短編小説

【短編】蛇川くんの溺愛

「あっリュウ!こんなところにいたんだ。初詣行こ♡」
「ひっ!」

新年会からこっそり帰ろうとしていたら捕まった。本当に抜き足差し足、こっそり出てきたのに……!

「ね♡♡」

にこやかに笑っているけど、蛇川くん時々眼光がおかしい。

僕は前々から蛇川くんが苦手だった。イケメンだけど、だから良いわけではない。巻きつくような視線が怖かった。腰ぐらいまであるやたらロングな髪も、なんか巻き付いてきそうで……。

「えっとえっと。あのそろそろ帰って来なさいって母さんが厳しくて」
「リュウのお母さんには俺からさっき連絡しておいた」
「えっ」
「リュウは俺と遊んでいくのでちょっっとだけ家帰るの遅くなりますって言ったら『まあ〜リュウをお願いします♪』って言われたよ」

母さんめ……!っていうかいつ連絡先交換したの!?

「という訳で。さ、行こ♡」

有無を言わさず、僕の手首はガッチリとホールドされた。力加減がやっぱりおかしかった。

 

 

激混みの神社にたどり着いてしまった。

「ささ、リュウ。せっかく屋台も色々出てるしあれこれ食べてこうよ♡あ〜ん」
「ううっ大丈夫ですもぐもぐ」

蛇川くんは屋台で色々買っては僕の口に勝手に突っ込んできた。今お口にいるのはみたらし団子である。

僕としては早く初詣終わらせて実家にちゃちゃっと帰りたいのだが。1年間お仕事みっちりやって疲れちゃったんだよお。

「おいしい?♡」
「う、うん!」

しかし早く帰りたいとか言おうもんなら、蛇川くんの機嫌を損ね、この拘束が長くなる。

ほどほどに楽しんでいるフリをして解散しなくてはいけない。

「あっ蛇川くん、おみくじあるよ!やろ!?」

おみくじ→お参り→解散、という流れを見越してのことである。

蛇川くんはぼくをじっと見つめて微笑んだ。

「……良いね♡♡♡♡♡」

!?

その時一瞬ゾワッと寒気がした。

 

 

ぼくは金運占いがしたいとゴネたのに、蛇川くんのゴリ押しで恋愛運占いのくじを2人で引くこととなった。

「せ〜の!」

同時に開いたくじはふたりとも大吉。内容まで全部一緒!

「なになに……『一番身近な人との進展に幸運あり』だって!やったね!俺たち今ちょうど物理的に一番身近だもんね」
「う、う〜ん?」
「ね?♡」
「……」

蛇川くんにじっっとり見つめられて冷や汗がダラダラ出る。蛇に捕食される前のカエルってこんな気持ちなんだろうな。うんと言えと圧がすごい。しかし屈するもんか……!

「まっまあ恋愛なんかはさておきさ!蛇川くん、今年めっちゃ仕事忙しいもんね!?それどころじゃないっていうかさ」

「う〜ん仕事が忙しいのは本当なんだよね……」

珍しく眉根を寄せている。よしよし良い感じ。

「っていうから新年から早速仕事しなきゃだもんね!?じゃ、じゃあ僕はこれで」

そして消えようとした僕の首根っこを蛇川くんががっしり掴んだ。相変わらずの力だった。なんなんだよ。

半べそで見上げた。

「どこ行くの?大丈夫だよ!俺ちゃんと恋に時間は作る派だから♡ね!リュウ!♡」

じっとり見つめられて死にそう。怖いよお誰か助けてええ。

「っていうかここ神社でしょ。詰めないでよお。もうそろそろ勘弁して家に返してよお」

「詰めてないよ。俺の気持ちに応えて欲しいなって言ってるだけじゃん♡じゃないとお家に返せないってだけでさ」

それ詰めるっていうんだよ。カツアゲだよ。

ダメだ、蛇川くんにはやんわりいっても伝わらない!眼光にビビってきたけど、今日こそハッキリ言うんだ!

僕は手をギュッと握った。

「へ、蛇川くん!」
「なぁに?♡♡♡♡♡♡♡」

うっ名前読んだだけで♡の数がメッチャ増えてる!健気なはずのに重い男、蛇川……!

「あのっあのっ僕っ蛇川くんの気持ちには応えられないっていうか……!」

「…………。ふうん?一旦話聞こっか?」

すうっと目を細められる。語尾からハート消えてて相当怖い。

でもま、負けるな僕……!

「じ、実は僕、兎田くんが気になってるんだよね……!」

そしてそれは本当だった。

「…………どこが良いの?」

グビ、と喉がなる。

『俺以外に良い男なんかいるのか』ばりの感じだけど、いや僕ら付き合ってないんだよ。

「え、え〜っと、足速いし優しいし、爽やかだしっ」

「あいつ大体足速いだけじゃん前にもリレーで亀山と勝負して油断して負けてるしホント大事な試合で気を抜くタイプじゃんそんな奴にリュウのこと護れる気がしないな俺はだいたい俺の方が背も高いし顔もカッコ良いし優しいし爽やかだし俺だって足まあまあ速いし」

「うっうるさいうるさい」

被せられて大分うるさい。神社の隅っこで僕は今じりじりと壁際に追い詰められている。僕は蛇川くんのこういうところがぶっちゃけ苦手なんだ。

「それに兎田はもういないよ。ライバルはこの俺が先に食べておいたからね」
「!?」

伏せていた頭をぱっとあげて蛇川くんを見つめた。

蛇川くんは細くて赤い舌をぺろっと舌を出した。

「まあまあだったよ」

「!!」

その瞬間、確かな悪寒が体を駆け抜けた。

「俺はリュウをそんな風にしたくないんだよね……だから俺の言うことちゃあんと聞いてね」

「……!」

絶句した僕に、蛇川くんは吹き出した。

「何驚いてるんだよ、ウソ!嘘に決まってんじゃん!ウサギなんか食べないよ。趣味じゃないし。

……でも俺の言うことは聞いてね?♡じゃないと俺、どうするか分かんないから」

蛇川くんの力強い手が僕の腕を引き、僕をどこかへと連れ去って行く。それはどんどんひと気のない方へと向かって行った。

 

end

2023年兎年、2024年が辰年(龍)2025年の干支が蛇年だから。干支BLです。

最初は普通の溺愛(?)を書こうとしてたんですが、蛇川くんがどんどん闇方向に行きました。笑

 

◆最近のあれこれ

2024年は結構忙しくなってしまい、なかなか作品を更新することが出来ず、個人サイトに時折更新する程度に止まりました。

メルマガ配信が止まったこともあり、読者さんと交流する機会も減っちゃったなぁ〜と思っておりました。

今年はなんとか折り合いをつけていきたい……!

お気軽にメッセージもらえると嬉しいです(´∀`=)

月夜オンライン書店

月夜オンライン書店では、過去に掲載したシリーズの番外編やココだけの読切作品を取り扱っています。

リンクはこちらから🔽

boothで見てみるnote で見てみる

※boothとnoteは取り扱い内容同じです。

よろしくお願いします♪

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です