短編小説

【短編】絶望しかいらない

※ただの暗い話で萌えとかはないです。

 

「あなた、こんなに売るなんて正気ですか?」
「もういらないんです」

ここは近未来都市。自分の持ち物はどんなものでも自由に売り買い出来る店があった。

「希望、情熱、勇気。この辺は確かに売る人はいますが。でも絵の才能。これ売っちゃうと画家になれなくなりますよ?あなた画家を目指してたんじゃないんですか?」
「良いんです。もうならないから」

売主の男は低く呟く。

「分かりました。それに申し込み表によると他にも大量に……あ、聴力も売っちゃうんですか?それは随分不便になりますよ」
「良いんです」

「えー、最後に。喋る能力も売ると。本当にあなた良いんですか?確かに何でも買い取るとは言いましたが」
「良いです」

店主の男は頷いた。

「ではここの装置に座って…はい、目を瞑って。ハッと目が覚めたら、あなたが売ったものはこのカプセルトイの中に入ってますからね。一見ガラクタっぽく見せるのはご愛嬌ですよ」

ウインクして見せた店主に、男は何も反応を返すことなかった。

冷たい反応には慣れている。店主の男は肩をすくめた。

 

 

街中でひそひそと噂話が行き交った。

「……あの男の人、恋人が自死したんですって」
「それを忘れたいみたいよ」
「モデルを目指していてオーディションに落ちちゃった恋人に、悪ふざけでお前ブスだしなって言ったら死んじゃったんだって」
「まあ……じゃあ記憶を売って?」
「売ったお金で新しい相手でも買うつもり?」
「最低!」

無責任な噂話は今日も飛び交う。

何が本当で何が嘘か、曖昧なまま噂話は街中に溶けては消える。

そんな最中、店主の男だけは真実を知っていた。

「あの人が売ったのは、希望、情熱、勇気、聴力。etc etc……それから絵の才能、人と話す能力。

あの人、記憶と罪悪感だけ売ってないんですよね。何でも買い取るって再三言ったのに。

自分から全ての希望を奪ってでも、自分の罪悪感と向き合いたかったんですかねえ……」

 

 

 

end

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