のろまの矜持

【のろまの矜持#30】止まらない想い

雪は勢いを増す。

詩音くんが帰ってこない。莉音くんにも連絡がつかない。

帰ってくると2人が言っていた時間はとっくに過ぎている。普段通り業務をやっていくというのなら全然良いんだけど、それならそれで一報くれそうな2人だ。

だけど何もないから、僕は妙な胸騒ぎがしていた。

どうしよう、徒歩で行けない距離じゃないから行ってみようかな?行って良いかな。

 

◾️

「タクシー本気出せや……」

加賀美はザク、ザク……と雪道を歩きながらキレていた。

色んな覚悟と不安が渦巻きながら、例の双子の住む街へとやってきた。

詳細を飛ばすが、ここにくるまでにさまざまな事由により電車が遅れていた。

なんとか最寄り駅について乗ったタクシーはタイヤがパンクしたとかなんとかで、途中から歩くハメに。

そんなにナツミと俺を引き裂きたいんか!?と天に向かってキレていた。いつでもその血圧は高い。

「いや真冬やんけ……」

それにしても寒いどころではない。冬の終わりのくせに突然なんか振ってきた大雪はガチンコの振り方をしている。

黒髪の頭の上にも、黒のロングコートにも首に巻いたえんじ色のカシミアのマフラーにも白い雪が降り積もっている。ついでに黒の革靴には雪と溶けた水が入り込んで既にびちゃびちゃである。最悪。

剥き出しの手ゆびはかじかんで仕方がなかった。ナツミに昔もらった毛糸の手袋は無くさない様に家に大事にしまっていた。そういうんは持ち歩くの良くない。落としたら悲しいやんか。はよお前に会いたいよナツミ。叶うならギュッてしたいわ。叶うならやけど。いや叶えて見せるけど……!

ふう、まあそれはさておき。

双子の家に着く前に、やつらの営む喫茶店がある。今回の目的は情報収集であり、まずは喫茶に行ってみるのも良いかと思っていた。

というのも、加賀美は思うところがあったのだ。

冷静になって記憶の中を辿ると出てくる、あの前回ナツミの横にいた茶髪の優男。

あれって双子のどっちかの可能性はないか?と。

気が動転していたので相手の男を良く見ていなかったのが悔やまれる。

だけどあのガタイの良い長身と、暗がりでもパッと見やすかった端正な顔(褒めるん腹たつ)。あれは特徴的だった。そんな人間がいっぱいおるか?と言うとそうではないと思う。

それにナツミに向かって待ってよ!と言った時のあの声。わずかながら聞き覚えがある気がしなくもない。

しかしこれは自信がない。あの双子、声がやたら特徴的ではなかった。大体男の声なんかあんなもんな気もするし……。

どっちか分からんけれども、もしもあの茶髪の優男が双子のうちのどっちかならそれは御の字だ。ナツミの居場所の捜索の手間が省けるから。

「せやかて雪て。ふざけんなや」

空を見上げて苛立ち混じりの白い息を吐き出す。

そりゃあ調査なんか天候の良い日に改めた方が諸々良い。そもそも店が開いているかも分からん雪の日に行くのは馬鹿げている。アホや。ドジやノロマや。

 

だけど、そうやってお利口さんに日を改められるほど、加賀美が抱えたナツミへの愛は大人しくなかった。抱きしめなければ気が済まない。

だからどんなに間が悪かろうと、思い立った日に出向いてきたのである。

「お、あったやん」

そんな折、ようやく喫茶が見えてきた。こっそり外から様子見ようと思ってたけど、突入することにした。綺麗事抜きに本当に身体が冷えていた。

 

 

「すんません〜!」

加賀美はドンドンドンドン!と遠慮なく店の扉を叩いた。

明らかに電気ついてんのにCLOSEとかいうナメた札がかかっていて、カーテンかかって店やってませんみたいな体裁だからややキレていた。おるやろ。

最初反応がなかった店内だったが、加賀美があまりにしつこ過ぎたのかやがてガチャ、と扉が開いた。

「あのですね!もう今日は店やってない……あ……」

少し取り乱した様な莉音が顔を出した。らしくなく髪がばらついている。

「チッお前か……」

久々の再会にお互いに顔を歪めた。
けれど加賀美の方が一瞬立ち直りが早かった。

「入るで」
「あっちょっと!」
「俺かて客やんけ!コーヒー頼んだるわ。外むっちゃ寒いねん入れろ外で突っ立っとったら死ぬやろ鬼かお前」

被せる様に大声で捲し立てて強引に店内に押し入り、そして椅子を引いてドッカと座った。

「コーヒー。早よちょうだい。砂糖多めにしといてな」

そして財布から雑に1000円札を何枚か出してダアンと机に叩きつけた。ハラスメントである。

どく気が全くない加賀美の押しの強さに莉音はゲエッてなった。確かに外は雪かもしれないが、そんなの今の自分には関係ないし、今はそれどころじゃない!

「あんたなあ、こんなのいらないからさっさと帰れよ!」
「ハア〜?」

突然加賀美はぬっと立ち上がると、さっき叩きつけた数千円を手でぐちゃっと丸めた。すんげえ握力で押し潰した。ちっちゃいボールになったやつを、信じられないことに突然莉音の口に詰め込んできたんである!

「何すんだよ!」
「大人しくしろや!」

ドタバタとやりあり、一体何なんだと内心ブチ切れつつ莉音は数千円を吐き出した。1000円札の味とか知りたくなかった!

「あ〜あ、お前が俺の金食べようとするからそれ使えんくなったわ」
「ハア!?」
「てことでここでコーヒー飲む代金にするな。淹れんかったら警察届けるで」
「……!!」

キレつつも、莉音は本当に本当に仕方なく諦めた。

なんでこの俺がと思いつつ、莉音はしぶしぶコーヒーを入れ始めようとした時。

「……あっていうかタオル」
「は?」
「いやタオル!客やぞ俺ほんま。びちゃびちゃな客放置すなや。タオル。寒いねん。床も濡れるし。金払てんねんこっちは!」

ヤクザばりにデカい声で怒鳴られてブチキレそうな莉音であった。だけど色々面倒になってタオルを差し出した。

「どうぞ!!」

ブチギレながらタオルを渡した。

「うわっなんや感じ悪。普通に出せや」

ぶちぶちと更に文句言ってくるのを耳に蓋をして怒りを抑えた莉音であった。

とっととコーヒー飲まして適当に返そうと急いでコーヒーの準備をした。

そして待っている間、加賀美はイヤミな程に長い脚を組み、雑なテイで話し始めた。

「……そういえばお前のあのいけすかない銀髪の弟、どないしてんのおらんみたいやけど」
「……さあ」
「さあってなんやボケんてんのか。相変わらずあのやや長めのキザな髪型なん」
「別に良いだろあいつの話は!」

妙にソワソワと苛立った様子の莉音。お?

こいつそもそも出だしからちょっと調子おかしかったもんな?と思った加賀美は更に突っ込むことにした。

「お前とオソロやん。双子でむちゃ仲良しやんけ鳥肌立つわ」

「今は仲良しじゃない!あいつは茶髪だし髪切ったよ!」
「ふ〜んそうですか〜イメチェンしたアイツにナツミ取られたんか」
「!!……お前……っ!」

良し来た!この反応ならあの記憶の中の男は詩音で間違いない!

課題1はこれでOK。あとはナツミをどう詩音から引き剥がすかや。

「まあええやん!怒んなや君。ナツミにフラれたんか?そうなんやろ?同じ境遇やんか。仲良うしようや」

莉音と仲良くする気なぞ微塵もないが、そうは言っても協力者は必要だった。

「な?詩音から一緒に取り返そうや。
俺とお前、2対1ならなんとかなると思えへん?」

莉音は迷っている様子だ。でもこの感じなら押せばいけそうだと加賀美は思った。

「あの怪力男の相手は俺がしたるわ。あいつにKO一回取ったことあんねん俺。な?」

「……」

肯定もしないが否定もしない莉音に更に畳み掛ける。

「君も1人やと今まで心もとなかったやろ?一緒にナツミ取り返そうや。な。

ほな、詩音今どこにおんねん」

「あいつは……あいつは……。

……。

……俺がさっき……」

一転トーンダウンした莉音の重々しい雰囲気に、加賀美はゾクと悪寒がした。

「な、なんや。まさか殺したとか言わんよな。な……?」
「俺たちはナツミを巡って……」

莉音はじっと加賀美を悲痛な面持ちで見つめている。しばし見つめ合い、加賀美はゴクと喉を鳴らす。

ーーこいつの目の奥の焦りぶり、むちゃヤバいやつや。懊悩が骨の髄まで焦げ付いとる。こいつは真からナツミに恋焦がれてる男や。

「……殺してなんかいないさ……。だけど、だけど俺は、どうしようもなく気持ちが暴れ出しそうになる時がある。自分を抑えこむのに精一杯なんだよ!」

莉音はギュッと手のひらを握った。見えない何かを押しつぶす様に。

「何したんや……」

「……ナツミのことで口論になって、やり合いになって、それで気絶させてしまったんだ。今回はたまたま気絶で済んだだけ。俺は……俺は最低だ!弟を手に掛けようとするなんて。

……それに詩音を殴ったところでナツミの気持ちは今更きっと変わらないのに……俺のこういうところがダメなんだ」

「莉音……」

莉音にうっかり同情めいた気持ちが湧きそうになった加賀美。

まああんま落ち込むなやと言おうとした時、突然ブレーカーが落ちた。

「!」

それは雪の影響か、何者かによる故意のブレーカー落としか。

加賀美は色んなリスクを一瞬で計算した、そして叫んだ。

「莉音、壁に背中つけろ!詩音がどっかから来るかもしれん!」

いつぞやのこの双子の自宅侵入の際、詩音に背後から木製の椅子を振り下ろされそうになったことを思い出していた。

敵とみなすと容赦のないあの男。
あの時のパンチは本当に強烈だった。

緊張感のなかじっと待つ。1秒、2秒、3秒……。

壁かけ時計の秒針が進む。じきに暗闇に目は慣れてきたけれど……。

(……大丈夫そうか?詩音、襲ってけえへんな……)

警戒はなかなか解けなかった。

「なあ、あんた……」
「しっ!黙れや!死にたいんか」

ガタン、と遠くで物音が聞こえた。身構える。

一瞬の違和感も見逃さない様に、じっと店内を見つめる。

どこだ?どこにいる?

冬なのにじっと汗が垂れた。

しかしそれから随分待っても、詩音は現れなかった。

「……たまたま吹雪で停電しただけか……?」

慎重に慎重に警戒を解く。

「……まあええわ、ほな諸々片付けようか」

恐る恐る店内を伺いながら、まずはブレーカーを元に戻した。

明かりを取り戻した店内。

ホッとしたのも束の間。ドタバタと莉音が走ってきた。

「し、詩音がいない!」

詩音が眠っているはずの場所に詩音はいなかったらしい。

やっぱ停電あいつのせいやったやんけ!

「もうとにかくこのまま店出ようや」

莉音と店を出ようとしたのだが。

ガチャ、とその扉が開くことは阻まれた。

「ドアが外から封鎖されてる……」

 

 

続く

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