でもと反論しかけた僕に、暁都さんは矢継ぎ早に続けた。
「仕事用にパソコン必要なら俺の貸してやるよ」
「着替えも寝巻きも全部準備するし」
「それにな、携帯なんかあるから元彼が気になるんだよ、ならしばらく携帯から距離を取るのが正解だ。違うか?」
うぐっ・・!
ここにしばらく住んだって何も問題はないはずだと言わんばかりに外堀を埋められていく。でも一番肝心の・・!
「でも・・あの、その、僕まだ・・」
「?・・ああ!別に無理にアナタを襲ったりはさすがにしないよ。安心して?
ここにいりゃ3食昼寝&この色男の俺付き。良いでしょ?海も見えるこの高級マンション、家賃タダだし、ね!」
両肩をタアン!と叩かれて押し切られそうになった、いやでも・・!
「で、でも!僕、元彼に居場所ばれましたし!!ここにいると迷惑掛かるかも!」
色々はしょって言った。そうなんだ、元彼と今彼(みたいな人)が衝突なんてなったら色々イヤすぎるし・・!
そう言うと一瞬暁都さんは目を丸くしたが、すぐに立て直してニヤリと笑った。
「元彼の襲来が気になる訳ね?良いよ別にソイツが来たら俺が説教して追い払うし。むしろ会ってみたいもんだわ」
心底ワクワクしてる顔で彼は言った。
「てな訳で君今日からここが根城ね。以上!」
そう締めくくられてしまった。
え、僕本当にここに住むの・・?なんて信じられない思いでいたが、その後もっと信じられないことが実現することになるなんて、その時は思いもしなかった。
『地獄の三者面談のお知らせ』
「はい君の寝巻き〜下着〜明日の着替え〜♪」
ここはとある百貨店。例の外車で連れて来られて来てしまった。
機嫌よく暁都さんはぽいぽいとロクに値段も見ずに棚から選び取っていく。
しかし僕には値段は見えている。ただの何でもないハンドタオルが5000円て何この店・・!?
『本当困ります!!自分で買いたいけど買えないし・・!!!』
ひそひそと言った。自分で買えない己のダサさよ。
「え?なに?良く聞こえねえなあ。・・まあ金は気にするな。その分サービスしてくれればそれで良いよ♪」
『何を!?』
「え、まず執筆作業する俺にコーヒー出す係でしょ?あとは風呂入る時に背中流してもらって〜耳かきもお願いしよっと」
大きい声でこんなとこで何を!?
わ〜っと僕は暁都さんの口を押さえて言った。
「声が大きい!!!!」
ふはは!と吹き出して彼は言った。
「一番うるさいの君だよ?レジ行ってくるね〜」
心底楽しそうにレジに去って行った。くそ、わざとか・・!それにしてもお金持ちの道楽は、僕には良くわからない。
両手に袋あれこれ下げて百貨店を後にした。食材とかも色々。
そんなにいる?ってくらい色々買ったけど、これって・・
「僕、いても2日とか3日の予定ですよ・・?」
「え?今後ずっとでしょ?さっきそう決めたじゃん2人で。やだなあもう忘れちゃったの?おじいちゃんめ」
「僕よりあなたの方が歳上ですけど!?」
「突っ込むとこそこなのかよ」
キイ〜ッてなっている僕を、彼は楽しそうに見下ろした。そしてノロい人置いてくよ!と車へ向かって走り出す。
待ってとその背中を追った。
暁都さんはカッコいいし好きではあるけど、僕は時々すごく振り回されている気が、する・・。
家に帰る車の運転中。赤信号で止まると、暁都さんはポケットから携帯を取り出し通知をチェックした。彼のではなく、僕の。
「お、元彼からすげLINE来てんなあ。『さっきの奴、新しい男?』って。恋人だって俺言っただろうが。
それ以外は特になし。以上」
機嫌良く携帯をしまおうとしたので、返してとダメ元でその手に飛びついてみた。
しかしサッとかわされ、そして助手席に押し戻された。
「俺運転中の身なので!やめてもらえます〜?
俺に構って欲しければそこで俺へのラブレター朗読してね。まあそれかどっか駐車場止めて車でイチャイチャしても良いし」
「しませんけど!?・・携帯返してくださいよお・・」
「無理」
青信号に変わってブウンと外車は走り出す。僕はうわあと揺られながら家へ再度連れ帰られた。
夜。暁都さん家で僕は食事係に任命され、じゅうじゅうと焼いていた。たこ焼きを。
「こんな庶民的なもの食べるんですか・・?」
「うん?俺たこ焼きもお好み焼きも好きだし食うよ。まあ好きな子が四苦八苦してるの見たいだけってのが今は大きいけどね」
「じゃあ手伝ってくださいよお・・!」
そうなんだ。わざわざ今日買ったたこ焼き機を前に、僕は四苦八苦していた。
僕たこ焼き返すの下手だから、わりとぐちゃぐちゃになってしまっている。
「絶望的な状況だよねえこれ。好きな子が困ってる顔って最高だなあ・・」
「何言ってんるんです!?」
カラカラと酒のグラスを回して上機嫌に暁都さんは言った。僕をつまみに飲みたいとか、訳わかんないことを言って・・。
でもその顔は幸せそうな感じで、本当何で?って感じ・・。こんな平凡でつまらない僕を何故こんな気に入ってくれているのか、やっぱり今だ僕は腑に落ちないでいた。
・・やっぱ気まぐれ、だよなあ・・。
それか金持ちの遊び?暇つぶし・・?
なんて思いが渦巻く一方。彼は時折僕の携帯の通知をチェックしては難しそうな顔をして、そしてまたポケットにしまっていた。
それが物凄く気になっていたが、頑なに内容は教えてくれなかった。
その後リカバリー不能なくらいぐちゃぐちゃになったたこ焼きを前に、ようやく暁都さんは重い腰をあげた。
僕からたこ焼きピックを取り上げると、ネタを継ぎ足してほいほいと返していき、あっという間に美しく仕上げていた。
その無骨な手はすごく器用だった。
僕がやった意味・・?って訝しげに見上げたら。
「んな怒んなよお」
って抱き寄せられて、こめかにキスを掠め取られた。
ああ、結局こうやってなし崩しにほだされていく予感がビシバシとします。神さま・・。
夜23時。『風呂一緒にどう?男同士だし良くね』っていお誘いをなんとか断る。
いや一体どの口が言うんだか。先に暁都さんに入ってもらい、僕はその後1人で入った。のだけれども・・。
テルマ○ロマエか?みたいなお風呂にびっくりした。でっか。一人暮らしにこの設備いる?
なんて思いつつ、折角なので長湯することにしてしまったちょっとミーハーな僕。
ただ、油断して湯船に浸かってたところで、いきなり『背中流してやろうか〜?』なんて曇り戸の向こうから声掛けられたもんだから『あっちいってて!!!』なんてつい言い返しちゃったことは、反省してる。
同じベッドでは絶対に寝ないぞと固い決意を胸に風呂を上がる。用意されていたフカフカの寝巻きは人生で着たことのない触り心地だった。
頭拭きつつリビングに行ったら暁都さんはまた難しい顔をして僕の携帯を見てて・・今度は何かタタタタとメッセージを打っていて!?
「ちょっと!?誰に何を送ってるんですか!?」
「やべっ見られた」
って小さく聞こえた。
駆け寄ったらひらりとキッチンの方に携帯ごと逃げられてしまった。
「来ないで来ないで!これ以上俺に近寄ったら携帯水没させっからね?」
携帯を台所のシンクの真上でひらひらさせる。
「く・・!いや、あなた本当何したんです
か!?」
「・・・」
キッチンからチラリと視線だけ僕にやり、そしてふふっと彼は笑った。イタズラがバレた時の子供の顔をしていて、嫌な予感が押し寄せる。
「・・いや君の元彼さあ、しつけえなあ〜って思って。今日一日様子見てたんだけど。スゲーくんねメッセージとか電話とか。
んでさあ・・俺我慢出来なくて作戦変更。お前一回出てこいよ今の彼氏の俺がシメてやるからって送っちゃった。ごめん。
あ、携帯のパスワードは後ろから見てたことあって知ってたこれもごめん」
ん、んな・・・!!!
「あ!良いこと思いついた。いっそ3人で会うのどう!?目の前でイチャイチャしたら向こうも諦めつくかもよ?
場所は海沿いのカフェ。良いとこでとんだ地獄の修羅場だけどまあ良いよね?」
何故か超ワクワク顔の暁都さんを前に僕は何も言えずアワアワとしていた。
そんな、無理だってえ・・・!!
続く→9話目
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