◆三人デート
浮気な彼氏シリーズ気まぐれ番外編。
暁都と暁都の父ちゃんとたっくん3人でお出かけする話。雪解けして三人で会ったりしてる。ほんわかギャグです。
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目の前に同じ顔の人が2人いる。
「ほんと、なんで父さん勝手についてきちゃったんですか!?」
「親孝行したいと思わんのかね」
彼らはちゃぷんとお互いに温泉に浸かりながら、喧嘩している。
ちょっと気難しそうな感じがそっくりなんだけど、1人は30代、もう1人は70代手前くらい?
「僕とたっくんの温泉旅行に勝手に着いてこないでくださいよ!!」
「じゃあ温泉に行くなどとぬかさんことだ。日程と場所まで明かしおって馬鹿モノめ」
なんかこう、今の暁都さんと30年後くらいの暁都さんを並べて一緒に見てるみたいだよね。4次元的な?よく分かんないけど。
暁都さんがふたりいるみたいで実はちょっと僕得なんだよね。ふふ。老後(?)の暁都さんはこんなダンディな感じなのか……渋い暁都さんも素敵♡老後のデートも楽しみ♡な〜んて。
「いやちゃんと事前に言ってくれれば3人で行く旅行とかそれなりに手配しましたよ!旅館きたらロビーにいるんだからびっくりするでしょう!」
「ええいネチネチとうるさいやつめ。親が来たんだ、もっと歓迎せんかい。ハア、こんな小姑みたいな男で本当にいいのかねたくみくん?他にもっと良い男がいるんじゃないかね」
「ヌエッ!?ぼっ僕は暁都さんがだいすきです!愛してますよ!?」
デカい声で言っちゃってから慌てて振り向いた。
よかった〜誰もいない……って当たり前か。
「だからあ!たっくんのそういうセリフを独り占めするためにわざわざデカい客室露天風呂付きの部屋取ったんでしょおお!!!」
暁都さんの悔しさマックスの声が露天にこだました。
『3人デート』
「父さん!晩御飯は1人で部屋で食べて下さいね!💢」
「何をチンケなことを。大丈夫だ既にこっちの部屋に配膳する様に手配してある」
「何でまた勝手に!?」
「おっ部屋にマッサージチェア付きとはふむふむ。おお〜なかな気持ち良いじゃないか」
浴衣に包まれたお父様はマッサージチェアに身を委ねている。ドゥルルと揉玉にもみもみされて気持ち良さそうだ。
「父さん!💢💢」
そして暁都さんの怒りを完全に無視して寝始めた。
すごい。この相手を挑発して翻弄し、やりたいことはやり通すというこの手法。既視感だらけだ。
「はあっもう……!たっくんちょっとこっち来て!」
暁都さんは別室に僕を連れ込むとぎゅうっと抱きしめてきた。温泉の湯の残り香がセクシーでなんかドキッとしちゃった。
「ごめんねたっくんウチの父さんが……!せっかく2人っきりのロマンスな夜を過ごそうと思ってきたのに……!!」
「ううん良いよ。全然気にしてないし」
「たっくん……!」
「それに暁都さんて、やっぱりお父様にそっくりなんだね」
「!!?どっどこが!?顔以外で似てるとこなんかある!?」
自覚なかったことに僕はむしろひっくり返るよ。
「僕を口説きにきた時もこんな感じだったよ?」
「!?」
「割と強引だし絶対引かないしおちょくったりわざと怒らせたりしてくるし」
暁都さんは心外だと言わんばかりにわなわなと震えた。
「おっ……おれはもっとデリカシーある強引さんなんだよ!」
その自負一体なんなんだよっとは言わないであげた。
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その後運ばれてきた御膳。むしゃむしゃと蟹を頬張る。ぷりぷりで美味しい♡
お刺身がすごい♡グツグツと煮える各々のお鍋も最高♡高そうなお肉が入ってて嬉しさがすごい♡お値段は怖いからもう聞いてない♡
「美味しい〜♡」
「ふむうまい」
「あーあ。たっくんと2人っきりが良かったですよ僕は」
「1人増えたとて変わらんわ」
「変わりますよ!💢」
「何だ。2人の旅行がそんなに珍しいのか。それはお前がケチなのが悪い」
「しょっちゅう2人で行ってますよ!ってそういうことじゃなくてですね……!」
キイ〜ッとキレている。調子狂いまくりの暁都さんて面白いなあ。ふふふ。
「僕はそれでも2人の時間を邪魔されるのがイヤなんです!それに今更なんですかって話してるんですよ!
……あーあ、ウチは家族の思い出とかないですもんね」
「暁都さん……!」
プンスコした暁都さんは冷たく言い放った。
「……暁都……」
ううっほらお父様もしょんぼりとしちゃうんじゃ……!ハラハラとしていたら。
「何だプリプリと。更年期か」
「違いますよ!💢💢」
ふふとずっこけた。
おちょくり方まで似てる!僕も同じこと言われたことある!やっぱり親子だ!ちょっと感動すら覚えた。
「まあ食わんか。せっかくの飯が冷めるわ」
お父様は暁都さんをいなした。そして。
「ところでたくみくん、アワビと伊勢海老の追加はいるかね」
「えっ!?あっえーとっ」
そして続々と高級食材が追加発注されていったのである……!
◾️
お腹いっぱい。庶民のくせにこんなに高級食材で満腹なんて……罪……しかも僕はこのまま布団に横たわろうとしている……もっと罪……でもあらがえない……。
「父さん、ほら、じゃあもう食事も済んだことですし……」
「食後のUNOが済んでおらんだろ」
「」
「ほらフロントに取りに行かんか早く!」
心底解せないという顔をしながら暁都さんはフロントへと走って行った。粋な浴衣を着た背中は咽び泣いていた。
それにしても。う、UNO……?
2人っきりの部屋にて。
「さてたくみくん」
「は、はい!」
僕はシュッと背筋を伸ばした。
お父様の鋭い眼光。それは暁都さんの中の厳しさを煮詰めた様な顔で、やっぱり2人はどうしようもなく親子なのだった。
やっぱり暁都と別れろとか言われる系!?僕は内心身構えた。
「暁都とは順調かね」
「は、ハイ!もちろんです」
「喧嘩は」
「しなくはないですが、すぐ仲直りさせてもらってます!」
隙を見せたらダメだ死ぬぞ僕……!また引き離されるのなんかゴメンなんだ!
「偏屈な男だろう」
「えっいや、偏屈と思ったことはないですよ!?」
「ふん、君の前ではいまだに猫被っとるんだろう。あいつは下手に読書好きなせいでくだらん屁理屈こねよる。家にいた頃はそれはそれは小うるさい男だった」
ああ、なんか多分高尚なワード使って喧嘩してたんだろうな。暁都さん普段難しい本読んでるもんな。なんか喧嘩の様が浮かぶな……暁都さんも負けず嫌いだもんなあ……。
「まあ、君にくだらん屁理屈こねていないなら安心だがな」
「あっハイ。あの、楽しく過ごさせてもらってます!一緒にいるの本当に楽しい人なので……」
「そうか……」
「ハイ」
「ところで暁都が突然ハゲて100貫デブになり前歯がなくなったらどうする」
「っ!?え、えっ!?」
唐突の質問にちょっと戸惑った。
「イメージしてみると流石におもしろ……あれっでも意外とかわいいかも?ゆるキャラみたい?あっぬいぐるみみたいですね?」
ふふとお父様は吹き出した。
「君もなかなか盲目じゃないかね」
「え、えへへ。あの、暁都さん本体が僕は大好きなので……良いんですよ最早どんな姿になっても」
「前に暁都が金がなくなっても好きと言っていたが。取り柄の容姿もなくなっても好きとはな。最早別人なのに好きっていうのは盲目だな」
「えへへ確かにそうかも。でも盲目にさせてくれるくらい、暁都さんは僕のこと大事にしてくれるし、僕もそんな暁都さんのことが好きなんですよ」
「……そうか。まあ暁都をよろしく頼むよ」
「!も、もちろんです。それにその、暁都さんのご実家にいた頃の話も僕はまた聞きたいです。よかったらまた教えて頂けませんか?
僕ら知り合ったのが30代になってからで、お互いの若い頃を知らないから……」
「そうか。まあじゃあ何か思い出したら君に伝えるとしよう。メールでも良いかね」
「ハイ!嬉しいです!いつでもどうぞ!」
そんなほっこりムードの最中に暁都さんは帰ってきた。
「何!?何を良い感じに談笑してるんです!?」
「お前がチンケだと言う話をしていた」
「っハア!?」
そして始まったUNO大会。
「父さんがUNOなんて庶民的なゲームやるなんて僕は驚きですよ」
「 UNOなど詳しく知らんわ。お前には負けんがな」
さくさくとルールを理解してそしてサクサクと暁都さんを打ち負かして行った。頭脳戦は得意なタイプ?
「くそっもう一回!」
「飽きた終わり」
「父さんそういうのズルいですよ!?」
そしてなんやかんやとお父様は部屋に帰らず、僕らの部屋に強引に泊まることになったのである……!
◾️
「うわあ寝てると本当そっくり……(小声)」
もうすぐ70代だろうお父様。この歳でこの美貌保ってるのすごすぎるなと感心していた。いや〜こんなにハンサムなら若い頃は相当なイケメン……ってやだそれは今の暁都さんじゃんそれにその人と一緒にいるの僕じゃんもう〜♡
「たっくん!こっち来て……!(小声)」
暁都さんに引っ張られて僕らはベランダへと出た。
「うっちょっと寒いね夜は」
ぴゅううと風が吹き抜けていく。さっきなんと3人で入った客室露天風呂がそこにはあった。
「たっくんっ!良いかげん2人の時間を過ごしたいっ……!」
ぎゅむと抱きついてきて困っちゃった。そそくさと僕の浴衣を剥いでくるので、仕方ないなあとのってあげた。
ちゃぷんと湯に浸かる。
「はあ〜最高〜……」
満点の星空が綺麗だ。ほんといいとこ来たね。
あと最高の湯だよ。ありがとう温泉、ありがとうマグマ。
暁都さんの隣に座って肩に頭を乗せてみた。キスをした。間近で見る暁都さんああ〜やっぱりかぁっこいい。いやどんな姿になろうと永遠の愛を誓ってるけどさ!
「はあ暁都さんと過ごすこういう穏やかな時間が一番幸せ……。ずっと一緒にいられますように」
暁都さんは湯の中で僕の手を握って気まずそうに言った。
「たっくん。あのさ……今日はふたりで父さんとは別室で寝ない……?」
えっ同じ部屋で寝るの無理なぐらい嫌なのかな。
そっか、暁都さんにとっては因縁の仲的なところもやっぱりあったりするもんね……?ドキドキしながら聞いた。
「やっぱお父様がイヤ?」
「いや違うんだ。君があんまり可愛いこと言うから色々我慢できなくなりそうで……」
そのまま押し倒されそうになったので、そういうことは家帰ってからにしよ!って言ったら分かりやすくしょげてた。
仕方がないので夜は、腕枕されてあげながらただ2人並んで寝た。肌から温かみが伝わって、ただ並んで寝るだけの夜もなかなか良かった。
翌日。チェックアウトを済ませて帰り際の駐車場にて。
僕らは車で来たんだけど、お父様も外車で自分で運転して来たらしかった。
「じゃあ帰るから。まあたくみくん、暁都が嫌になったらいつでもウチに来なさい」
「父さん!!」
「うるさいぞ暁都。……あ、そうだたくみくん。ほら、これ持っていきなさい。お土産だから」
「あ、どうもそんな。…….ンン!?」
クッキーくらいの感じでポンと札束を渡されそうになって慌てて手を引っ込めた。
「ッ!?えっいやっお気遣いなく!!!!」
「まあそう言わず。暁都ひとりじゃ頼りないからね」
札束手渡しやめて!5束くらいあるの怖い!!
「そういうのいりませんよ!!金なら稼いでます!」
割って入った暁都さん。
「ウチの財産額合計とどっちが上だね」
「ぐ……っ!」
「加賀美の家ならこれくらいの宿自体買えるわ。お前に買えるのかね」
「く……ぐぐぐ……!」
「暁都、精進しなさい。ほら、たくみくん。そういう訳だから」
「へあっ!?ううっすみませんああありがとうございます!?」
札束を手渡されてしまった。
「ではな」
颯爽と高そうな外車に乗り込んで去って行ったお父様に向かって暁都さんは苦し紛れに吠えた。
「ちゃんと…ちゃんと贈与税払っといて下さいよね!!脱税になったら面倒なんだから!!」
キレるとこそこなんだ?
◾️
「くそっくそっくっそおおおおお!!」
家に帰って高速でパソコンのキーを叩く暁都さん。絶対に爆裂ヒットを出して稼いで見返してやると、負けず嫌いの変なスイッチが入ってしまったらしかった。
僕はチラリとカレンダーを見る。
実は僕の誕生日、あと3週間後なんだよね。
もしかしてお父様、この500万僕への誕生日プレゼントのつもりだったんじゃないかなあ?
『たくみくんのこのメールアドレスのここ、誕生日のことかね』ってちょっと前に聞かれたことあるし……。
多分何買えば良いのかわかんなかったんだろうな。何欲しい?とか聞くのも苦手なタイプなんじゃないかな?『まあ良い。金だ』と閃いちゃったんだろうな。
ふふ……と苦笑した。
ずっしりと重い札束は、とりあえず暁都さんの書類の文鎮代わりとしてとりあえずそっと机に置いた(あとで移動しなきゃ)。
「暁都さん、旅行帰りだし休んだら?」
「良いの!たっくんコーヒー淹れて!」
「はいはい」
コポコポとコーヒーを淹れる。
ウチに呼んであげだら良かったかなあ?僕的にはお父様用のカップも全然買いたいだんけど。でもなあ、暁都さんがそういうの渋るんだよなあ。
『良いの!来てほしくないの!』
って言って。まあしこりが残ってる仲なのは分かるけどさあ。仲良くすれば良いのにねえ。
せっかく僕というダシが出来た訳じゃない?
「はい暁都さん。コーヒー入ったよ。あととっといたチョコレートも」
「ありがとうたっくん……こっち来て」
そばにたったらギュッと抱きしめられた。
「ほんとありがとうね。気難しい父さんと仲良くしてくれて」
「全然問題なかったよ」
暁都さんは優しく僕の後頭部を撫でた。
「君は最高の奥さんだよ。はあ、台無しになっちゃったよね。また2人で旅行行こうね」
「エ〜?全然台無しじゃないよ。また3人で行こうよ」
「!?」
何言ってんのと言わんばかりの青い顔をしている。
「たっくん!?俺と父さん、どっちが大事なの!?」
「んーお父様?」
「!!!?」
暁都さんはぐしゃぐしゃと髪を掻いている。
「負けてたまるかああ!」
そうしてまたガタガタとPCを叩き出した。
ふふ。
いや、僕は仲良くして欲しい訳よ。
だってねえ。多分息子にすらあまりちゃんと関われなかった不器用な人だから、僕みたいな30代男性にプレゼントに何買えば良いのか分からなくていきなり500万とか渡しちゃうんだよ。
それにきっと僕だけじゃなくて、暁都さんとも仲良くしたいんだよ。暁都さんにとっては『何を今更』かもしれないけど。まあまあ、良いじゃない?
せっかく雪解けしたんだしさ。ちょっとずつ空白を埋めるためにもまた会ってあげてよ。
『あいつはこれきっと喜ぶだろう』って暁都さんに対しても僕にも、そういうのがわかる距離感くらいにはさ、なってあげてよ。ね?
end
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✔︎あとがき
500万(非課税)を手渡ししてくる暁都の父ちゃんが書きたかったんです笑笑 暁都よりもバブリ〜な父ちゃんです。
雪解け回が書けて満足!
月夜オンライン書店では、過去に掲載したシリーズの番外編やココだけの読切作品を取り扱っています。
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