※何もハッピーな話じゃないです
「……それじゃ、授業終わったらまたくるから」
「うん」
「勝手に帰るんじゃないぞ」
「分かってるってば」
困った様に笑うハルカ。
その背中が教室に入っていくのをしっかり見届けた。
俺とハルカは別のクラスなんだ……残念だけど。
『授業どう?』
『難しい』
『あとで一緒に勉強しような。1人で悩むんじゃないぞ』
少し時間があく。俺はそれだけでソワソワしてたまらない。様子見てこようかな。『先生、ちょっと僕頭痛くて……』などと腰を浮かしかけたとき。
『分かった、お願いします』
返事が来てホッと脱力。良かった……。
授業が終わり次第、俺はハルカのところに飛んでいく。
いつも喋ってる廊下にいないから、教室の中を覗くとハルカはなんとクラスメイトと喋っていた。
普段は浮かない顔をしているハルカがすごく嬉しそうにしていて、ズキッとした。あんな顔久しぶりだ。いや久しぶりどころか……初めて見るかも。
それにしてもハルカが誰かとつるんでるなんて稀だった。一体どうしたっていうんだろう。
「お〜っすハルカ」
心臓がバクバクしつつ、できる限り平常心を装いつつ声をかける。途端に振り返ったハルカの友人らしき彼ら。男らしい爽やかな男と、本当に綺麗なロングヘアの女。2人とも人形みたいだ。
「と、友達?」
「うん、最近仲良くしてくれてるんだ。おかげで学校が楽しいよ」
にこと笑う2人。
「へ、へえ〜……あ、俺はハルカの恋人。ハルカと仲良くしてくれてありがとう」
いえいえ、と彼らは楽しそうに笑った。
ドキッとした。こんな爽やかなハルカの笑顔なんてまず見ないから。
よっぽど楽しいんだなハルカ。それは良いけど。
俺は複雑な気持ち。ハルカに居場所が出来てるのは、良いことだけどさ。
俺は後ろ髪引かれる思いでハルカのいるクラスを離れた。チラッと見た彼らはすごくイキイキとした顔で笑い合ってくすくすと話していた。
皆キラキラしている。あのハルカさえ。
それがやけに印象に残った。
なんの話してるんだろう。そんな楽しい話題があったのか。そんなに気が合うのかお前ら……。
その日の夕方、ハルカから先手を打たれた。
『今日はやっぱりミレイとイツキと帰る。ごめんね』
あー、あの2人ね。ふーん、まあ良いけど。ハルカの楽しそうな笑顔が蘇った。まああの2人なら、大丈夫かなあ……。
『了解、じゃあ帰ってきたら連絡して!話聞かせてよ』
そんなメッセージを送った。
過保護?執着しすぎ?
いやいや、ハルカは大事な俺の恋人なんだ。こんなの当たり前なんだ。
だけどそれから待てども待てどもハルカから連絡が来ない。あいつ一体何してるんだろう。
俺のソワソワはあっという間に不安と半ば確信に変わった。
俺はチャリを飛ばして必死に探し回った。
そしてついに見つけた。
学校からかなり遠い花畑。ふわふわと淡く発光する花が群をなして咲く場所。
そこに月明かりの下でハルカ、イツキ、ミレイの3人が倒れているのを。
「ハルカ!」
駆け寄った。全員意識がない。
皆すごく幸せそうな表情をして目を閉じている。
彼らの手元には花。見たところ茎を齧ったらしい。
「くそ、また自殺未遂だ!ハルカ!!」
ハルカはずっと昔から自殺未遂を繰り返している。目の離せない恋人だった。
どんなに気をつけていても隙を見つけて死のうとする。
その更生のためにハルカは親に特殊なこのスクールに突っ込まれていた。
脳内に浮かぶハルカのクラスでの一幕。キラキラとあんなに嬉しそうな顔をしていた3人。
あれは楽しく雑談に花を咲かせてたんじゃない。
あれは、
『楽に死ぬのに良い場所見つけたんだ』
『今日の放課後さっそく行こうよ』
『やった!やっと死ねる!』
って意味だったんだ、畜生!
「くそ、ハルカ、ハルカ!!!救命を!」
俺は救命士を電話で呼び、特に薄い脈のハルカの心臓マッサージをした。
「俺をおいて死ぬなよ、ハルカ!」
必死に心臓マッサージしながら俺の心の中は虚ろだった。
俺に下されている診断名はメサイア症候群。それも重度のやつ。
救世主になりたいなんて、そんな大層なことこれっぽっちも思っちゃいないなずのに。
こんなに胸が張り裂けそうなのに、誰も俺の悲しみを理解してくれない。医者も先生も。
皆、俺はハルカを利用しているという。
そんな訳ないのに!
「ハルカ!ハルカ!」
ハルカだけが俺の気持ちを理解してくれて、俺はハルカを愛している。
俺は必死にハルカの心臓マッサージを続けた。俺はあっという間に汗だくになる。説明できない涙が一筋ぽたりとハルカの頬に落ちた。
「ハルカ!」
俺の手首の過去の切り傷を、月の光が薄く照らしている。
end
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