浮かれた時間を過ごし、宿の豪華過ぎる夕飯を食べ終えて大満足して眠った初日。
(あんなに巨大な伊勢海老は人生初めてだった!)
あえてややこしい相談事はせずただキャッキャして過ごしたけれど…。
とはいえ、瀬川さん対策もあるし実家訪問対策もあるし、ただ楽しむだけって訳にもいかないよねと僕は思っていた。それは暁都さんだってそう思っているはずだった。
だから2日目。お寺なんかを観光しながら、僕はそれとなく暁都さんに切り出すことを決めた。
『詳しく教えて』
暁都さんとお寺を巡った。縁結びのお守りをアレコレ品定めしている暁都さんの後ろ姿はちょっとかわいい。
「こっからここまで全部ください」
諸々押し寄せる不安がそうさせたのか、大人買いしてるのは彼らしかったけれど。
まあ、あとは絵馬に『ずっとたくみと一緒にいられますように』って堂々と書くのも彼らしかったし、
お賽銭箱に躊躇なく万札を突っ込んでいくのも実に彼らしかったけれど…!
(僕の分も合わせて二万)
「ちょっと休もっか」
だなんて休憩に立ち寄ったお茶屋さん。赤いフェルトの貼られた椅子に並んで座り僕らはおしるこを食べることにした。
周りに人がちょうどいない。今だ。
「おしるこあっつ〜。ねえねえところで暁都さん」
「ん?何あーんしたいの?いや俺にして欲しいのかな?」
若干目尻を下げつつ、調子乗りがちな暁都さんに僕は熱めのおしるこを一口食べさせつつ…。
「瀬川さんさあ…」
「ブフウ」
顔を顰めた暁都さんだった。
「うう、あっち、くっそおたっくんめええ…え、であの邪神が何?」
「邪神」
暁都さんは心底イヤそうに頭を振った。
「家帰ったら俺らの家に居たりしてな?うわっ心底おぞましい。しかしあり得るのが怖いところだ」
ぶるりと身を震わせた。僕以上に瀬川さんが苦手になってしまった暁都さんだった。
「まあ、何とかするさ…!最後は呪術に掛けてでもな…!」
ギリリと拳を握っている。
あっだからさっき悪霊退散の札まで買ってたのか…?
僕の元彼・辰也の時は暁都さんのKO勝ち!って感じでいともアッサリと追い返してしまったのに。暁都さんにも相性の悪い人ってのがいるもんだなあ。
あ、相性が悪いと言えば…
「…ちなみにさあ、暁都さんの実家ってどんな感じなの…?」
色々突き上げがあるって話だったしなあ。ご家族ってやっぱり厳しいのかな…。
「……」
ふと力が緩み、すこし俯いた暁都さん。
その綺麗な横顔は、一体今何を思い出しているのだろう?
「…昔からあるデケー家。だから暖炉とかあんだよ今どきウケるだろ。あと書斎があって本ばっか。中庭では訳のわからん季節の花が毎年咲く。まあ金木犀くらいは俺も分かるが」
「中庭」
つい驚いてしまった僕に、暁都さんはヤベという表情で一瞬顔をしかめた。
「あー、ところで知ってる?金木犀ってオスしかいないんだよ。あいつら中国原産でさ、より花が美しく香りがつえー雄株だけが日本に入ってきて、挿し木で増えたんで日本には雄株しかないってワケ。毎年オスの香りをありがたがって嗅いじゃってたわあ俺」
何か虚空を見てぺちゃくちゃ喋りだした暁都さん。話逸らしたいんだろうなと苦笑する。
でももう少し教えて欲しいんだ、暁都さん家のこと。
「あー、えっとそんなに広いってことはもしかしてお手伝いさんとかいる系?」
「まあ、多少は…」
「えっ何人もいるの!?」
「あ、くそ、まあ。はい…あ、たっくん今度ウチのメイドさんのエプロン着てみる!?」
「着ません」
ジーンズ越しにギュウウと膝をつねってあげた。
「いってえええ、たっくん結構力つえ〜からな」
たははと苦笑した暁都さん。
「まあ、でも嬉しいけどね。たっくんの尻の下に敷かれてるぐらいがいーんだよな、俺は。
…別にお手伝いさんに何かして欲しいとか、ないし…」
彼はおしるこをずず、と飲んだ。はふ…と吐いた息は白い。
「まあね。自分で言うなって感じだけど名家ですよウチは。だから色々面倒なんだよ…一緒にいる相手も自分で決めれんくらいだ」
お金持ちなのって大変なんだなあ…。庶民の僕には分からない。
「…先に言っておくと、外車が4台ある。ナントカとナントカ。車名は忘れたが。あと本館と別に別館もある。まあ、観光施設だと思って訪れて欲しい」
「え!?う、うん…!?」
別館て何…?という僕の疑問を察知したのか。
「…お金持ちなんだねー、って線引きされるのが俺は嫌いなんだ。金持ちだから好かれるのも嫌だが、遠巻きにされるのも嫌だ。
…たっくん、ウチに来ても引かないでくれるかい」
「うっうん…!」
一体どんな家なんだ?まあ、あときっとそれに見合う厳しいお家なんだろうなあ…。
暁都さんだって、こんなちゃらんぽらん風に装っているけれど、実はお育ちが良いんだろうなあというのは前から思っていた。立ち振る舞いがやっぱり普通の人と少し違っていた。
「まあまあ、僕は大丈夫だよ!あー、えっとご家族の方が僕をどう思うかの方が不安なんだけど…」
「自慢のたっくんだ、何も言わせないさ。
…ただ…」
「ただ…?」
暁都さんは僕の手をギュッと握った。
「……俺は正直不安なんだ。
俺の父親がさ。随分面倒なタイプでな。
元々大学教授をやってたんだが、相当頭は頑固だ。
何とか別れさせようとしてくるだろう。君に随分失礼なことを言うかもしれない。
だからもしかして本当に駆け落ちをすることになるかもしれない。今の家を捨てて、下手すりゃどっか海外にでも。
たっくん…ホントの本当に来てくれるよな?
土壇場で行きたくないなんて、ナシだぜ」
苦しそうな瞳に僕は頷いた。
いよいよ決戦が近づいているんだと身震いした。
続く
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