お題;三角関係のお話。
妬んだり羨ましがったり、叶わなくて悲しんだり、なんとか守りたくて必死になったりする攻めの姿が見たい。
俺 謙太郎
俺の好きな人 晴海
恋のライバル 洸平
3人幼馴染。
ーーーーーーーーーーー
俺の好きな人・晴海には、他に好きな人がいる。洸平っていうんだけど。
かなり惚れ込んでいて、他は眼中にないって感じ。めちゃ分かりやすい。目がハートだもん。
そして晴海が俺を見つめる時、分かりやすく晴海の瞳からハートが消えている。
かなり絶望的な状況だが一個だけ幸運なポイントがある。洸平が晴海のことが全くタイプでなく、そしてあいつは女遊びがひどい遊び人だということ。
完全に脈なしandゴミクズ(失礼)、だから安心だった。
それにライバルがいるからこその旨味があった。
「ね〜洸平が冷たくて……LINEの返信とか来ないんだよ。。。」
「おっじゃあ洸平から返信が来るように俺が一緒にメッセージ考えてやるよ!スタバ行かね?」
「ええ〜ありがとう!行く!早速行こう!」
洸平のおかげで俺は晴海とこうして合法的にデートすることも可能だった。
俺は洸平が羨ましいので大っ嫌いだが、せめて俺の役には立たせていた。
並んでスタバで新作ドリンクを飲みながら、晴海の恋の相談に乗るのがせめてもの俺の幸せなひとときだった。その横顔をじっと見つめた。
晴海は絵文字ひとつでアレコレ思い悩んでいる。
「どっちがいいと思う!?」
「ん〜!2パターン書いてみてよ!」
眉根を寄せて真剣に悩む晴海はなかなか愛おしい。
正直脈なしの相手にどんなメッセージ打とうが意味はないと俺は思う。
だけど晴海それでも1%の可能性アップを求めてこうして日々アプローチを欠かさない。健気なもんだよなあ。
良いなあ洸平は。何も頑張ってないけど晴海に愛されて。
ひょいと晴海の携帯を覗きみると、それはそれは丁寧にメッセージの文面が綴られている。
俺には『了解!』みたいな短文ばっかりの晴海がなあ。ギャップがひでーよ。
苦笑で昇華するにはちょっと苦すぎる気持ちを抱えて、俺はテーブルの下でギュッと手のひらを握った。
ちなみに一緒に考えたメッセージに、やっぱり洸平から返信はなかったらしい。そんなボヤキのLINEが夜に晴海から来たのだ。
こんな可愛くて愛が滲んじゃってる丁寧なメッセージ、俺に送ってくれたら長文で返信するのになあ。羨ましいもんだぜ。
『こんどご飯でも行かない?』
こんな文末でかわいく締められたメッセージを無下に出来る洸平。奴を思うと、俺はどうにも苦しい気持ちになる。
いいなあ洸平。いらないなら晴海は俺にくれよ。
LINEの向こうで落ち込む晴海。めちゃくちゃ長文で俺は励ましのメッセージを送ったのだが、それに対する返信はなかなか来ない。
落ち込みすぎてたぶんふて寝したっぽいな。返信は明日かな。
だけどそわそわと来ない返信を待ちながら、俺の夜は更けていく。
『俺が代わりに飯行ってやろっか?』って、どうやったら自然に言えるかめちゃくちゃシミュレートしながら。
分かってるんだ。考えすぎる時、そもそも脈はないと。なのに諦めきれない……。
◾️
……あ、やべ……うたた寝してた。ぱっとスマホを見ると、夜中の三時。
晴海からメッセージが来てた。おっなに何……?
『けんたろ、今度デートしようよ』
!!!!?どういう風の吹きまわし!?でもどうでも良い!!えっでもめっちゃ嬉しい!!!!
やったよっしゃ来たイエ〜〜〜!!!
……って一気にテンション爆上がりしてベッドから降りようとしたところで、ハッとして本当に目が覚めた。スマホを見る。朝8時。晴海からのメッセージ、なし。
昨日晴海を励ましたとこで、俺たちのメッセージが途切れている。
ああああああ夢かよちっっくしょう!!
しかも……遅刻じゃねえか!!!!
昨日風呂入らないで寝ちゃったからめちゃくちゃ急いでシャワー浴びて髪まあまあ濡れたまま、まあそういうセットってことでって言い訳してめちゃくちゃ駅まで走った。
走ったけど電車に普通に間に合わなかった。
あーーーーーー汗だく〜〜〜〜!!今日も晴海と同じ授業受けんのに。最悪、はあ……。
(失礼しま〜す……)
大学につき、こっそりと後ろのドアから教室に入る。
晴海がとっといてくれた席の隣に滑り込む。
「遅刻なんて珍しいね」
晴海にヒソヒソ話しかけられて、気持ちが浮つきかけるのを沈めた。今朝の夢が堪えていた。いっそ告白してさっさと振られれば、こんなに思い悩むことはないのだろうか。
……そうさ。どうせ晴海は洸平一直線。俺なんかいなくても別に平気だし。晴海は洸平だけが地球にいれば良いんだもんな。どうせ俺なんかいなくても……。
「ね、多分朝ご飯食べてないよね?これあげる。ごめんね昨日は遅くまで付き合わせちゃって」
「……!」
晴海はそっと俺の手のひらにカロリーメイトの小袋を握らせてきた。
え、好きです……。
俺はまた気持ちが浮上した。
チョロい!我ながらチョロすぎる!
でも片想い中の人にちょっとでも優しくされたら、嬉しくない人間などいないと思うのだ。
俺のこと気遣ってくれたのかあ〜これはちょっとは可能性あるのかもとか、少なくとも俺にカロリーメイトの小袋くれたあの瞬間だけは俺のことだけ考えてただろうから、あの瞬間だけは俺は洸平に勝ったなとか、浮かれながら午前の授業を過ごした。
◾️
チャイムが鳴り、昼休みの始まりを告げた。
晴海、昼飯行こうぜ!と声をかけようとした時。
「!あ、洸平!!!」
俺以上に遅刻してきたダサい男・洸平が気怠げに教室に現れると、一目散に晴海は洸平のとこ飛んでった。
晴海に声をかけようとした時にちょっと挙げた手が、行き場を失い宙を彷徨う。
ぼんやりした頭でふたりのやりとりを見つめる。
おっしゃれ〜でいかにも遊んでます風の洸平に、晴海は果敢にもあれこれ話しかけてアタックしている。それをさもダルそうに聞き流し、曖昧に返事してる洸平。いやお前、晴海はクラスメイトだろ!?最低限、話してやれよ……!
と思ったら、あいつらんとこにもう1人同級生の女の子が会話に加わっていった。洸平のお気に入りの子だったのか、見るからにパッと機嫌が良くなった洸平。なんか途端に話が弾み出して、洸平は晴海ともそこそこに会話しだした。
途端に嬉しそうに跳ねた晴海の肩。キャッキャキャッキャ、楽しそうな声が俺には聞こえる。
ああ、晴海が無視されると洸平を殺したくなるが、それなりに楽しく会話されるとやっぱり殺したくなる。心がザワザワしてどうしようもない。
ああ、もう良いだろうよお前ら。その会話いつ終わるんだ?
そろそろ割り込んでやろうかな、って思った時。
「ね〜ってかお昼ご飯一緒に行かない?」
女の子が言い出して、なんか流れで晴海も洸平と女の子と飯一緒にいく流れになってしまった……!!!
「はあ……」
ぼんやりと外の適当なベンチで売店で買ったパンを齧る。
「……はあ……」
ため息が止まらない。
頭上で秋の紅葉をまとった木が揺れている。お前も泣いているのかい?なんてな……。
味のしないメロンパンを一口齧る。食欲が湧かない。あ〜あ……。
……。
あの時の、晴海のソワソワした肩。あの後ろ姿よ。見ただけで分かるよなあ。心から洸平が好きだって。焼きついてしまっていた。
突き刺すように胸が痛むのを気づかないフリしようとした。
「このパンあめ〜な。ハハ、食堂のおばちゃん砂糖入れすぎ……」
晴海が好きなのは俺じゃない。俺は晴海をあんな風に出来ない。
晴海には俺じゃない。俺はいなくていい。どんなに尽くそうと洸平さえ現れれば一瞬だ。全部無駄なんだ。だって晴海に求められてないから。
ぼた、とメロンパンのひとかけらが地面に落ちた。拾おうとしたけど、そのまま頭をがっくり垂れさせて俺は動けなくなっていた。
晴海の心底嬉しそうなあの声が耳に響いていた。じくじくと心が痛んだ。
たまらず目を閉じる。
……今ごろ晴海と洸平はどうしているんだろう。どんなこと話しているんだろう。晴海、話してみれば案外良いやつじゃん?なんて思ってないだろうな。
あの2人に脈はないはず。
だけど俺はその答え合わせが怖くて仕方ない。
だけど、嫌な予感は当たってしまった。恐れていた通りのことが実現したのだ。
その日から洸平がなんと晴海に心開き出したのだ!
晴海は話せばいいやつだとバレてしまった。
「晴海〜昼飯行かね」
そう言われればうん!って尻尾ふりふりとばかりに晴海は飛んでいった。
晴海は俺のことを完全に忘れ、俺は心底洸平を憎んだ。
あいつ。あいつさえいなければ。なんでなんだよ。今のいままで完全に晴海なんて眼中になかったろ。なんで今更?晴海の仲良しの友人ポジションさえ危うくなった。
だって晴海は洸平が1番なんだ。呼ばれれば、いつでもどこでも飛んでいく。
洸平と過ごす時間が増えた晴海。
それと反比例するように、俺が晴海と過ごす時間は大きく減った。一緒にカフェにいくこともなくなった。さみしい。つらい。悲しい……。
こんなことってあって良いのか?
洸平なんて大嫌いだ!
くそ!!!頭がおかしくなりそうだ!!
拳を床に叩きつけた。荒れ狂う感情を押し殺して考えた。
……でも、そうだ。洸平に恋愛感情さえなければ俺はまだ耐えられる。そうだ、洸平さえ晴海を振ってくれれば良いはず……。
◾️
「……話って何」
俺はある日洸平を呼び出した。
「まあ率直に聞くけどさあ、お前、晴海のことどう思ってんの?」
洸平は片眉を上げて、何のことだみたいな顔をした。だから言った。
「晴海のことを……その、狙ってる友達がいるから。でも洸平と晴海最近よく一緒にいるじゃん?だからどうなのかな〜って、その友達に聞いてくれって言われて」
「ああ、なるほどね」
ジッと俺を見つめた洸平。
「でさあ、どう?晴海のことなんて、正直なんとも思ってないんだろ?」
ああそうだよと、洸平の口から聞けたらそれで良かった。それならまだ耐えられると思っていた。
だけど回答は予想だにしないものだった。
「いや、晴海とは付き合っても良いと思ってる」
「え……」
風がビュウと俺と洸平の間を通り過ぎていく。心臓がバクバクと言っている。血圧がぐんぐん上がっていくのが分かる。
「は?いま、なんて……」
ふっと洸平は笑った。
「いや、だから言った通り。結構気に入った。そろそろ告白しようと思ってる」
「な、なんでだよ!?お前なら選び放題だろ!?」
俺はつい洸平につかみかかった。必死だった。
「何でって。別に良いだろ。俺が気に入ったんだから」
気に入った?って言ったって、お前らがよく過ごすようになったのはここ2週間だろ?
俺は……俺なんて2年だぞ?
心の真ん中がぶるぶる震えて仕方ない。足がガクガクする。心の中を黒い感情が支配していく。
コイツはたったの2週間で俺を追い抜いて、晴海を攫っていこうとしている!
「そんなのやめろよ……!」
「はあ?」
俺は洸平に掴み掛かった!
「晴海とは付き合うなよ!」
「何でテメエにそんなこと言われなきゃなんねんだよ、俺が決めることだろ!」
くっと唇を歪めた。何かコイツを説得しなきゃ!……そうだ!
「お、お前らは絶対うまく行かない!」
「ああ?」
「晴海はめちゃくちゃ真面目で一途で、遊び人のお前からしたら絶対重くなるって!洸平、今後も女遊びしたいだろ?気持ち良いこと沢山したいだろ?
いちいち浮気を咎められて泣かれでもしてみろ。重いだろウザいだろ面倒くさいだろ!?
晴海はまあまあ面倒なやつだよ!
ならどう考えてもお前ら合わねえよ!!晴海なんか辞めとけ!!!」
言い切った。息が荒い。頭の中がクラクラする。
洸平はちょっと思案する顔を見せている。
もう一歩だ、俺。畳みかけろ!
だけどその時、割り込んできたヤツがいた。
「謙太郎、良い加減にしてよ!」
そいつは俺の頬を叩いた。
「たまたま通りがかったからこっそり聞いてたんだけどさ、ねえ何でそんなひどいことばっかり言うの!?」
ぎくっとした。晴海だった。ぽろぽろ泣いている。
その泣き顔を見て俺は何も言えなくなった。
「……いこ、洸平」
洸平の腕をとって歩き出した晴海。
待てよ晴海。行っちまうのかよ。
さく、と落ち葉を踏み締めて歩く洸平は、少し歩いて振り返って言った。
「っていうかさあ、本当はお前が晴海のこと好きなんだろ?」
「……僕は謙太郎なんてもう嫌い。行こ、洸平」
それは確かに俺の心臓を突き刺した。
連れ立って歩いていく2人の背中はどんどん小さくなっていった。寄り添って2人歩く様子に、もうとっくに手遅れだったんだと実感した。
「……晴海は真面目で一途で時に重いだろうけど、でもめちゃくくちゃ良いヤツなんだ、健気でさ……」
ひとり小さな声で付け足した。
晴海にはきっともう届かないだろうけれど。
晴海のこと泣かせるなよ、とは声に出して言わなかった。
そんな敗北宣言、洸平にだけは絶対届けたくなかった。
end
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