ここからの夜景の眺めは相変わらず随分綺麗ですね。さすが世界最大の超人口過密都市なだけありますよ。100万ドルの夜景、どころじゃないですね。1000万ドル。それは言い過ぎ?
それにここの高度な技術力のおかげで、車だって空飛ぶし、改造人間だっていっぱいいるし、ただのマネキンに命を宿すことさえ出来る。
僕みたいにね。
ねえ博士?
良い加減一人暮らしが寂しかったからって僕というマネキン買って家に置いとくの、なかなかマッドサイエンティスト極めてたと思いますよ。猫とかじゃないんだ、みたいな。
まあ博士、顔は良いのに中々偏屈ですもんね。
男も女も動物もあんまり寄り付かないの、まあ分かるなって……やだなあ、そんな険しい顔しないでくださいよ。チャーミングな冗談ですよ。
それで最初はただ、僕を買ってソファにぼんと置いといただけなのに、気まぐれに洋服とか着せ替えてみたんですよね。一回やってみたら楽しくなっちゃって、あれこれ揃えてくれたんですよね。洋服400着とかありますしね僕。身体一個なんですけど。
やっぱ博士業やる人って、ハマるとトコトンなんですね。その気持ちを一般的な人間に向けて恋愛してたら色々違ってたと思いますよ?
いやだからそんな渋い顔で怒んないでくださいってば。
そうそう、それでただのマネキンの僕に一方的に話しかけるのがつまらないからって、『こいつを人間にしよう』って閃いちゃったんですよね。
それでやり遂げるの博士くらいだと思いますよ。
僕が動き出した時、目をまんまるにして驚いた博士の顔、面白かったなあ。いつもこわ〜くて渋い顔してたくせに。
それでなんか、いつのまにか博士と良い仲になっちゃったのはハハハ僕もちょっと意外でしたね。
博士にそんな気持ちはなかったと思っていたから。
真剣過ぎるほどに真剣に開発に没頭してくれてましたもんね。博士は偏屈だけど、その偏屈な愛はちゃんと伝わってましたよ。
……あ、そと雨降ってきましたね。冷えない様に博士、上着を羽織っときましょうかね。あ、僕やるんで良いですよ。そこから動かなくて……。ふふ、やっぱりかっこいいお顔ですね。ほっぺにちゅうしちゃお。う〜ん肌はまあまあ荒れてますね。まあ博士はほどほどにおじさんですもんね。
ふう、まあそれで僕らは知り合って随分長い時間が経つわけなんですが、博士は一個分かってないことがありましたね。
それは僕がこんなメカニック改造される前、つまり本当にただのマネキンだった頃から実は意識ってあったんですよ。魂というやつが宿ってたんですよ。オカルトか?マユツバだ、とか博士キレそうですけどね。
可愛がってもらえるとマネキンて命宿ることあるんですよ。科学的に説明しろって?いや無理ですよ。仕組みなんて僕らマネキンにだって分かりませんから。
でも科学で説明できないことってあるんですよ。ほんとにね。
だからまあ、マネキン時代にも意識はあったし、それがこんな改造を受けて、本当に喋ったり自分で歩いたりが出来るようになったというわけです。
おかげで博士に好きです、とか言えちゃったので感謝してますよ。
僕のこと可愛がってくれた博士のことが、僕はずっと好きだったから。
あーあ、それなのに。まだ1年くらいしか一緒にいないじゃないですか。
博士が突然の心臓発作で死ぬなんて、僕は予想していませんでしたよ。
マネキン時代が10年くらいだから、マネキン時代の1/10程度しか一緒に過ごせませんでしたね。
寂しいです。
博士をそりゃロボットみたいにして蘇らせることだってここの科学力なら出来ますけど、博士の劣化コピーみたいで僕は嫌なんです。そういうことじゃないんです。
だから、博士の身体を今度はそのままお人形として取っておくことにしたんです。
僕がかつて座っていたソファにね、こうして座らせておくんです。
マネキンだった僕が生きてて博士がお人形さんになってるなんてあべこべじゃないですか?
話しかけても返事が来ないことがこんなに寂しいことだなんて、体験して初めて知りましたよ。
でも博士が今はお人形さんだからこそ、そこにそのまま命が宿っている気がするんです。僕がかつてそうだったように。
いつかまたおしゃべりできると信じてますよ。博士とお喋り出来ないことが辛くて寂しいです。寂しいんですよ博士。
博士、隣座って良いですか?良いですよね。あと手を握っても。
ああ、雨が強くなってきましたね。
膝掛けもしましょうか。このブランケット一緒にかけましょう。
ずっとずっと昔も、夜にこうやって窓の外の夜景を一緒に見てましたよね。懐かしいですね。
博士、愛してます。ずっと。
end
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