あっちに揺れたりこっちに揺れたり、僕って相当優柔不断だと思う。
家で、詩音くんは僕の手を今日も握る。それがお気に召さない莉音くんは、反対側から僕の手を握る。ソファに3人座って並ぶ。意味不明なくらい、僕は何も出来ない。
莉音くんと2人っきりになることはちょっと懸念された。加賀美さん以上に逆上されそうで正直ちょっと怖かった。
だから僕は、寝る時は莉音君の部屋じゃなくて風呂場でと決めた。
『ふ、風呂場で寝る!?』
その意向を伝えた時、目をまんまるにして驚いたふたり。
『ナツミ、いくらなんでも……!』
『あっいや違うの!あの、せめて脱衣所で寝るってこと!』
『それあんまり変わんなくない』
『そうだよ、それに今冬だよ?』
『まあ寝具持ち込めばいいし、狭い分逆に意外とあったかいよ!』
『『でも!』』
『じゃあ家出する!』
双子は心底腑に落ちないという顔をしてお互いの顔を見合わせ、見つめ合うこと数秒間……同時にため息を吐いて諦めた。
『『いやだけど、良いよ』』
そんなこんなで今。
僕の人生は一体どこへ向かっているのか分からないまま、寝るにあたり寝具を脱衣所に持ち込んだ。
スライドドアに中から鍵をかけた。かちゃんと音が響く(ごめんなさい)。
そばには、詩音くんにこっそりお願いして、持ち込ませてもらった例のふくろう君のランタン。相変わらずゆるくて優しくて、かわいい灯りで周囲を照らしている。なんとなくふくろう君の頭を撫でた。
さて……と横たわる。
押し入れ感というか、秘密基地みたいな狭い場所特有の安心感があった。
……僕がここに来てから双子くんの仲が険悪になっている気がする。元々あんな感じ?分からないけれど……。
邪魔だよなあ僕……。詩音くんは家を出る時は自分に声をかけろと言うけれど、それって詩音君と一緒に家出るってことになるよね。何だその状況????莉音君がぽつんとこの家に残ることになる。それは何か違う気がする。
このまま3人で爛れた関係続けるのは、まあもっと違う訳なんだけど……。
その時。小さくドアがコンコンと鳴った。そして。
「……なっちゃん。詩音だよ、起きてる?」
「!あ、うん起きてるよ!」
突然声をかけられて驚いた。
「どう?寒くない?」
「うん平気!」
「少し話しても?」
「うん良いよ」
詩音くんはドアの向こうにもたれかかって座った。ドアがほんのり揺れた。
「今日午後からスゲー店混んでたね。忙しくなかった?」
「うん、なんとか大丈夫だったよ!お店人気なんだね、すごいねー」
「いやまあ、親の代からやってるってだけだから」
「えっそうなの?ご両親今どこにいるの?」
「海外楽しくぷらぷらしてる」
「えっ!?超バブリーだね」
「まあね。あ、でも海外のわけ分かんない像とか絶対買ってこないでねって言ってある。可愛くないから」
「ふふ、そうなんだ」
「莉音のやつ、押しかけてきてない?」
「ふふ、大丈夫だよ」
「莉音がうるさかったら俺が守るよ」
「んーふふ、まあ大丈夫だよ、根が悪い人じゃないんだよ。嫌いとかでは、全然ないから」
「そう?そっか……。
さて、そろそろ寝ようかな。また明日、話に来ても?」
「うん、良いよ。……またね」
詩音くんはほっとしたように去って行った。
階段を登っていく音が聞こえて、僕は何とも言えない気持ちで手元の布団をギュッと握った。
僕は気づいていた。さっきの詩音くん、あれは詩音くんのふりをした莉音くんだ。
僕が声音だけで聞き分けられる様になったことを、莉音君は気づいていないのかもしれない。
◾️
莉音は布団にもぐってばふ、と頭から毛布を被った。
嫌われてないことだけが今は救いだった。
どうして焦ってしまうんだろう?気づけばいつも不安に支配されていた。俺はナツミを飼い慣らしているようで、その実不安に飼い慣らされていたと気づいても、それは後の祭り。
1人寝の夜は寂しくて仕方ない。
莉音は、まるで味のしなくなったガムにそれでもと固執する子供のように、ナツミと過ごした夜をなん度も反芻した。
◾️
僕がウトウトと眠りにつこうとした時、コンコンとまたもや脱衣所のドアが誰かによって鳴らされた。
「誰?」
「君の王子様」
この感じ、本当に詩音君に間違いなかった。
「俺もさあ〜ここで寝ようかなあなんて……」
扉越しにがさごそと音が聞こえる。
「えっまさか寝袋!?」
「みのむしみたいで楽しいよ。何故か家にある不思議♪まあ父さんのかなあ〜デッカい人だからね。あの人に似て俺らもデカいんだよなあ」
1人ごちながら詩音くんは寝袋を本当に設置して寝る準備をしてしまったみたいだった!
「いやあ、扉一枚で隔てられるってなかなか寸止め感あってロマンチックだよね。ロミオとジュリエット」
「う、う〜ん……?」
それ反則技じゃないのかな?
『そんなことして良いならまず言えよ』と明日キレ散らかす莉音くんの顔が浮かんだ。
「それにしても、ナツミんは頑固だなあ〜」
「え、そう?」
「うん。詩音くんと付き合えば良いのに。俺の熱愛で蕩けさせてあげるのに」
「あーハハ……」
詩音くんは押しが強い。
僕はたじたじしてしまい、なんて答えたら良いのか分からない。
「……そういえばさあ、加賀美さんのこと、残念だったね」
「!……うん……」
詩音くんはこうやって絶妙なタイミングで踏み込んでくる。
「忘れられそう?」
ずっと押さえていた心の蓋が開いて、心が黒く澱んで仕方がない。
「……がんばるつもり」
「そうか……。なっちゃんこれ」
スッとスライドドアの隙間から、詩音くんは何かを差し入れてきた。
「何これ?」
「お手紙。ラブレター。いやお守りかな?
今すぐ読んでも別に良いけど、加賀美さんのことで眠れない夜に読むとなお効果的。読んだ後は恋愛運が向上するでしょう。ラッキーアイテムは猫ちゃんのマグカップ、ラッキーパーソンは栗色の髪の長身の男、運命の分かれ目は雪の降る晩」
「何言ってんの占い?」
ふふ、と笑った。
占いを読み上げるみたいに言ってきたから。
さりげなく自分をラッキーパーソンに入れてくるところがもう詩音節だね。
「俺はねえ〜占いも出来ちゃうんだよ。なんと的中率100%」
「それ転職した方が良くない?」
くだらない話をして、ふふふと軽く笑い合って、それから僕らはお休みと言った。
詩音くんは誰かの隣にいるのが上手いんだなと感じた。ぼんやりと脱衣所の天井を僕はただ見つめていた。色んなことを考えないように。
けれど、それだけでも詩音君の隣は不思議と居心地は良かった。
結構経ってから詩音くんの寝息が聞こえてきた。
……実は気になっていた詩音くんからの手紙をそっと手にとる。パステルカラーのうさぎさんモチーフで、うさぎさんが照れてるデザインのだいぶキュートなやつだ。こういうのは僕も好き。こういう好みが被るのはありがたい。僕はカサ、と開いた。
中身はと言うと……。
『ナツミんへ なんで出会うのちょっと遅かっただけで僕は君のこと手に入れられないんだろう?こんなに君のこと愛してるのに。手に入れられたら二度と離さない。
君のことを見ていると、今まで知らなかった甘い気持ちがどんどん込み上げてくる。君が僕を普通の人間にしてくれた。加賀美さんの元恋人だの、兄に取られただの、そのへん考えると胸が苦しくなるけど、でもやっぱりそんなの吹き飛ぶくらい君への気持ちが大きい。
この気持ちはずっと変わらない。ずっと一緒にいたい』
いや、実はまだまだ続くんだけど、読んでてあまりにほっぺたが熱くなるので途中で読むのをやめた。人を赤面させる天才だと思う。
ふくろう君のランタンを消して目を閉じても、加賀美さんのことが浮かぶ一方で詩音くんのラブレターが覆い被さるように頭に浮かんで、僕は困った。
これは確かに加賀美さんのことで悩む隙を与えないというか、そういう困ったやつだと僕は思った。
寝返りを打っても頭の中がてんやわんやのお祭り状態で、なんだか寝付けない。
結局僕が寝られたのは、頭の中で騒ぐのも流石に疲れてきた朝の4時くらいのことだった。
「……ナツミ?朝だよ」
遠慮がちに莉音くんにノックされてがばと起きた。そう、ここ洗面所も兼ねるから、いつまでも塞いでおくわけにはいかない。
「お、おはよう〜!」
寝不足に笑顔を貼り付けて鍵を開ける。
「可哀想に、やっぱりここじゃ眠れなかったんだね……!」
そのまま莉音くんに力強くギュッてされて困った。あっ違うんですそういうことじゃなくて……。
それから両手を握られて、祈る様に言われた。
「いつでも俺の部屋に戻っておいでよ」
莉音くんは僕の手ゆびにそっとキスをした。陰のさす美貌は、見る人をドキドキとさせるのだけど……。
「う、うう〜ん……そうだねぇ……」
ハッキリ断ると色々問題が起きるので、やんわりと生返事。最近の僕の必殺技。
優柔不断、八方美人。それが今の僕。
ああ、大いなる占い師・詩音先生。僕は一体どうしたら良いのですか?なんて、導いて欲しいもんだったけど。
だけど意外なことに、『運命の分かれ目は雪の降る晩』と言った詩音くんの予言めいたセリフは、実はそれから割とすぐ当たることになるんである。
数日後。
『今日の夜から明日の朝にかけて、雪の予報……』
朝の出勤前、そんなニュースが流れたのを僕ら3人は朝食を食べながらなんとなく見ていた。
「雪かあ……店どうする兄貴」
「一応開けるけど、早めに締める。ナツミは置いてく」
「だな」
あっという間に話はまとまってしまい。
「いや僕も行くよ!」
「良いよ、ナツミんは薪割りでもしといて!」
車に乗り込む2人にまとわりついた僕は、そんな軽口と共に追いやられた。
助手席からバイバイ〜♪とにこやかに手を振った詩音くんだった。
いやこの家で薪なんか使わないしっ!
はあ、雪降る前に買い物でも行っとくかあ……。
◾️
ニュースで予報されていたよりも早い時間に降り出した雪は、それからすぐに勢いを増した。
これは結構積もるかもしれない……と思った詩音。雪かきの道具がそういえばちょっと前に壊れていたと思い出し、莉音に近くの業務スーパーへ買い物に行ってもらった。
さて予定よりも早めにクローズをと、店の扉に掛かっているOPEN /CLOSEの札をひっくり返した。その他諸々、閉店のために店前を整理し始める。
そんな詩音の様子を物陰からじっと見ている人物がいた。
その手は黒い牛革の手袋をしておりギリと、強く握っている……。
続く

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