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「な〜つみん♪迎えありがとうね〜!会いたかったよお」
「あー!詩音くん!」
詩音は機嫌良くナツミと途中で合流した。
ニコニコでナツミを抱きしめる。
「莉音くんは?」
「なんか、店のことでやってくことあるから先帰って〜だって。車も置いてきたから徒歩だよ。ってわけで俺たち一緒に帰ろうね。ひ〜寒い寒い」
そういってナツミの手をギュッと握った。
「俺の手ずっと握っててね?」
そういって手指にキスを落とした。詩音はそれだけでドキドキが迫り上がった。
にこ、と大層美しい顔で微笑んだ。ナツミがちょっとドキッとしていることが手に取るようにわかり、内心気を良くしている。
「俺たちの関係、誰にも邪魔させないからね。ナツミんは俺だけのものだよ……さ、帰ろ」
さく、さく……と雪を踏む音が響く。
邪魔者がいればいるほど、燃えてしまう詩音である。それにしても加賀美まで参戦とはこれまた面白い。ナツミを本当に奪う日がついに来たようだ。
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2人はドアに外から巻かれた針金を、なんとか隙間からペンチを押し込み断ち切ろうとしていた。
「蹴破ったろかクソが……!」
加賀美が顔真っ赤にして力を入れながらドアを押し、隙間から莉音がなんとか針金を断ち切っていく。
ちなみに店の裏口は太めの鎖に南京錠で外から施錠されていた。
そっちは諦めて表の入り口と格闘している。
「ぬぬぬぬぬ……!!!」
加賀美の馬鹿力でドアが既にミシミシ言っている。修理費が頭によぎったが、莉音は黙って作業を進めた。
格闘しながらもなんとか切っていき、ようやく最後の一本を断ち切った!
放り出される様に外に転がり出た。
「よっしゃ!開いたで!」
「あっやば……」
転がり出た拍子に、落ちていた針金で指先を切った莉音。雪に血がぼた、ぼたりと落ちていく。
「何してんの。ブッ刺さっとるやん。絆創膏は」
「店にある……」
「はよ取ってき」
「え、でも」
「ええから早よしろや!」
莉音が絆創膏持ってくるのをめちゃくちゃ貧乏ゆすりしながら待ち、そして加賀美は莉音から絆創膏を取り上げた。そしてくるくると器用に莉音の指に巻いた。
「これでええんちゃう。ちゃんと後で消毒しとけ。これ結構深いで」
「あ、ああ……」
「ほな行くで」
「車がある、それに乗ろう」
「詩音が先乗ったんちゃう」
「いや、鍵は俺が持ってる。ズボンのポケットに入れてたから、それは大丈夫。……鞄に入れてたスマホは盗られたっぽいけど」
車に乗るものの、しかし車のエンジンはなかなか掛からない。
「雪で調子悪いのか、くそ」
「何してん君、気合が足りんで。貸せや!」
加賀美がせいっ!と力を込めて鍵を回したらエンジンは何故か掛かった。
気合いとか関係あるか?莉音は腑に落ちなかったが、車を発進させた。
「雪やば。ほんま何なん。でもこれなら詩音も遠くにはいけへんやろな」
「だと良いけど。
……なぁ、あんたさ」
「何」
「何で俺の面倒まで見るんだ。……憎んでるんじゃないのか」
「いや憎んでるけど」
「!」
「まあ俺も昔はお兄ちゃんやったからな。ナツミには言うてへんけど、俺なあ、むかし弟おったんよ。小さい頃に死んでもうて、そっから1人やけど。人の面倒つい見てしまう癖ついたんはあいつのせいやなぁ。向こうで元気にしてるやろか」
「!」
加賀美は雪の降り積もる外の方をじっと向いたまま。
「お前ら兄弟やろ。せめてそこは仲良うしとけ。な」
莉音の肩に軽くパンチされた手は、温かい気がした。それはぬくもりと呼べるほどの……。
莉音は絆創膏を巻いた指で、ハンドルを少し強く握った。
「……あんたってうざいな」
「はぁ?」
何やお前……と思いつつ、加賀美は前方を睨みつけた。
ドタバタし過ぎて落ち着かないが、ナツミに早く会いたかった。今どうしているのか、気になって気になって仕方なかった。またこの腕に抱けるだろうか?
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詩音くんと家につく。
「ひえ〜雪やばかったねえ。大丈夫?ナツミん。頭に雪被ってる」
降り積もった雪をパサパサと優しく払い落としてくれた。
「こんな寒い日は早めにお風呂入っちゃおうね。準備してくるね。ちょっと待っててね」
詩音くんはてきぱきと諸々準備している。
手持ち無沙汰な僕。え〜っと何かしよう。そうだ、コーヒーでも淹れようかな。
キッチンで2人分のカップを出してお湯を沸かす。
「あ、ナツミんありがとうね。気が利くね俺の分まで。外寒かったよねー」
「うん、良いよ」
……そんな返事をしつつ、僕は少し心ここにあらずだった。
加賀美さんにも今ごろ、別のあの女性がコーヒー淹れてるんだろうか。もう僕のこと思い出すこともなく。
「なっちゃん」
そんな折に後ろから詩音くんに抱きしめられてドキッとした。
「……さっきから話しかけてるのにお返事してくれないんだもん。さては加賀美さんのことでも考えてたな?」
「……!」
言い当てられて咄嗟に答えられなかった。
詩音くんは苦笑して、台所の淵に置いた僕の手に自身の手を上から重ねた。そのまま包むようにぎゅっと握った。
「……相談なんだけどさあ。風呂沸くまでまだ時間あるんだけよね。早くあったまりたいなら、他の方法もあるよね」
詩音くんはもう片方の手を、僕のお腹から胸元をなぞるように通って、顎下に手を掛けた。
暗にお誘いされて、僕はかあ〜っと頰まで熱くなる。
「え、い、いや、あの、その……お風呂湧くまで待つよ全然、大丈夫。あ、ミルクと砂糖取ってこなきゃ」
そうやって逃げようとした僕の、その耳を詩音くんは舐めた。
「ナツミ」
「!」
耳元で囁かれて心底ドキッてした。それにナツミってこんな風に低い声で男らしく僕のこと呼ぶなんて、初めてだったから。ドキドキが鳴り止まない。
「な、なに……」
「莉音はまだしばらく帰って来ない」
「うん……」
「君が欲しい。良い加減、もう我慢出来そうにない。俺を1番愛して欲しい」
ストレートすぎる告白に、僕は顔を真っ赤にして硬直するしかなかった。
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詩音くんは僕をそっとソファに押した。
「ナツミん。これが1番良い決断なんだよ。俺を選ぶのが君は後悔しない」
「ほ、ほんとに……?」
「そうだよ、もちろん。俺たちはこうなるべきなんだ」
僕を説得する様に、もう待てないと言うかの様に、詩音くんは僕をソファにそのまま押し倒した。栗色の髪がサラ、とひと房滑り落ちる。熱い眼差しが僕を捉える。そのまま詩音くんは僕に覆い被さった。身体が密着する中で、熱くキスされた。
キスの合間に逃れる様に言った。
「……で、でもまだ僕はその……」
「気持ちは後からついてくるよ。まずは俺の恋人になってみない。そうなってくれなきゃヤダ」
「だって……」
「莉音が怒ったら俺が君を守る。まあ代わりにぶん殴られておくよ。ナツミんに手出しさせないよ。俺と莉音の仲を気にしてなくても大丈夫。双子だからね。うまくやるよ」
詩音くんは僕の説得がうまい。包囲網が狭まっていく。
「加賀美さんのことでもう悩むの嫌だろう?俺のもにになれば、もうじくじく心が痛んだり悩むこともない。なぜって?そんな隙を与えないほど俺は君を愛する自信があるから」
そういって詩音くんは僕の耳を甘く舐めて噛んだ。重ねられた指がぎゅうっと僕の手を握りしめる。
この人のものになったら、不安になることも怯えることも、もうないんだろうか?
……僕は色んな人を渡り歩いて最低だ。だけどこれが最後の恋になるとしたら?
……加賀美さんにバカにされて傷ついた日々も、それでも加賀美さんが僕のヒーローでやっぱり大好きで悩んだ日々も、やっとの思いで離れたと思ったらその途端に何度も追ってきて心かき乱されたことも、そのくせバッタリ会ったら相手に新しい恋人っぽい人が出来てたこととか。
どうにもうまくいかなかった加賀美さんとの恋愛は、全部全部過去のものになる。
詩音くんは多分僕に全部くれる。何でも与えてくれる。この人の側にいればきっと間違いない。
勇気を出して言え、言うんだ!
僕もあなたのことが好きですって!
「ごめんなさい……離れて……僕はやっぱりまだ……」
加賀美さんにもう叶うことはない恋をしています。
「ナツミん……」
僕は詩音くんの身体をそっと押した。
諦められない様子で僕の手を握りしめていた詩音くんだったけど、しばらく悩んだあと僕から離れた。
「……無理強いはしないって決めてるから。君を大切にしたいから」
「詩音くん……」
その時。
ガチャガチャ、と玄関扉が鳴った。誰かが焦った様に鍵を開けている。
詩音くんは起き上がった。僕も続いて起き上がる。
「お、邪魔者が帰ってきた。イチャイチャを見せつけてやろうと思ってたのに。残念。
ねえ、ナツミん。
俺さ、今から勝負してきて良い?勝負に勝てたら俺のものになってよ。本気でやってくるからさ。
何も言わずに見ててね?俺たちのバトル。
勝負相手はね、莉音と加賀美さんだよ」
どういうこと?と思ったのも束の間。
「ナツミ!」
懐かしい声にドキッとした。
ドアを開けてまず入ってきたのは加賀美さんだったんだ!
「ナツミ……お前をまた迎えに来てしまった。ごめんなしつこくて、でも我慢できんかった」
「か、加賀美さん……」
また来てくれるだなんて、思いもしなかった。ドキンと心が波打つ。
「あ、あの女性は?」
「何でもないに決まってるやろ!その話はあとやわ。詩音……俺はおまえ殺さなあかんねん」
「うるせえよ」
詩音くんは好戦的に立ち上がる。その声音は僕にとっては一度も聞き覚えのないものだった。
続く

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