浮気攻め

【doll#15】僕じゃダメなの?

家に1人でいるより、元彼と遭遇せざるを得ない大学に来るほうがナンボかマシって一体どういう状況なんだろう。

今日も朝も早くから大学に来てしまっていた。教室前のベンチに座って、自販機の安いコーヒーを1人啜る。

・・僕はあれから、冷たい亮の顔と声が頭を離れなくなった。そしていつも、それと交錯する様に、以前大学で見かけた親しげな亮と翼の様子が頭をよぎっていた。

なのに何も手を打つことが出来ず、ただただ焦れて過ごす苦しい日々・・。

 

亮、やっぱり・・そういうことなの・・?

心がずきずきと痛む。

でも・・亮、信じてるからね。
親友で恋人の君を、ずっと・・。

 

 

『親友の座を君に』

 

 

来た割にまったく頭に入ってこなかったある日の授業終わり。気づけば夕方になっていた。

授業が終わってしまったので、仕方なく帰る準備をする。家に帰りたくないので大分モタモタとしていたら・・

「葵」

玲司に話しかけられた。どしたのとだけ答えた。元彼よりも、今は亮の動向の方が断然気になっていた。

「なんか今、電車遅延してるんだって。
んでさ、寒いなか駅で待ってんのもアレだし、どっかでコーヒーでも飲んで時間潰さないか?」

「え?うーん・・」

「帰る方向一緒だしさ。良いだろ、な?」

正直気乗りはしなかったのだが、ここのところ寝不足すぎてうまいこと断る言い回しが咄嗟に浮かばなかった。

それにクラスメイトの手前、やいやいするのも避けたかった。だから少しの間ならと、行くことにしてしまった。

 

 

店内にクリスマスツリーの飾り付けられた駅近くのカフェ。今の僕には幸せの象徴たるクリスマスモチーフはあまりにしんどかった。

手元のカフェモカに視線を落とした。

玲司と他愛もない話をする。本当にただの友達みたいに。お互い過去のことには触れなかった。もう良いんだ別に・・。

そんなことより亮・・。

「・・んでさ、葵。葵?」

「え、何?あ、ごめん、もっかい言ってくれる?」

上の空で聞いてなかった。

「いや、ちょっと前に葵の誕生日だったよなって。・・おめでとうな」

「え、うん。・・ありがと」

恋人としては祝えなかったけど・・ってこと?

そんな言外のメッセージを感じて僕は目を伏せた。

「・・・。亮とは順調?」

少し緊張した声。玲司らしくなかった。
それが聞きたかったの?今日。

「・・まあね」

「そっか・・」

でもさと玲司は続けた。

「最近あまりにも大学に来なくね?亮。そんな忙しいの?」

「プロゲーマーは色々あるんだよ!一般の大学生とは違うの。スポンサーとも会わなきゃいけないし、練習だって大変だし」

捲し立てた。
暗にお前ら上手く行ってないんじゃないの?って聞かれている様で怖かったのだ。それは図星だった。

それが僕の心の嫌なところを刺激した。途端にまたじりじりと心が焦げつき出す。

亮、今どこにいるの?

「ふうん、そっか・・」

玲司がポツリと言う。

いてもたってもいられなくて、僕は席を立った。

「も、僕さき帰るから!・・コンビニとか行かなきゃだし。じゃね」

「・・ッ待てよ!」

玲司が僕の腕を咄嗟に掴もうとして・・あきらめた。

『もう恋人じゃない人たち』特有の空気感がさっと漂った。それがすごく気まずくて・・

ふいと僕は出口に向かって歩き出した。

「葵!・・またな」

背後から聞こえた玲司の声は、ただの音声として受け取っておいた。そこに含まれた何の感情も、僕はもう読み取りはしない。

 

 

駅付近のコンビニの店内を目的もなくうろついた。亮との晩酌のつまみを買うとかなら、コンビニだって楽しいのに・・

ぶらぶらと見ていると、コンビニのツイッターアカウントの告知が目に入った。

ふーん・・と通り過ぎようとして気付いた。

「!!!」

ツイッターと言えば!

そういえば亮はプロゲーマーとしてのツイッターアカウントを持っている。

次どの試合出るとか、取材答えたとか、そんな仕事に関するあれこれ告知する専用のアカウント。

あれを見れば、ゲームの仕事関係の亮の動きならわかるかもしれない。ここのところの変化の理由も、何かヒントがあるかも・・

何で忘れてたんだろう?!

店内で即携帯を出した。確かアカウント名はaoだったような・・あれoaだっけ・・?何か僕の名前に似てるなとだけ思ったのは覚えてるんだよね。

てか、恋人のアカウント名すらうっすらしてるとか、本当僕のバカ、バカのバカ!

それらしい検索キーワードを入れて検索をかけていく。

・・・。

あ、あったー!!

亮のアカウントに辿り着いた。やっぱりaoだ。これ何の略なんだろう。今度聞いてみよう。聞く機会があるならば、だけど・・。

 

さっそくツイートを見ていく。びっくりするほど仕事のことしか呟いてない。なんかこう、ここ最近の匂わせとかはないわけ?くっそ・・。

スマホをスッスとスクロールしていって・・

「あった!」

つい1人ごとを言ってしまった。さっと周囲を見渡す。恥ずかしくて口を押さえた。

ツイートを見てみると、今日プロゲーマーを取材する番組に出るらしかった。ネットのテレビ番組で生配信するらしい。

よし、よし、とりあえず今日はこれを見てみよう!インタビューされて何かポロッと喋るかもしれないし。

何より、この前最後に見た冷たい亮じゃなく、営業スマイルでも良いから普通の亮が見たかった。

 

 

家で、スマホに齧り付いて生配信を今か今かと待った。

パッとインタビュアーの芸能人と一緒に写った亮。

「・・亮ー!!」

久々にちゃんと見れて嬉しい・・けど改めて明るい照明の下で見ると、随分痩せたような・・やつれたというか。どうしちゃったの?

 

取材は色々と進んでいく。
その中で『プロゲーマーの自分にとって1番大事な人を紹介する』ってくだりがあって、そこで紹介されていたのが・・

 

翼だった。

 

やっぱり馴れ馴れしい翼。

そんな、どうして・・?

 

「僕の1番の親友なんすわ」

とスマホの中の亮は言った。

 

その言葉に愕然として・・

嘘でしょ?

親友は僕でしょ?それすら、もう翼に取られちゃったの・・?

 

「翼くん、えらい美形やね〜!こんな子近くにおったら目が肥えて普通の女の子じゃ物足りなくなるんちゃう!?」

なんて冗談めかした芸能人インタビュアーの言葉が、僕の心に深く突き刺さっていた。

 

続く

【doll#16】翼を引っ張り出して2人きり呆然として、気づけば配信の終わっていた番組。アプリを落としてLINEを開いた。そしてメッセージを打った。 『亮、今日の生配信見たよ...
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