浮気攻め

【浮気な彼氏#9】元彼に諦めてもらうには既成事実が必要?

照明を落とし、ぼんやりとした間接照明のみ点けた暁都さんの寝室で。

「ねえそんな怒らないでよお」
と、猫撫で声が聞こえる。

床に敷いた布団から、ニヤニヤと笑いを噛み殺した暁都さんが話しかけてきた。

僕はそのすぐ隣のベッド潜りつつ、もそりと彼に背を背けた。そして冷たく一言。

「もう暁都さんなんか知りません」

 

さっき、元彼と三者面談とか無理です!てちゃんと断ったのに。

言ったそばから、暁都さんは僕も同席すると元彼に即ラインしちゃったんだ。さすがに僕もキレていた。

だからこうして寝る間際になっても僕らは険悪な雰囲気な訳なんだけど・・

暁都さんは終始あんな感じでへらへらしてて、僕だけが怒ってるっていうのが正しい表現だった。それが更に僕を苛つかせていた。

 

『ひとりの夜』

 

反省の色ゼロの猫撫で声は続く。

「ねえってばー」
「・・・」
「何か言ってよお。おじさん寂しいわあー」
「・・・」

無視無視。

「ねえー!俺も一応反省してさあ、ちゃんと寝床分けたじゃん。それで許してよ」
「それは当たり前ですけど!?」
「あ、やっと口聞いてくれた♪」

くそ・・!

「大体ね、小さいことでカリカリしちゃダメだよもしかして更年期?
・・って来るなら俺が先かあ」

って言って自分でケラケラ笑う暁都さん。

「この・・っ!」

人をおちょくるのも良い加減にしてって言おうと思って起き上がって振り返った。間接照明のみの薄暗闇の中、悪戯な瞳が僕を見つめていた。

「あ、やーっとこっち見た。君の負け」

彼はニッと笑った。そして僕が何か言う前に、ダダッと勢い良く布団から出てきたかと思うとベッドに潜り込んできた。

どさくさに紛れて布団の下で抱きしめられて・・!

「俺やっぱこっちで寝よーっと♪」
「最低!離して!邪魔!!」
「何でだよ元は俺のベッドだろうがよお」
「く・・!」

彼の首元からフワと何とも良い匂いがした。シャンプーとか香水とかじゃない、多分本人の体臭。それが僕の鼓動をどきどきと押し上げた。

ベッドで2人きりって、これは余りにもやばい・・!そう思って布団の下もそもそと暴れた。なのに全然拘束が解けなくて!

僕は悲痛な気持ちで叫んだ。

「も・・悪ふざけが過ぎますよ!離して!」

すると突然、僕の視界はぐるんと周り虚を突かれた。暁都さんが僕を組み敷いていた。押さえつけられて動けない!

 

「・・ところでさあ、元彼に諦めてもらうには既成事実が必要だと思わないか?」

 

真剣な声音。怖いくらいに。今までのふざけた空気は一瞬にして消え去り、彼はじっと僕を見下ろしていた。

 

「・・変な冗談はやめて・・」
「冗談じゃねえ。茶番はおしまい」

どきんと震えた。

彼の視線が僕の瞳や首、パジャマのボタンをチラチラと見ている。

それは野良犬が餌を前にして、どこから噛みつけばより美味しいか?って考えてるみたいだった。それは決まり次第すぐにでも噛みつかれてしまうってことで・・。

「や、やだっ無理矢理押し倒したり、しないって!言ったくせに!嘘つき!!」

「気が変わることはあるだろ誰だって」

サイフを押さえられた時点でこうなることは決まっていたのか?

指先が僕の耳をそっとくすぐった。

「・・っ!」

そして首筋を辿って降りていく。鎖骨を撫でた。触れられたところが熱い。心臓のドキドキがバレてしまうんじゃないか。苦し紛れに絞り出す。

「既成事実なんかいらないでしょ!?」

「いや?君からの『もう他の男と寝た』っていう一言がやっぱ欲しいんだよ。未練がましい男には超効くからな。・・それにやっぱり俺は、待つのは性に合わない」

言うや否や、首筋に噛みつかれた。そして吸われた。血が出てしまうんじゃないかってくらい、強くきつく。

「ああ!」
僕は叫んだ。ふうふうと吐息を間近に感じる。僕はこの息遣いをこれからきっと忘れられない。

寝巻きの裾から手が入り込む。肌を撫でられたところから蕩けてしまいそうだ。でも彼に飛び込む勇気がないまま、なし崩しなんて怖かった!

「やだ・・っ!」
「俺のこと好きでしょ?」
「・・っ!」
「否定しない、やっぱり。じゃどうして俺の求愛は蹴る?」

敏感なところを撫でられたり、摘まれたりして鼻にかかる声が出てしまう。手首をべろりと舐められて、そのまままた噛みつかれた。歯形をぎしぎしとつけていく。

「なあ?言わねえと容赦しねえぞ。このまま酷い目に合わせてやる」

ギラギラとした瞳が僕を見つめる。その視線に
撃たれてしまいそうだ。今正直に言えば助かるのか?どうする?迷ってる猶予はなさそうだ。
ドクンドクンと鼓動は大きくなって、耐えかねて僕は思いを吐き出した。

「・・あなたと付き合ってもっ・・付き合った途端ポイされたり・・また浮気されたらどうしようって、不安で・・」

彼はほんの少し首を傾げた。

「捨てねえよ。それに俺は浮気なんかしない絶対にな。なぜそんな不安なんだ」

真摯な瞳が僕に聞いた。この人は分かってくれるだろうか・・。

「元彼もそうだった。最初こそ。でも違ったんだ・・。平凡な人間が、捨てられる気持ちなんてあなたには分からない・・。
僕には釣り合わない、凄過ぎるあなたがどうせ僕に構うのだってお金持ちの道楽・・ッ!」

ぐすぐすと肩を震わせた僕。彼は強く抱きしめた。彼の心臓の音がドクンドクンと聞こえた。

「なるほどね、君の気持ちはよく分かったよ」
「・・・」

ふうと彼はため息を吐いた。呆れられちゃったかな。・・言っちゃったな。

「まあ落ち着けよ」
ぽんぽんと僕の背を叩いた。数分経って僕が落ち着きを取り戻した頃。

「もう無理に手出したりしないから安心してよ。君の本音に近づきたかっただけなんだ。
俺リビングのソファで寝るよ。・・おやすみ」

そっと唇を重ねると、照明を今度こそ全部消して彼は部屋を出て行った。遠ざかっていく足音を聞いていた。

 

嫌われちゃったかな。
暗闇の中そっと瞳を閉じる。僕はひとりの夜をあと何夜過ごせば良いのだろう。

 

元彼と会う日まで、残りあと3日。
暁都さんは元彼に何て言う気なんだろう。

 

続く

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