※悲しい話が読みたくなって自給自足です。ただ悲しくて虚しいだけの話ですので、ご注意くださいませ。
余命が2週間もない君に結婚を申し込んだのは、僕の自己満足だったのでしょうか。きっとそうなのでしょう。
でも君はうんと頷いてくれたから、たとえどんなに周りに浅はかだと非難されようとも、僕はそれで良かったと思うんです。
さようならと君を連れて病院を去っていく僕に、看護師さんたちは冷たい視線を向けることはありませんでした。
病室の皆さんも快く送り出してくれました。
べつに式場に行くわけでもないのに、二人して揃いでおめかしして、ちょっと浮かれすぎましたかね。でもこれが最初で最後だろうから、僕はつい浮かれてしまうのを我慢できなかったのです。
それに君がにこ、と微笑んでくれたからそれが救いでした。
車で隣に座ってそっと手を重ねてみると、やっぱり君はやつれていました。君に触れるのは診察を通して慣れていたけれど、改めて触れる度にドキッとさせられる。
厚めの生地で作られた白い上着を重ねて、やつれた手を隠しました。
車内から、見送りに来てくれた病室の皆を最後にもう一度振り返りました。
もう会うことはない皆……どうかお元気で。いつかまた。
ふたりの初めてのドライブでした。
外はあたたかくなんとも爽やかな青空が広がっていて、色とりどりの綺麗な花が鮮やかに写ります。湖畔に車を停め、窓を開けました。
気持ち良い風に乗って若々しい小鳥のさえずりが聞こえてきて、世界が幸福に満ちている様に感じてならないのです。
「これからどうしましょう?」
今ならどこにでも行けそうだし、なんでもやれる気がします。計らずもワクワクと弾んだ声が出てしまう。僕は医師じゃないし君も患者じゃない。そんな世界に思えました。
ふたりっきりの結婚式。小さな二人の新居。庭付きで、うさぎを飼ってとか。週末は二人で買い物に行って美味しいパンとコーヒーを。2人でいつか喫茶店を開いて、なんて……。
それは僕にとってあまりにも心地良く楽しい空想だったので、僕はつい信じそうになりギュ、と手のひらを強く握って耐えました。
世界はこんなにも美しく輝いているはずなのに、
どうして君とはもうすぐお別れなのでしょう。
そっと振り返れば細い息で君は眠っていて、車の窓ガラスの向こうでは色とりどりの花が生き生きと綺麗に咲いている。
始まる命もあれば終わる命もある。それは医師の自分が一番分かっているんです。世界はどうしてこんなに残酷なのでしょうか……。
end
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