短編小説

【短編】意地悪彼氏の聖なる溺愛

神学校に通う男子生徒2人のお話。

・外面は良いが内面悪魔のかわいい系超美少年・聖。ヒエラルキーのてっぺんに住んでいる。

・優しいが気弱な底辺・瑞希。困った顔に定評がある平凡くん。

神学校においては許されない恋人関係をひっそり育み、未熟なまま共依存状態のふたり。

基本的にSキャラ・聖が瑞希を理不尽にいじめて可愛がる話です。(※愛はある)

意地悪ASMRと思ってお楽しみください。

ーーーー

5月。シロツメクサが学校の裏庭にわさわさと生えてくる非常にメルヘンな季節。

そんなおりに僕は、絶世の美少年だけれど悪魔みたいな彼氏に昼休みい裏庭に呼び出されていた。

「そこ座って」

開口一番これ。シロツメクサの上に有無を言わさず座らされ、聖は勝手に僕の太ももで膝枕を始めた。

「はあ。疲れた……」
「あ、あは、おつかれさま……」

やさしく5月の風がすり抜けていく。

さわ、と太ももを触れられるのがどうにもむず痒く、やんわり制しようとしたら、僕の手をぺしんと跳ね除けられた。

「僕に逆らうな。そんな権利ないんだよ」
「うっハイ……」

自分の行き場のない手を、とりあえず聖の髪の毛の撫でるのに使った。さらさらの栗色で、絹糸そのものだ。

僕はゴク、と喉を鳴らした。

上から見下ろす聖のお顔。それは幼さを残した可愛い顔立ちで、驚くほどに整っている。にこ、と笑うだけで周囲のハートを撃ち抜いてしまう罪な存在、それが聖だった。

表向きは可愛くてお勉強もできて、先生に好かれる優等生。だけどそれはストレスが溜まるらしく、僕と会っては僕で鬱憤を晴らしていた。

「教師どもめ、僕にばっかり仕事押し付けやがって」

シロツメクサをぶちぶちと無情に引き抜いている。

「バラバラにしてやろうかっていうの!せい!」

そして空にぶん投げた。

 

バラバラとちぎれたシロツメクサが僕の頭に降りかかる。

「あはは、超まぬけ」
「う〜……」

にこにこ笑う聖。

「……でもすっごくかわいいよ。こっち来て」

ぐいと髪の毛を掴まれてキスされた。

 

 

聖は意地悪なんだ。僕をいじめて喜ぶような。なのに僕のことが大好きで、依存してる。

聖は唇を少し離して囁いた。

「……ねえいつもの安定剤。飲ませてよ」

聖は口をあ、開いた。

聖は不安定だった。だから心のお薬が欠かせない。

ちなみに飲ませろという要望に逆らうと大変なことになる。僕は諦めていつものことを実行した。

まず僕は聖の紺のズボンから小さな袋をそっと引き出す。カプセルが入っている。

「泥棒」

悪戯を咎めるように聖はニヤニヤ僕を見つめていて、僕はバツが悪かった。

ここで『聖がやれっていったんでしょ』と言おうもんなら理不尽にぺしんとビンタされる。

「……はい、すいませんね。あ、お薬飲まないといけなんだから。ほら、僕のペットボトルの水あげるから。飲もう?ほら起きて……」

そっと聖の上半身を優しく起こした。カプセルを咥えて聖に口付けるとそのままカプセルを押し込む。そのまま深くキスに誘われそうになるのをなんとか拒否して、水を飲ませた。

「薬を盗んでキスも泥棒。盗んでばっかりだね。ねえ、ここ溢れちゃった。ちゃんと拭いてよ」

はいはいと拭けば、聖は満足気に笑って僕の手の甲をつねった。

「いたい。……意地悪しないでよ」
「ただの愛情表現じゃん」

サワ……と5月の爽やかな風が頬を撫でた。

聖とは概ね分かり合えないのに、なんだかんだとこうして同じ時をずっと過ごしている。

知り合った頃はまだまだお互いに幼かったのに、今では随分成長した。でもこれから先もずっと一緒にいられる訳ではない。僕と聖では今後の進路は明確に違っている。

僕らの関係はこの学校にいる間だけなんだ。

「……ねえねえ瑞希、ところでさ。さっきあの先生と何の話してたの?」

じろ、と聖は睨みつけてきた。嫉妬してる時の聖の顔は色っぽくて僕は好きだった。死んでも言えないけど。

「えっと、数学で分かんないところ聞いてた」
「数学くらい自分で勉強しろよな。とんちんかんな子僕は嫌いだよ」
「うっごめんなさい……」

チクチクと刺すような視線が突き刺さる。

「……ほら、ノート出しな」
「え」
「僕が勉強見てやるから、二度と他人を頼るなよ」

 

聖は頭は良かった。僕に何でも教えてくれた。

こんなに教えるの上手いなら最初から教えてくれたら良かったのに。聖は意地悪だ。わざと僕に失態をさせて、問い詰めて、そして自分から離れなくさせる。

僕も僕で、そんな聖に縛られるのは悪い気はしないのだけど。

 

勉強が終われば、聖は大きく伸びをした。

「さ〜て、午後の授業に行くか……」

立ち上がり際、聖はぶつぶつと不満を述べた。

「っていうかほんとマジ何なんだよここの制服。半ズボンておかしいだろ。こんなの超美少年の僕にしか似合わないだろ。なあ?」

半ズボンからは白い膝が覗いていて、紺色のハイソックスが映えた。聖は膝まで天使みたいだった。

「デザイナーに絶対ロリコンいただろ」

「まあまあ……次の学年からはちゃんと長いズボンになるからさあ」

じろ、と聖は僕を見つめて言った。

「それじゃ僕がつまんないだよ」

ふいに聖はしゃがんだ。

「瑞希のお膝が見れなくなる」

言うや否や、聖はぺろ、と僕の膝を舐めた。魅惑的な舌が一瞬柔らかく這う。

「!」

「興奮した?ざこだね」

「……!」

咄嗟に何も言えず、無言で歩き出した僕に聖は後ろからまとわりついた。

「あらら怒っちゃったの?機嫌なおしてよ。ね?それでずっと授業中も僕のこと思い出しててよ」

「……いやだ」

「!分かってないなあ。瑞希に自由なんてないんだよ。ずっと僕のこと考えておけよ、良いな。分かった?」

「……。はい」

そういうしかない僕と聖の主従関係。

悪くはないけど、もっと大事に扱われたい。でもこんな意地悪な聖が、僕はやっぱり大好きでもあった。

 

 

end

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