ホラーBL

【都市伝説探索レポート#6】廃病院のカルテ①

廃病院から興味本位でモノを持って帰ってはいけない。後日、誰もいないはずの病院から電話がかかってくるのである。

『〇〇病院ですが、お持ち帰りになられたものを返してください』と。その命令は絶対だ。

万が一白紙のカルテを持ち帰ってしまった場合は、カルテに浮かんだ文字通りの臓器を差し出すことになる。

 

 

『廃病院のカルテ』

 

 

「瓦落く〜〜ん!」

人でごった返す渋谷駅の改札前で瓦落くんを見つけて駆け寄った。

普通に立っているとただの怖い兄ちゃんだけど、僕を見つけてパッと笑いかけてくれた。浮き足立ってしまう僕。

「や!偶然〜!僕もちょうどこの辺にいたの。連絡くれて良かった」

『ヒマ?』って連絡来て飛んできた僕。

なんとなく懐近くにポス、と一度体当たりしてから軽く離れた。長身を間近で見上げた。

「どこ行く?」
「んーどっかファミレスでも行く?あっちの方にあったはず」
「そうだな」

優しい声音が気がして嬉しい。

「あ、あのねー途中で傘買っておきたい。折りたたみ壊れちゃったんだ」
「どっか寄るか」
「うん」

甘えてみても受け入れてもらえるのが嬉しい。用事も一個増えたし、雨が降っても全然オッケー。

 

 

コンビニでビニール傘を買い、瓦落くんが傘をさすのに一緒に入る。へへと頬が緩みそうになるのを我慢した。

ファミレスでご飯食べて、楽しくくっちゃべってたら時間があっという間に過ぎてしまったんだ。

まあまあ終電が迫ってきていた。

駅まで走って行こうとしたけれど、雨で車の事故で通行止めがあったらしく大分迂回しないといけなくなった。

「由真、こっち!早く!間に合わないぜ!」
「待ってよおお!」

さすがに終電を逃したくない僕ら。雨でビチャビチャになりながら走った。けどまずい、間に合わないかも……!

「あ、なあここ!ここ通らねえ!?」
「え!?」

それは魚鱗病院という小さな病院だった。潰れて随分経つっぽいけど、建屋だけが残されている。

「俺ここ前に通ったことあんだよ!鍵開いてるし!中ガラガラで、まっすぐ通路抜ければすぐ駅だぜ!」
「え!?」

さすが不良、不法侵入に慣れている!?

「急げ!」
「ま、待ってよお!」

迷いなく走っていく瓦落くんの背中を追った。

 

ギュュキュッキュッキュッキュ!というゴム底の音が廊下を響いた。

中はガラガラだと言っていたけれど、古びた棚やデスクなんかが普通にあった。瓦落くんの記憶違いかなあ?それにしても嫌な寒気がする。

廃病院そのものにしか見えないんだけど!

「ねえっこんなとこよく平気だね!?」
「何もねえただの廊下だろ!流石に怖くねえよ!」

えっ瓦落くんこのデスクとか見えてない!?

ドクンと心臓が鳴る。あ、やばい気がする……クラ、とめまいがして僕は床に倒れ転んだ。

「由真!大丈夫か!」
慌てて瓦落くんが駆け戻ってきた。

「あっうん本当ごめん、なんか急にめまいが……」

僕を起こしてくれて2人立ち上がった時。

ガタン!!と音がして目の前の棚が不自然に倒れて通路を塞いだ。

バサバサと書類だのピンセットだのちょっとした金具がこっちに降ってきた!

「ヒエッ!?」

「な、何だよコレ、こんなんさっきなかっただろ!?」
「え?さっきから棚とかはずっとあったよ」
「……!!!!?」

さああっと顔を青ざめさせた瓦落くん。

本当に逃げる様にして、僕を連れてその病院の通路を走り抜けた。

 

「ぜえっ……はあ……ッ」
「大丈夫?」

汗でびっしょりの瓦落くんに水を差し出した。

結局終電は逃した。

「あそこ幽霊病院じゃねえかよウウウ……もう二度と通れねえよオエッ……」
「ううっごめん……多分霊力の強い僕と一緒だったから、かも……?」

「はは、いや、まあ良いよ別に。大事なヤツと過ごすなら慣れないとな、気にしないぜ俺は……」

えっ今大事って言った?
ちょっとドキッとしたけど真意は聞けなかった。

 

 

そして訪れた24時間やっているカラオケ。

もうここで朝まで過ごすことにした。シートも広いしちょっとなら寝られるよねってことで。

朝まで一緒かあそれも良いな、なんて僕はちょっと嬉しかったりしたんだけど。

瓦落くんが自分の荷物のリュックを下ろして、中から携帯を取り出そうとした時、異変が起きた。

「げえっ俺のカバンにメスだのなんだの入ってんだけど……!?」
「えっ!?」

瓦落くんのリュックから、古い血のこびりついたメスだのピンセットだのがジャラッと出てきたのだ!

「ううう怖えよお由真お祓いかなんかしてくれええ……ッ」

ツッパリの癖に怖がりな瓦落くんはビビり散らかしていた。

「あ、うん全然良いよ。って……コレ……」

白紙のカルテが出てきた。

半分に折りたたまれて、いつのまにか誰かに突っ込まれた感がある……。

ブル、と背筋が震えた。
ふたり目を見合わせた。

「で、でも何も書いてないし……まとめてお祓いしとくよ、うん……」

これは何か嫌な感じがする。
そうそうにお札を、と取り出そうとした時。

「えっえ、えええ……!?」

なんとおぞましいことに、さっきまで確かに白紙だったはずなのに、ぶつぶつと文字が浮かび上がってくる!

今見えない誰かがその場で書いているみたいに!

しかも内容は。

『提供物;背骨、胸骨、尾骶骨、脊椎、肺、心臓。

提供者;瓦落 駿

※新鮮な臓器移植のため、24時間以内に速やかに提出すること』

「やだあ!何これ!?」

その瞬間、同時に瓦落くんの携帯が鳴った。

ワァア!!とつい悲鳴をあげた僕ら。

その着信名は魚鱗病院と表示されている。

「な、なんだよコレえ!!」
「が、瓦落くん落ち着いて!僕が出るっ!」

瓦落くんは僕が守るんだ!

「おっおい由真あっ!」
「もしもし!?」

『あああ、あアナタあああ、患者本人じゃああああありませんんねえええええええ。変わってくくくくうください』

明らかにこの世のモノではない声にゾクッと背筋が寒くなる。

「い、嫌です!」
『さささもなくばあああ』
「うっ!?」

突然、僕の心臓が巨人に握り潰されるかの様に痛んだ!息が吸えないくらいの圧迫感に僕は倒れ込んだ!

「由真あ!!」
『かかかか患者本人にかかか代わってエエエ』

おかしなボリュームの声が携帯から漏れた。

「おい由真に何してんだテメエ!!!ぶっ殺すぞ!」

瓦落くん電話に出ないでという僕の願いも虚しく、血気盛んな瓦落くんは正義感からなのか電話に出てしまった!

『あああアナタですねええウチの病院から色々持って帰ったたたたのおおおお白紙のカルテももも持ってますねねね』

「ああ!?」
『白紙のカルテ持って行った方はあああ、ウチの患者とみなして臓器の提供お願いしておりますウウウ』

「はあ!?」
『ドナーたたたた足りなくて困ってたんですよよよよでもアナタ身体大きいから助かったたたた今晩すぐ手術』

「ふっざけんなよ!」

ブチギレた瓦落くんは携帯を切って床に投げ捨てた。

「あっ瓦落くん良いのスマホ……!」
「大丈夫か由真あ!」

床に倒れ込んでいた僕を瓦落くんは抱き起こしてくれた。すっぽり包まれている。ドキドキと心臓が鳴っている。色んな意味で。

心臓の痛みは引いた。でもはあ、はあ……と荒く呼吸をしていた。瓦落くんは心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「かわいそうに、水でも飲む」

か、という語尾はかき消された。

また魚鱗病院から電話がかかってきたのだ。瓦落くんの携帯に。

そして僕の携帯も鳴り出した。
カラオケの部屋の内線までも、一気に鳴り出したんだ!

全部切っても、何度も何度も何度もかかって来る!!!!

「い、いやああ!!」

恐怖でどちらともなく抱きついた。

 

 

続く

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