「星屑くん!しっかりして!」
ハッと目を覚ましたら雨宮先生がいた。気を失っていたらしかった。
「大丈夫!?まさか階段から落ちたの!?」
「・・え、はい・・そうみたいです・・」
起き上がる。
「大丈夫!?」
「あ、はい。頭はズキズキするけど、なんとか平気です。あ、それじゃ・・」
そのまま立ち上がって帰ろうとしたけど、心配した雨宮先生に医務室にムリヤリ連行されてしまった。
無理しないでと、お姫様抱っこで・・。
『疑念』
「うん、軽い脳震盪起こしただけで大きな問題ないね」
医務室の先生のチェックを一通り受け、僕は命に別状はないマークを取得した。
「えっでも病院でちゃんと検査した方が良くないですか!?」
雨宮先生が食い下がる。すごく心配してくれてありがたいんだけど、ちょっと過保護な気がする。
「大丈夫ですよ。今日1日様子見するくらいで」
やや苦笑しつつも医務室の先生に言われ、僕は解放された。
雨宮先生と医務室を出る。辺りはもう真っ暗になっている。大分遅くなちゃったなあ。梓、心配してるかな。
チラと鞄から覗きみた携帯には、鬼のようにライン。梓だと直感した。
「それじゃ先生、すみませんお世話になりました・・」
そう帰ろうとしたところで、がしと雨宮先生に手首を捕まえられた。
「星屑くん!やっぱり今日は僕の家に泊まりにおいでよ、ね!」
「ええ!?いや良いですって!!」
「今日は帰したくない!!」
先生のテノールが廊下に響く。
強引に引っ張っていかれそうになってヤバいかもと思った時!
「ひかり!」
地を這う様な冷たい声が廊下に響いた。
梓だった。
「なかなか帰ってこないから心配して探しに来てみれば。雨宮先生も。どういうことですか?」
キレたいのを抑え込んでる声で、色んな意味でこれはヤバい!
「先生!僕帰りますのでさようなら!!」
「星屑くん!!!」
強引に梓の腕を引いて、僕はその場から逃げ出した。
寮の部屋で梓と2人。
バタンと扉を閉めるなり、梓は僕の手を振り払った。
「!」
「ちゃんと説明しろよ!」
うっやばいどうしよう!?どこから何を言えば良い!?
「ひかり、やっぱりさあ。雨宮先生と付き合ってるんだろ!?抱き抱えられてるとこ見たって聞いたよ同級生に!お姫様抱っこだったらしいじゃん、何それ!?」
「いや、ご、誤解なんだ!!」
ダアン!と机を叩いて梓は言った。
「じゃさっきの何!?僕ん家泊まってとか今日は帰したくないとか!恋人同士の会話じゃん!!」
「いや、違うって!!」
「違くない!保健室前であの会話って何!?保健室でそういうコトしてたってこと?で続きは家でって訳!?」
トンデモない方向に誤解されている!!
「俺を誘惑しといて雨宮先生とも!?信じらんない!!」
「いや、違うんだよ本当にい!!!」
「じゃあどういうことか説明しろよ!!!」
「・・!」
怒りに頬を染めている。こんな梓は初めてだった。誤魔化せないと悟った僕は、正直に白状し始めた。
「実は・・」
隠しておいた例の手紙を見せて、雨宮先生に相談していたと打ち明けた。
「だからね、家に泊まってっていうのは、僕を守るためにって意味だったんだよ。
・・分かってくれた・・?」
はあと深く深く、梓はため息を吐いた。
「・・こんな手紙貰ってるなら、俺に相談してくれたら良かったのに・・俺ってそんなに頼りない?」
「・・梓には知られたくなかったんだ」
「雨宮先生になら良いんだ」
傷ついた顔で言う梓。何も言えなかった。
「・・・」
「雨宮先生の方が身近なんだよねひかりにとってはさ・・。
結局今日一日俺にくっついてたのは、突き落とされるのが怖かったからでしょ?俺をステキだと思っただとか、一緒にいたいと思ったから、って嘘だったんじゃん」
俺、嬉しかったんだけどなあと梓は寂しそうに言った。胸がギュッとなった。
梓、それは本当は僕の本音でもあるんだ。本当だよ。だなんて言えないから。
「・・ごめん」
とだけ言った。
夜。すごく気まずい気持ちでベッドに横になっていたら。暗闇で梓は言った。
「・・ひかり、雨宮先生と番になりたい?」
「え、いや違うってえ!」
「正直に教えてよ」
「いや、全然!思ってないってば!」
「でもさ、先生も何とも思ってない子を家に泊めようとかするかな」
「雨宮先生優しいんだよ!」
「男が親切なのは、好きな子にだけだと思うけどなー俺は」
「あずさあ!!」
「ごめん冗談だよ」
ふふと梓は苦笑した。そして言った。
「・・もし雨宮先生と番になりたくなったら言ってね。俺との番はさ」
解消するからってこと・・?
「解消、しないから」
「ええ?普通逆じゃない」
つい起き上がってしまった。僕に背を向けたまま梓は続けた。
「俺が先にひかりと番になったから、残念でしたって言ってやるんだ。ひかりは譲らないんだ、誰にも」
梓・・。
「まあさ、また何か変な手紙入れられたり、またべつの嫌がらせされたら今度は俺に教えてね。ひかりは俺が守りたいんだ。・・守らせてくれよ」
「・・わかったよ、ありがとう」
「おやすみひかり」
梓はこんなにも優しい。本当の番でもない僕にさえ。
こんな人に愛される本物の相手が僕は心底羨ましい。良いな。梓の中の僕の席は、いずれ誰かが座るんだ。
続く
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