうなお店で、僕はいま暁都さんにお洒落な服装を選んでもらっていた。
試着室であれこれ着て、ようやく暁都さんが気にいるコーデが出来たところ。
落ち着いた色味、上質な生地で高級感ある服装。確かに良い感じだった。地味な僕にしては、上出来にしてくれた。
「どう?俺たちお似合いだと思わない」
試着室の鏡に並んで映った、僕らふたり。
暁都さんプレゼンツにより、僕らはなんとなく雰囲気の似た出立ちになっていた。大人の恋人同士って感じ。
「良いねえ可愛いねええ。髪もやっぱ良いじゃない」
繰り返し言われて照れてしまう。
「あの、店員さん来ちゃうので・・」
嬉しそうな暁都さんはデレデレして目尻が大分下がっている。猫を愛でる猫好きの視線だった。
「俺の見立て通りだったな」
彼は満足した様にうんうんと頷くと、店員さんにこれ全部くださぁい!と言ってしまった。
チラリと垣間見たレジの請求金額は、計12万也・・!
ショッピングモールからの帰り道。最後に近くのスタバに寄っていきたいらしい。機嫌良く両手に買い物袋を下げて歩きながら暁都さんは言った。
「どう?新しい服に新しい男の俺。こっちは新しい人生もう送ってんだよって元彼には言ってやろうな。
まあ元彼に君のこと返してって言われても絶対返さないがね。見せびらかすだけだよ」
ふははとあまりに楽しそうに笑うもんだから、つられて僕も笑ってしまった。
あっという間に暁都さんに囲い込まれてしまった自分がいた。なし崩しに付き合うことになっているような。でも、悪くなかった。こういうのを幸せって言うんだろうか。
「家でもさっきのまた着てみてよ。諸々我慢出来なかったらゴメン♪」
「何が!?」
「まあ意味深に汚れてる服で登場して見せるっていうのもまた一興だよね」
「何言ってんですか!?」
ぺしんとその肩を軽く叩いた。わー怖え♪と嬉しそうな暁都さん。わちゃわちゃとこんな日々がずっと続くのも良いかもしれない。
家に着いたら暁都さんはずっと離してくれなくて。今まで以上にくっつかれてしまってちょっと困った。僕の今回のイメチェンが大分気に入った様だった。それは嬉しいんだけれど。
あんまり可愛い可愛い言われると、ふと自信めいたものが芽生えそうになる。いや勘違いだからねそれ。でも・・ほんのちょっとだけそれが嬉しかったのは内緒の話。
元彼との再会まで、残りあと1日。
明日を挟んで、明後日が約束の日。
続く

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