亮が音信不通になって10日が過ぎた。
その効果は僕の胸を抉るほど。
亮に何度も送ってしまったLINEは未読のまま何も返信はない。
だけどごくたまに一気に既読がつくもんだから、期待してまたメッセージを送って。でも結局返信こなく更に不安になる。この繰り返し。
その一方、翼からメッセージがふいに届くことがあった。『亮くんて良い身体してんね。空手家の腕枕、最高だったよー♪』だの『案外遊んでんだねー亮くん。知ってた?』だの・・
どうせまた翼の変な嘘に決まってる!と思いつつも、亮自身と連絡が取れない中での意味深メッセージにバキバキに心折れそうだった。
だけど時折亮も写る2人の写真を送りつけてくるもんだから、もったいなくて翼をブロックも出来なくて・・
亮。何もかも狙い通りってことで、良いんだよね?そうだよね・・?
ああ、でもまさか・・?いや、亮に限ってそんなことあるわけが・・でも・・
悶々と過ごす日々。
亮が愛用していた青色のパーカーを素肌に着て眠るほど僕が病み始めた頃。
大学からある日帰ったら、亮のゲーミングPCだのデスクだのが一式なくなっていた。
僕は悟った。
亮が本当に長くこの家を留守にする気だと。そして今後戻ってこない可能性が浮上してきた、とも・・
『予兆』
気づけばもう11月。街中はクリスマスムード一色に染められていた。もちろん今の僕にそれを楽しむ余裕など1ミリもない。
出かける気にもならず、鬱々とベッドで過ごしていた。
思い出すのは『俺を信じて待ってて欲しい』と言ったあの日の亮の真摯な眼差し。今の唯一の心の支え。
だけど・・。どうにも不安で堪らなかった。亮がいなくなって3週間。もう限界だった。
亮を探しに行こうと決めた。
余計なことはしない方が良いかと思っていたが、もうそうも言ってられなかった。
きっと翼のいない場所で2人きりで話す分には大丈夫だ。きっと亮なら抱きしめてくれるはず。
その日の夜。僕は新宿のゲームセンターに来ていた。
亮といえば大体ここのはずだけど・・いつもの台にも、トイレにも見当たらなかった。
3時間ほど待ってみたけど、亮は現れなかった。
もしかして別のゲームセンターかと思い何軒か行ってみたのだが、やっぱり亮はいなかった。
最後に寄ったゲームセンター。
店内をうろついていたら、運悪く柄の悪い男の人に絡まれてしまった。身長190くらいはあろうかという大柄な男。
何してんのと大きな声で聞いてくるもんだから、人を探してたんですけどいないので帰りますと行ってそそくさと立ち去ろうとしたら。
「なら兄ちゃん、俺が遊んでやるよ」とタバコくさい吐息で迫られた。手首を掴まれそう、嫌な予感!
僕は脱兎の如く逃げ出した。
待てよ!という声は聞こえない振りをしてただただ走って逃げた!冗談じゃないよ、ホント!
だいぶ走って逃げた先で、トボトボと路地を歩いた。色んなことに萎えていた。
絡まれるとか本当最悪。てかどこに行ったら亮に会えるの?今日も翼と一緒にいるの?デートなんかしてるの?教えてよ亮・・
萎え萎えになりながらスマホを開く。亮からLINEなどもちろんない。知ってる。確認したかったのは時間。
もう時間は大分遅かった。帰ろう・・と思った矢先。少し先の小さな居酒屋から
、スッと誰かが退店した。
背の高い金髪の男性。あの後ろ姿、あの歩き方、もしかして・・!
「亮!!!」
びっくりして振り返ったのは、やっぱり亮だった。
逃げようとした亮のそばに駆け寄って捕まえた。すごいお酒の匂いがした。こんなに飲むなんて、らしくなかった。
「今までどこ行ってたの!?何で逃げるの!?」
「・・・」
気まずそうに視線を逸らした亮。どうして?
「会いたかったよ亮」
ギュッと抱きついた僕を、亮は引き剥がした。
「・・俺は別に」
ぷいとそっぽを向くと、またすたすたと歩き出した。そんな。
「ねえ亮、どうしちゃったの?ここなら2人っきりだよ、翼を気にすることもない」
「別に気にしてねえ」
待ってよとその腕に縋りついた。雑に振り解かれた。
「帰ってくれ、邪魔だ」
「そんな・・なんで!?」
それでもめげない僕を、亮は無理矢理タクシーを捕まえて押し込んだ。
「コイツ新宿駅まで。大分酔っ払っとるんですわ。何言おうが絶対新宿駅までは連れてって下さいね。たのんますわ」
そういってタクシー運転手に数万渡し、バタンとドアを閉めた。
「亮!!!」
タクシーは走り出した。遠ざかる亮。そっぽを向いて、反対側に向かって歩き出したその寂しげな後ろ姿だけが焼きついた。
絶望的な気持ちで家に着いた。着いてしまった。
どうして・・?
翼に何か弱みでも握られてるの・・?
脅されてるとか・・?
サイコパス翼ならあり得る。
・・それなら僕に相談してくれたら良いのに。あの場に翼はいなかった。
それか翼に無理矢理押し倒されて心に傷を負ったとか・・?
でも2人の体格差を考えるとそれはありえない。それに亮は空手家だ。多少力が強いくらいの翼に押し倒されたところでどうにでもなる。
じゃあ・・もしかして・・
『亮くんて良い身体してんね。空手家の腕枕、最高だったよー♪』
翼のメッセージが頭をよぎった。どうせしょうもないハッタリのはずだと思っていたけれど・・
まさか・・あのメッセージは本当だったりする?
翼に心変わりしそうなの?亮・・
続く
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