浮気攻め

【doll#16】翼を引っ張り出して2人きり

呆然として、気づけば配信の終わっていた番組。アプリを落としてLINEを開いた。そしてメッセージを打った。

『亮、今日の生配信見たよ。翼が親友なんて嘘だよね?

信じて待ってて良いんだよね?
もしそうなら、スタンプ1個で良いから返信ちょうだい』

祈るような気持ちでそう送ったLINEには、翌日になっても翌々日になっても返信が来ることはなかった。

 

イライラと毎秒の様にスマホチェックが止まらなくなった僕の元へ、1通のLINEが届いた。

皮肉にも翼からだった。

『もうすぐクリスマスだねー。今の彼氏くんとは順調?僕は亮くんと今度出かけてくるよ、葵ちゃんにもお土産買ってくるね♪』

煽りメッセージに怒りが止まらない。
けど今は翼は貴重な亮の情報源だ。だから・・

 

『今度ふたりで会わない?』

そう初めて僕から悪魔を誘った。亮の邪魔になるかもしれないと分かっていたけれど。

 

 

『悪魔と初デート』

 

 

あおいー!と待ち合わせ場所にすごく嬉しそうに現れた翼。

大きめのキャメル色のダッフルコートに身を包まれた冬仕様の翼は、人によっては天使と評しそうな様相だった。僕にとっては地獄の使者でしかないが。

ゆっくり話そうと言って、人目につかない喫茶店の奥のソファ席に2人で並んで座った。

「葵が誘ってくれるなんて嬉しいな〜。僕らの最初のデートだね」

そうニコニコと言った翼。その嬉しそうな表情からして、信じがたいけど翼は本当にそう思っているらしかった。

な、なぜ僕をそこまで・・?本当に翼の頭ん中は分からない。仮に僕を好きだとして、だから壊したいってまじでどういう思考回路だよ。

 

居た堪れなくて視線を落とした僕の手元には、翼に無理矢理おごられたカフェオレとチョコクッキーを載せたトレー。

 

それでさ・・と翼は切り出した。

「聞きたいのはどうせ亮くんのことなんでしょ?」

大きな瞳が僕をじっと見つめた。

長いまつ毛が瞬いて、ずっと見ていると吸い込まれてしまいそうだ。この形だけは綺麗な瞳に。

「ん、うん・・」

頷いた。なんでも良いから知りたかった。でも翼の言葉は嘘だらけだと忘れてはいけないと自分を戒める。

「そうだなあ、教えてあげても良いけど・・対価がないと・・ねえ?」

うっ出た。

「対価って・・?」

翼はニコリと笑うと、僕のチョコクッキーをひとかけ割って僕に差し出した。

「はいあーんして。1個食べるごとにちょこっとずつ教えてあげるよ♪」

「く・・・!」

「ほらほら、知りたくないの?じゃあ教えてやらないよ、ほら早くしな!」

後半のキツい言葉尻が、翼の本性を物語る。コイツ本当にSだよ。

仕方なくパクついた。と思ったらクッキーと共に翼の指が咥内に遠慮なく突っ込んできた。口の中をいじり倒して出て行かない。

 

「んんんーっ…!」

むぐむぐと涙ながらに睨みあげる。コイツ、くそ…!

アハハと翼は笑う。
「良いね〜!その顔、本当最ッ高」

 

ようやく出て行った指先。

全く味のしないチョコクッキーを急いでカフェオレで流し込んだ。再度キッと睨みあげた。

「怒ってもかんわいいねえ・・。そうだなあ。亮くんが今どこに住んでるか、教えてあげよっか?」

「!」

コクコクと頷いた。

「亮くんねえ、今僕と一緒に住んでるよ」

「え!!!?そんな、い、いつから!?」

「聞きたい子はもう一個あーんしないとダメ。ほら口開けな」

教えて欲しくてパクついた。翼の指先と共に…。嬉しそうな笑みの翼は言う。

 

「ここ最近だよ。亮くんが僕にお熱で困っちゃうね本当」

ぽろ・・とチョコチップが口の端からこぼれた。

そんな・・。

チョコチップを拾い上げ、翼は舐めとった。

「・・ショック?」

「・・・」

翼の大きな瞳が僕をじっと覗き込んだ。

 

言葉にならない思いが込み上げる。

亮・・。

反応のない僕の耳元で、内緒話するみたいに翼はヒソヒソと続けた。

「あとね、亮くんにもう手出しちゃった。手を出されたって言い方のほうが正しいかな?ゴメンね?

まあ悪くなかったよ。亮くん体力ありすぎて回数が多いからさ。相手するの大変だけどねいつも」

「・・!!」

睦み合う2人のイメージ。想像して打ちのめされた。

突き飛ばした。立ち上がった。

「もう良い・・!もうたくさんだ」

涙がひと粒、ぽろりとこぼれ落ちた。

コートを持って僕は喫茶店を駆け出した。

 

 

バタバタと駅に向かって走っていたら、待ってよとひと気のない路地で翼に追いつかれた。

ぎゅっと腕を掴まれて、逃げられない。コイツ何で足まで速いんだよ。

ぜえはあと息をつく。翼の顔なんか、見たくなかった。

「あっちいってよ!お前なんか、お前なんか、大っ嫌いだ!!!」

「まあまあそんな怒んないでよ〜。あ、ちゃんと手はキレイキレイしてきたよ?」

そんな猫撫で声とは裏腹に、強めに路地の壁に押し付けられた。

 

「僕がさ、対価はもらっても本当のこと言うとは限らないでしょう?甘いなあ葵は。
さてさっきの話、嘘はどれでしょう?嘘は1個かな?全部かな?」

くふふと翼は笑った。くっそコイツ・・!!!

ギリギリと睨みあげた。

「ま、全部が本当かもしれないけどね?」

ニコニコと翼は言う。

もう嫌。会話があっちいったりこっち行ったり、コイツと喋ってると気が狂いそうだ。

「・・も、帰るから。本当離して」

そういって跳ね除けようとしたら・・。

 

翼は突然壁にダアン!と手をついた。殴るみたいに。

びっくりして二の句が継げない僕に覆い被さる様に翼は言った。

「葵が可哀想だから、これだけは本当のことを教えてあげるよ。
・・亮くん、結構カッコ良いねー。しかも健気でさあ、気に入ったよ。僕、本気で獲りにいこうかな?付き合ってみようか」

狩人の瞳をギラギラとさせて翼は言う。

そんな・・。

「ああでも安心して?僕は葵が本命だからさ!・・あ、いっそ3人で付き合えば楽しいかも?そしたらさ。3人でしよーね?」

 

アッハハと笑った翼。そうやって最後に信じられない一言を吐いてじゃあねー♪と帰って行った。

 

置き去りにされた僕は、ずるずる・・とその場にへたり込んだ。

頭抱えた。

あの悪魔に自ら会いに来たことを、僕は心から後悔していた。

 

・・結局翼の話は何が本当で嘘なのかは分からない。

でもほぼ確実だろうと言えるのは、翼が結構亮を気に入ってしまったということ。

これでもし亮が翼になびいているなら・・

 

 

翼に取られちゃうのかな?玲司の時みたいに・・。

体中の血が消えて無くなりそうな虚無感に僕は支配されていた。

 

亮、それでも僕は・・。

 

 

続く

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