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【リクエスト企画作品】お前じゃなければダメだった

リクエスト企画作品です。

お題→攻めが後悔する系(死ネタじゃないやつ)

過去に振った子とやっぱり番になりたいαと、もう無理なΩの話。

なかなか胸糞悪い話なので、読んだら具合が悪くなるかもです💦

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七海は俺にぞっこんだから、いつでもヨリを戻せるモノだと思っていた。

 

『お前じゃなければダメだった』

 

七海っていう幼馴染がいた。

オメガなんだけど色気のいの字もなく、フェロモンどころではない奴。

別に美しくもなく、だけどイケメンでアルファのこの俺を好きだというツワモノ。

家が隣だからさ。小さい時からよく告白されてて、でも俺はよく聞き流していた。

ああーまたいつものやつ〜って……。

 

笑うとまあまあ可愛いんだけどね。性格もまあ良い奴だよ。でもそれだけって感じ。

 

大きくなるにつれて七海は俺をデートに誘うようになった。お祭り行こう、映画行こ、駅前に出来たカフェが……って色々。

涙ぐまし〜よねえ。気まぐれにちょこっと誘いに乗ることはあったけど、俺は気まぐれにすぐ帰ったりした。

「ねーもう帰っちゃうの?」
「うん」
「あ、じゃあこれ持ってってよ!さっき内緒で孝也に買ったやつなんだ」

いつのまに買ったんだよっていう、俺が喜びそうなクッキーだのちょっとした小物だのをガサガサと渡してきた。

健気だねー、でもそれだけ。やっぱり当時はそう思っていた。

 

中学を卒業する頃になっても別に七海はやっぱり色気のいの字もなかったし、フェロモンも全くなかった。

お前、ほんとはベータじゃねえの?って俺はよくからかっては、七海が落ち込んだりした。
おいおい、マジになるなよ。俺がいじめてるみたいだろ。

よく俺の部屋に遊びにきていた七海。押しかけてきていたと言うのが本当のところだけど。

ベッドでばふ、って俺は転がりながらある日言った。

「高校に入ったらタイプのオメガとか出会うんかな〜匂いで分かるんだろ?すげーよな」

シン、と静かになった部屋。

「……僕ってやっぱり良い匂いとかしないのかな……?」

「しないね〜まじで一度も邪な思いを抱いたことないんだよね……」

そしたらぽろぽろ七海は泣き出した。

「えっえ……!?」
「つらいよお……」

グスグスと泣く。聞けば本人も気にしてたらしく、病院で検査したらフェロモンがほとんど出ていなかったらしい。本当にかすかすらしく、検査結果を受けて病院でも泣いたらしい。

「こんなに孝也が好きなのに……」
「う、う〜ん……」

仕方ないので抱きしめて背中をさすった。慰めるだけのつもりだった。

 

だけど優しくしたことで七海は俺を更に好きになってしまったらしかった。

しばらくして高校生になった俺たち。別の高校だった。

勉強教えてくれと俺の部屋に押しかけてきていた七海は、ふいに口を開いた。

「……良い感じのオメガの子とか、出来た?」
「まあね〜もうちょっと押せばどうにかって感じかな」
「付き合うってこと?」
「まあお付き合いには興味あるし」

七海は俯いた。

「そういう仲になるってこと……?」
「え?まあね」
「……僕じゃだめですか……」
「だから〜泣くなってえ」

そして急に俺に抱きついてきた。

「練習で構わないから。だからその子より先に抱いてくれませんか。そしたら忘れるから。もうここには来ない」
「!」

これには流石にドキンドキンと心臓が鳴った。俺だって初めてな訳だし……。七海と?

「お、お前それで良いわけ?1回練習してポイなんだぞ?」
「それでも良いの」

グイとネクタイ引っ張られて、七海は俺にキスしてきた。

すげえ一生懸命アタックしてくるから、ほだされた。

そのままベッドに押し倒して、あとはスマホで得た知識通りに……。

 

 

寝乱れる七海はちょっと可愛いかもなあとは思った。でも、それだけ。

フェロモンがない。夢中になれるかっていったらなれなかった。

自分でも最低だけど、これっきりだと思った。

 

暗闇の部屋、ベッドで何となく七海に背を向けて俺はぼんやり色々考えていた。

七海は俺にぺとっと背中からくっついてきた。

「ねー孝也。やっぱり僕じゃダメかな……?」
「んー、まあ、やっぱ違うかなって……」
「そっか……そうだよね。じゃあ、帰るね。今日はありがとね」

七海はそそくさと服を着て、帰っていった。

そういえばあいつ最後に泣くかと思ったけど、泣かなかったなと思った。

 

翌日。流石になんかあれっきりってのもなあと思い、七海の家に俺から行った。

いつぶりだっけと思いながら。

そしたら七海のお母さんが青い顔して出てきて行った。

「七海は昨日飛び降りたのよ。っていっても2階のベランダからだけど。……今病院にいるの、これからお見舞い。孝也くん、あの子から何か聞いてない?」

さすがに俺はもう関わってはいけないと思った。
ここで優しくしたら、また七海は苦しむ。

そこまで思い詰めていたとは知らなかった。

自分を本気で好きと言う奴に、軽い気持ちで優しくするのは罪だと知った。

 

 

それから七海とは会わなくなり、俺は大学生になって遠くで一人暮らしを始めた。

運命のオメガには出会えないまま。どんなオメガの子にあってもピンと来ないまま、時間だけが過ぎた。俺ってなんか変なのかなと、劣等感が膨らんでいった。

俺はモテはした。声はかかる。皆まあまあ可愛いし、それになりに良い匂い。でもそれだけ。

俺はどこか欠けているのかもしれなかった。

 

都会に出てみると、おぼこい純真なやつはそれだけで結構珍しくて七海ってなかなか貴重なやつだったなと時折思い出したりした。

 

だって俺のこと好きって言いながら普通に(本当に普通に)2股してくる女もいたし、寝たけど縛られたくないから付き合わないってのたまう顔の綺麗な男もいたし、本当に色々だった。

いや散々だった、の間違いか。

 

色恋に疲れ果てて、久しぶりに実家に帰ろうとしたある日。

家の近くでなんかやたら甘くて良い匂いがふわりと漂ってきて、母さんなんか花でも植えたのかと思った。すごい良い匂いで、しばらくぼんやりしたくらいだった。

「あ、あれ孝也?久しぶり」

振り向くと、すごくきれいな男の子が立っていた。ふわふわと良い匂いを発散させていて、俺は一度で虜になった。ドキドキして仕方なかった。

これが運命だというやつだと悟った。

「……な、七海……お前なのか……」
「ん、そうだよ」

にこにこしている。昔の笑顔のままだ。

「なんか随分きれいになったんじゃないか」
「えーそう?まあ、愛の力かな?」

「いま相手いるのか」
「うん」

へへと照れ笑いする七海を見て、ものすごくザワザワした。
いつだって俺のことが一番好きだったじゃん。

「誰?」

知らずに声が尖っていたかもしれない。
俺からなんとなく一歩下がった七海。

「んーとね、昔通ってた病院のお医者さん。診察を通して会ってるうちに深い仲に……って本当はこういうのダメなんだけどねー」

「いつから」

「え、んーなんていうか……付き合い始めたのは本当ごく最近なんだよね」

「なんで付き合いだしたの?」

「え?僕も幸せになりたいな〜ってようやく決心がついたから……」

「その人アルファ?」

「ん、そう」

「……俺、七海と番になりたい」

「え……」

それは衝動的な告白だった。

「七海からこんな良い匂いするなんて知らなかった。どうして隠してた?」

「か、隠してた訳じゃないよ。その、フェロモン出す治療がうまく行っただけで……」

他の男に取られる訳にはいかなかった。

「ソイツと別れて俺と番になってよ七海。できるだろ」

「!」

七海は俺にぞっこんだから、俺から告白すれば余裕だろうと思っていた。

「僕のこと好きなの……??」
「ん、今。好きになった」

聞くやいなや、七海はアハハと乾いた笑い声をあげた。

「遅いよ。ちょっと遅かったよ。見てこれ」

ネックガードを外してうなじを見せてくる。そこには痛々しいほどの噛み跡があった。

「昨日番になったんだ。もう戻れない。僕は他の誰のところにも行かない」

「七海」

手を握ろうとしてスッと逃げられた。

「これから新居見に行くんだ。来月には新婚旅行もあるし。身内だけの小さな式もする予定なんだ。これから彼とずっと一緒に暮らすんだよ」

「ま、待てよ!そんなの許さないから!」

「先生はこんな僕のことずっと好きって言ってくれてた。ずっと待っててくれた。そして僕をあらゆることから救ってくれた。僕をこんな風に変えてくれたのは先生なんだよ!」

走り出そうとする七海の手首を掴んだけど、ふりほどかれた。

「じゃあね孝也!さようなら!」

 

 

俺は最初からこの手にあった運命を、みすみす逃してしまったんだ。
七海のことをもっと知ろうとしてたら、何か違っていたのだろうか。

 

しばらくして七海は子供を産んだらしい。

どんどん時が経つが、七海よりいい匂いには未だ出会えていない。

俺は一度だけ嗅いだ七海のあの時の香りに夢中になったまま。

もしこの身に七海を抱けたらと思わずにいられない。

それが中途に叶ってしまい、だけどもう2度と叶わないと知ったら、俺もどこかから飛び降りてしまうのだろうか。

あの日の夜が悔やまれてならない。

 

 

 

end

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