あほんだら

【R15】【あほんだら#19】終わりの始まり

※R15です。

 

 

「わ、分かったよ。これ小切手。あと今度から本当に勝手に会わない。絶対約束するから」

「ん……寧々、こっち来て」

巽は僕を引き寄せると、ぎゅうっと抱きしめて僕の匂いを深く吸い込みそのまま目を閉じた。安心したいのだろうか……。

僕はどうしたら良いのか分からなくて、巽の頭を撫でた。金髪は少しかさついている。

「俺のこと好き?」

くぐもった声が聞こえてくる。巽……泣いてるのかい……?

「もちろん。世界で1番大好きだよ」

「……そっか」

僕にしがみつく指先がほんのりと揺れた。

しばらくして巽は僕から離れた。

「……時間だろ、ほら、店。戻って良いから。でも明日もまた会いに来てくれよ。絶対だぞ」

「うん、もちろん」

僕は巽の頰にキスをした。巽は不器用ににこ、と笑ってくれた。そして続けた。

「……それでさ……寧々。これ、小切手はやっぱりお前に返すよ。俺を選んでくれるか、試したかっただけなんだ。ごめん……。

それでな、昌也にもらった金、俺はもう使えば良いと思う」
「えっどうしたの急に?」

「だって……どうせ店帰ったって闇金の嫌がらせだろ?しんどいだろ?寧々、お前気づいてないかもしれないけど痩せたよ。それに少しやつれた。

まあ俺が言うことじゃないけどな、ハハ……。

俺はお前が苦しむところを見たくない。
昌也の1000万は渡りに舟だ。

店のローンの返済と、闇金への支払い。両方に使え。ちょっと返せば闇金はしばらく来ない。

それでちょっとは寧々も、父ちゃん母ちゃんも休めるだろ」

「巽……でも」

「罪悪感なんか持つな。小切手なんか渡す方が悪いんだぜ」

巽はニヤリと意地悪に笑ってみせた。

「……な、寧々。返そうったって断られたんだろ。なら堂々と使え」
「う、うん……」

僕は病室をあとにした。

 

……廊下を歩きながら考える。

巽は明るく振る舞ってるけど、情緒が不安定に見えた。色々申し訳なくて、巽を大事にしなきゃと僕は思った。

 

◾️

寧々の足音が遠ざかっていくのを、じっと耳を傾けて聞いていた巽。

巽にはこの先が見えている。
寧々を丸ごと救えるのは結局昌也だけなのだ。

あいつさえまた現れなければ、寧々は巽と一緒にいつまでも一緒にいてくれたかもしれない。巽が寧々一家の借金を引き受けて、夜逃げするのに一緒についてきてくれたかもしれない。

でもそんな未来はまさかの昌也の登場によって霧散してしまった。

巽にとってこれは戦いだった。

『寧々は昌也と復縁するのが結局1番良い』という理性の声と『それでも絶対手放したくない』という自分の本心との……。

 

携帯を取り出す。寧々とのメッセージのやり取りの画面を出す。

そこに自分の想いの丈を書いてみる。ひたすら書いて削除した。巽が実はやることだったが、これをやっても別にスッキリはしない。暴れそうな恋心の衝動がほんの少し和らぐだけ。

巽にとって、寧々を愛することは心の痛みを知ることと一緒だった。

 

僕はそれから、ドキドキしながら小切手を現金へと変えた。

ローン返済の分は即入金し、闇金対策のお金はバッグに入れて帰った。

ずっしりとバッグは重い。

すごい。これがゲンナマというやつだ……。

 

 

ドキドキしながら家に帰った。

だけど家の扉前で既に聞こえる怒号。ハッとした。奴ら、また来てる!

ガラと扉を開けると、中で取り立て屋に母さんが肩を掴まれ、殴りかかられそうになっている!

「母さん!!!」

頭にカッと血が昇り、僕は咄嗟に割り込んだ。
そして突きつけた!

「これ!今日はこのお金で帰れ!!!」

取り立て屋ば驚いていた。

返せる訳もないお金を目の前に出されて。きっといちゃもんをもっとつけたかったのだろうけれど、お金を出されたら帰るしかない。

彼らは渋々帰って行った。(なんでだよ)

ふん、どうせ返せるワケもないと思っていたんだろうけどね……!謎の爽快感が込み上げた。初めて闇金に対してスカッとした。いつもいびられていじめられていたから。

「母さん大丈夫!?それに父さんも!」
「ど、どこからあんな大金を?あんたまさかどっかから借金を……!?」

青ざめた父さん母さんに、僕は事情を説明した。

(三角関係のもつれ部分は全カットで、大金持ちの友達が無期限無利子で慈悲で貸してくれたということにしておいた)

感涙した父さん母さん。そうだよね。普通そうだよね。ごめんねありがとう昌也……。

 

その日僕らは本当に久しぶりに、ゆっくり過ごした。家族の時間をゆっくり過ごせたのもそうだし、何より夜静かに眠れたことが大きかった。

久しぶりに何かに追われる夢を見ないで済んだ。こんなの随分久しぶりだった。

 

 

 

そんなこんなで翌日。

「巽〜!今日はぶどう持ってきたよ」

ひょこ、とまた病室に顔を出した。
僕って病院にお見舞いに来ることに大分慣れてるな。病室でフルーツの皮剥くのも手慣れたものさ。

「寧々。随分なんか今日は顔色良いじゃん」
「う、うん!実はね……」

僕は巽に昨日あったことを話した。

「そっか。良かったな。……寧々はそうやってにこにこしてる方が良いや」

巽はまぶしそうに微笑んだ。

巽だってそもそも怪我してるのに。僕の身を案じるなんて……なんていいやつなんだ。

闇金取立て屋、巽。裏の顔も表の顔もあるけれど、それでも僕にとっては救世主だった。

「うん、へへ……それでね、頑張ってラーメン屋やってこうねって父さん母さんと話してたんだ」

「そっか。また俺にもにこにこ寧々ちゃんラーメン食わしてくれよな」

「だからあ。そんなメニューないってば」

他愛もない話で笑い合う。へへ、と笑った巽はかわいかった。なんだか愛しさが込み上げた。

こんな馬鹿話を昔もしたよね。

……あの頃は僕は昌也に夢中だったけど、巽が僕のこと諦めないで待っててくれたから今がある。

僕は巽の両手を握った。一瞬びく、とした巽の両手。

「巽、だいすき」
「!……なに、突然」
「へへ、いつか日常を取り戻せたらさ。また一緒に仲良く暮らしたいよね。ずっと一緒だよ」
「……ああ」

巽はふいっと布団へと逃げ込んだ。

「寝る」

暗に帰れと言われて、ちょっと僕は肩透かし。こんな巽はなんだか珍しいなと思った。

 

◾️

寧々がいなくなった頃……ばさ、と布団から顔を出した巽。

やれやれ……。寧々の直球な告白は効いた。心臓に良くない。昔だったら大歓喜!という感じで受け入れていただろうけれど、今は胸に突き刺さっていた。

さす……とお腹に手をやる。

傷はまだ治らない。まだここから出るには結構かかりそうだった。

いよいよここから出たら、寧々を自分から引き剥がさないといけないんだろうか?嫌だ!とでも俺に何が出来る?の間を行ったり来たり。ずっと堂々巡りしていた。

寧々の借金を自分が肩代わりして、寧々と一緒にどこまでも逃げるという作戦。これは自分が万が一また刺されでもしたら、寧々が1人諸々背負うことを意味していた。……そんなことはさせられない。そんな案を提示した自分がばかだった。

……じゃあ、やっぱり昌也のところに寧々をやるしかないという訳で……。

巽は無理やり起き上がった。水でも飲もうとしたけれど、手元が狂ってズボンにこぼれた。何もかもがよろしくない。

雑にごしごしタオルで拭いていた時。

カラ、と遠慮がちに病室の扉がまた開いた。
さっき帰ったはずの寧々だった。

「!……っ寧々、どうしたんだよ」
「巽そろそろ寝たかなって思って。起きてたね」
「起きてたらダメなのかよ?」
「いや、別に……寝てる巽にキスでもしておこうかなって思っただけ……さっき良い感じのところで巽がシャッて布団に隠れちゃったから」
「!」

寧々はなんとなく遠慮がちに寄ってきて、お互いじっと見つめ合ったままそのままキスをした。そっと唇を離してお互い間近で囁くように話す。

「……そのうち医者が来るぜ。見回り」
「そっか。間に合って良かった」
「……」

巽はこんな時なんて言えば良いのか分からない。
今まで積極的な寧々なんて知らなかったから。

「……巽、なんか僕に隠してない?」

「別に?」
「何かさっき絶妙な距離感を感じて……結局寝てないし」

!鋭いじゃないか、寧々のくせに……。

「別にそんなつもりは……」
「そう?」

寧々を巽の手をそっと握った。

「知ってると思うんだけど。僕は長年粗雑に扱われてきたからね?不仲の芽は先に摘んでおきたいな〜って……」

「!不仲だなんてそんなこと!……あるワケ、が……」

突然痛いところをつかれて後半しどろもどろになった巽。そんな揺れを寧々は見逃さなかった。

「……やっぱりなんか隠してるんだ」
「ねえよ!」
「不満があったら教えて欲しい。……ってもちろんいっぱいあると思うんだけど……」

しょんぼりと肩を落とした寧々を、巽はぎゅっと抱きしめた。傷がズキッとえぐるように痛んだが無視をした。

「寧々に不満なんかないって!」
「そう?ほんと?」
「本当本当……」
「じゃあなんでさっきそっけなかったの?」

ぎゅ、と寧々は体をこわばらせた。

傷が痛かったから、は今は使えない。じゃあ起きてんじゃねえよという話である。

「……あー、その……なんていうか……」

巽は頭をがりがりとかいた。ひとつ言い訳を思いついたのだが……。ダメだ、他に思いつかない。

「……抜きたかっただけ。溜まってたから」

みるみる内に寧々の身体から力が抜けて行った。

「なんだあ〜……」
「そ、なんだ〜って感じだろ。だからその……今日はもう帰れ」

 

 

ばいばい、とにこっと帰っていた寧々。その後ろ姿のイメージを巽はいつまでも抱きしめていた。

 

かわいかったなあ。可愛いやつだよなあ。思いっきり抱きしめたい!だけど寧々を愛しく思うほど辛かった。

 

その日はそれで思われたのだが……。
そうは問屋が降ろしてくれなかった。寧々が夜に再度病室に登場したのである。

「……っ寧々!」

再三登場する寧々。一体何なんだと訝しがる巽。嬉しいご褒美だったけれど。

「巽……僕あれから考えたんだけどね……」

寧々はやや緊張の面持ちで巽に寄ってきた。

「僕さ、自分のことに精一杯で巽のこと確かにほったらかしてたなあって……」

ほったらかしって?……夜のこと?

「僕、せめて巽の役に立ちたいんだよね。……だってこんなに大好きだから」

最後の一言が巽の心臓を撃ち抜いた。一生忘れられないと巽は思った。

「だから大人しくして?」
「寧々、一体何する気……」

ドッドッと心臓が鳴りだす。
寧々はそのままベッドに乗り上げた。

寧々は巽にキスをした。そしてその片手は巽の病院着のズボンにすっと入り込み……あらぬものをそっと握った。興奮が全身を支配した。さすさす撫でられて巽はどうしようもなかった。

「ね、寧々!」
「し、黙って。看護師さん来ちゃうよ?」

寧々のキスは深くなり、生々しい感触が巽を追い上げた。ぐんぐん硬くなるソレを制御出来そうもない。

黙らされている。やりたい放題されている。泣く子も黙る闇金ヤクザのこの俺が……。そう思うと余計に身体がビクついた巽であった。

「……う、もう、良い……寧々……」

そこにティッシュあるから、と言おうとしたけど封じられた。なぜなら寧々はふと身を沈めると、巽のソレを口に入れたから。

「!!寧々!」
「シッ!本当に誰か来ちゃうよ」

口にソレをいれたまま。上目遣いに巽を見上げる寧々。この罪深い絵に興奮しない男がいるかっての!ビキビキに硬さを増したソレは寧々のあたたかい口の中で甘やかされてなぶられ、爆発寸前だった。

「ばっバカ……!」
「いっていいよ」

負けてたまるかと最後に一踏ん張りしたけれど、最後にダメ押しと言わんばかりに寧々がれろ、と見せつけるように先端を舐め上げてくるので、めちゃくちゃ興奮してそのまま出した。

「!」

そしたら出過ぎた液は寧々の顔に飛んでしまって……。

「どう?スッキリした?」

巽はブル、と全身が震えた。絶対安静の身でなければここで寧々を襲っていたはずだった。

 

 

「寧々。その……ありがとう……」

寧々の顔を綺麗に拭いて、何事もなかったかのようにしたあとで。巽はお礼を言った。ヘタな嘘をついたおかげで正直良い思いをした……。正直なところ大満足であった。

だって寧々があんなことしてくれるの初めてだった。思い出すだけで身震いした。

これからの人生、あのことを後生大事に思い出としてなんども思い出すんだろうか。例え記憶の中でどんなに擦り切れようと。

寧々はにこ、と天使の様に笑って言った。

「巽のためなら何でもするよ。愛してるから」

巽はその心臓ごと掴まれた。だからこの時、巽は覚悟を決めた。

「ああ、俺もだよ……」

 

 

 

それから本当に寧々は帰った。
それを見送って、巽はある人物に電話をかけた。

その人物というのは……。

「昌也……寧々のことでお前に話がある。
一回どっかで病室に来いよ。場所分かってんだろ。来なきゃぶっ殺すからな」

それだけ言って電話を切った。愛想がなさすぎるが別にどうでも良い。携帯を放り投げた。

「……」

頭から布団を被って潜り込む。誰にもこんな顔、見られたくなかった。

 

巽のためなら何でもすると言ってしまう寧々。やってしまう寧々。それはこれからエスカレートする気がする。

巽に万が一があった時。寧々はその身体を誰かに差し出すかもしれない。ヤクザかどっかの偉い奴か知らないが。相手が1人とは限らない。考えれば考えるほど、身震いが止まらなかった。

だけど寧々の一途さと一生懸命さを巽はようく知っている。自己犠牲の愛を、止められないやつだというのも。

愛しているからこそ、寧々を昌也に手放すことにした。

昌也なら元恋人で、今や大金持ち……。自分のところにいるよりも、寧々の安全は確実だった。

 

 

続く

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