「何を言ってるの?『俺』だよ、恋人を間違えるなんて傷つくな」
そういってを事を進めようとする彼を押し返した。強引に進めようとするところに焦りを感じる。
「ほら良い子だから」
そういって僕を宥めようとキスをしてきた。そこで確信した。普段の莉音くんならこんなことはしない。パシっ!てくる一場面だ。
「辞めてよ!詩音くん!!こんなことするならもう家出ていくから!」
声がひっくり返った。だってどうやっても体格差では敵わないから。辞めてといってやめるか相手次第でしかなかった。
それでもしばらく押し問答したけど、やがて相手は諦めた。
「……ナツミくんはそういえば家出得意な子だったね。はあ……降参。そう、詩音だよ。よく分かったね」
「や、やっぱり……!」
あわてて毛布をかき集めて身に纏った。普通にあれもこれも見られてたことが恥ずかしくて消えそうだった。
「別に隠さなくても良いじゃん?もう見たし記憶したよ」
「怖いこと言うのやめて!!」
強引に僕の毛布を剥いでこようとする詩音くんを
どうにか制止……することは出来なかった。
「じゃあ一緒に入れば良いじゃん!ね!」
結局無理やり同じ毛布に入ってきた詩音くんだった。毛布の中で肌がぴたりと触れる。莉音くんでも加賀美さんでもない肌。ここのところ僕はおかしい。こんなの間違ってる!
「あ〜あ〜それにしても惜しかったなあ……既成事実まであと一歩だった……やっぱり最後に聞いてきた質問?の答えが違った?アレでバレたのかな」
僕はコク……と頷いた。
「正解を教えてよ」
「悪用しそうだから嫌です……」
「しないしない、誓いま〜す」
「信用出来ないよっ!」
まあそうかとハハと詩音くんは笑った。
「まあまあ良いじゃん?今度から俺なのか莉音なのかベッドで見極める暗号質問でもまた別に作れば良い」
「〜!」
口達者なところがなんか加賀美さんそっくり!
ぷいと横を向いた。
「それくらい良いじゃん。じゃないとこのまま抱いちゃうよ」
耳元で低く囁かれてドクンと心臓が鳴った。
慌てて振り向くと、詩音くんが間近に僕を見つめていた。
「そうすると君は家出するという訳なんだけど、まあナツミくんにヤリ逃げされてみるのも一興って考え方もあるしね……0より1の方がマシだよね、なんでもさ」
毛布の中で僕の太ももを撫でてきて、ヤバいと頭の中でアラートが鳴った。
「わかったよ!……莉音くんがいつも聞いてくるのは、『加賀美さんのことはちゃんと忘れたか?』っていう質問……それにうん、って言わないとダメなんだ」
「それって効果あるの?そんなこと聞かれると前の彼氏への思慕が募りそうじゃない?」
「さ、さあ……僕に聞かれても……」
「……まあ不安なんだろうなあ……それにしても『いつもの質問』ってそういう内容だったのか……アドリブで当たる訳ねーや。双子の兄でも知らない顔ってあるもんだね……」
こともなげにふうんと詩音くんは言った。
少し考え込む様に指先をかり、と噛んでいる。
「まあ、とにかく分かったよありがとう。ところでなんだけどさ、これで君と莉音は元通りとは行かないんだよね」
ウッ苦しいところを……!
「そ、そりゃさ、莉音くんと詩音くん間違えちゃったけどそれは」
「いやそこじゃないんだよね。莉音には君みたいな子と浮気する流れを作っておいたんだよ」
「!?は、はあ!?」
訳が分からず僕は心臓がバクバクした。
そして詩音くんから、信じられない『莉音騙し討ち計画』を聞いてゾ〜ッとした。
「ベッドに潜んでおいて、莉音がベッドに入ってきたら積極的に絡んでね♡って言い含めておいたから莉音も無傷という訳にも行かないだろうなあ。うまいこと致してくれればそれで結構だし」
「さ、最低!!」
「そうだよ。俺は最低男。
でもこれでおあいこだよね。ナツミくんは俺と寝かけ、莉音も俺が買った男の子と寝かけた。
清廉潔白ですと言い難くなったふたり。キズモノはいやだろう?睦まじいふたりにヒビ入れるには良いと思うんだよね。そこに割って入るのが俺という訳」
「そ、そんな!そんなことされたって僕は詩音くんと付き合ったりは」
しないと言おうとした唇を、詩音くんは塞いだ。
「それ直接君のかわいいお口から聞きたくないからちょっと黙ってもらえる?
俺もさあどうしようもなかったんだよね。ナツミくんにちょっかいかけてもマットウにやってたらなびいてくれないし。せめて3Pに混ぜてくれたらこんなことしなかったけどね」
何言って……とばかりに首を振った。
「3人で付き合えば良いのにい。まあ、君はそういうの嫌だろうし、莉音も独占欲強いからね。じゃあ、ナツミ取り合いバトルのリングにあがるしかないよね。俺はねえ争い事が好きなんだよ、昔っから……」
そう言って荒々しく僕をベッドに押し倒した。
「やっと俺のこと見てくれたね……大好きだ」
うっとりする様などかまでも甘い声。そんな、そんな声音で僕を求めないでくれ……。
「どう?あの時、俺のことちょっとは良いなと思ったでしょう?」
「!あ、あれは莉音くんだと思ったからっ」
僕は必死に弁明するも、言い当てられて心底ドキッとしていた。
「嘘はいけないね、ナツミくん」
僕の唇に指先を当てて彼は止めてきた。
「莉音だったのか詩音だったのか?問題はそこじゃない。君が『どういう男にときめくか?』なんだよ。
ナツミくんは確かにあの時俺になびいた。それはナツミくんは心の奥底じゃそういう甘い振る舞いを出来る恋人を求めてるってこと。甘い溺愛をね。
じゃあ俺も可能性あるってことだ。入れ替わり作戦は失敗したけど、それが分かっただけで今回は十分収穫だったよ」
だってと僕が割り込む隙を与えず彼は畳み掛けた。
「兄貴はああ見えて結構冷たい男なんだよ。一見優男なんだけどね。俺は普段は暴力男だ用心棒だなんだと周囲に言われてるけど恋人にはめちゃくちゃ優しくするよ。ややこしい喧嘩は買うけど、恋人を殴ったことは実は一回もない。ホントだよ。
それにくだらない嫉妬をぶつけたりもしない。なぜって?別に不安じゃないから。欲しいものは奪ってしまえばいいし、奪い取ったら再度誰かに取られることなどない。
俺は恋人をちゃあんと満足させる男だからね」
詩音くんは僕を押さえつけてキスをした。甘い甘いキスだった。逃れさせてもらえなかった。
「莉音は言えない睦言を君にあげよう」
その時ピンポンとベルが鳴った。
くくと詩音くんは笑った。
「莉音だ。いつかの時とは逆だね、気分良いや。スゲー切れてるんだろうな。まあ殴られやしないけどね」
そう言って機嫌良く詩音くんは立ち上がった。
続く
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