stardustシリーズ番外編、モネとひかり、ふたりの夜。ただお話してるだけの何でもない話です。2人のだいぶ先の話ですが、具体的にいつの話なのか?深く考えずゆる〜く読んでくださると嬉しいです。
止まない雨が激しく窓を打ち付ける。
ホテルの外に見える煌びやかなビル群は、夜を空背景にまるで深海魚の様に煌びやかで異様な輝きを放っている。
何も言わず、少し険しい顔で窓の外を見つめるモネ。その横顔は相変わらずぞっとする程、均整が取れている。
僕は大きなダブルベッドの布団に包まれたまま。今までの疲れが取れない。もぞと体を動かして言った。
「……えっとラスベガスって雨降るんだね」
「何言ってるんだ。ここは砂漠じゃないんだぞ」
「だよね……」
当たり前のことをつい聞いてしまう。小学生かって我ながら思う。12歳年上のモネになんでも聞いてしまう。
「明日飛行機飛ぶかな……?」
「厳しいかもな。連泊しなきゃいけないかもしれんな……」
僕はぎゅ、と布団を握った。
モネが社会勉強にと連れてきてくれた今回の旅先、ラスベガス。バリバリにお金のかかった演出のショーを沢山見に行かせてくれて、異国の歌手の声を様々に聞かせてくれた。
『お前はまあまあ耳は良いからな。期待してるぞ』
そういって頭を撫でてくれた。
『良い歌手になれよ』
そうとも言ってくれた。
モネと一緒にいるようになって随分長く経つ。僕の半分はもうモネが育てた様なものだ……。
照明を落としたホテルの部屋、薄暗闇の中で自分の手のひらをほんのり掲げてみた。
「……ラスベガスどうだった?ひかり」
「眩しかった」
「!ハハ……そりゃそうだな。どこもかしこもピカピカしてるしな」
そういうことを言って欲しいんじゃないんだろうけれど。
「あとはモネがどこかに吸い込まれそうでこわかった」
モネが振り返って僕の方を見た。
「モネ誰とでも英語で喋っちゃうから。あの金ピカのビルだのカジノだのに紛れて、モネがどっか行っちゃうんじゃないかって思った」
「ひかり……」
そうなのだ。芸能事務所の社長で、資産家のモネ。本当なら僕を置いてどこへでも行ける。
ラスベガスに呑まれそうだった。
「僕、ラスベガスちょっと怖いな。ごめんねせっかく連れてきてくれたのに。
今日やっと2人っきりで過ごせてホッとしてる……」
1週間ほど滞在する予定で、最終日前日の今日は雨でホテルに缶詰だった。
靴音が絨毯を踏んで近づいてくる音が聞こえる。
「ひかり」
モネがベッドの端に腰掛けた。
「お前がそんなこと考えてるなんて気づかなかった」
「うん、僕もやっと言えた」
楽しいはずの旅行中に、どうして時折訳もなく不安になるのか、ようやく分かったのだ。
「モネがいなくなることが、ぼくにはもう耐えられないみたいなんだ」
「……ひかり」
一番大事なことに気づいた夜。
外に見えるのは深海魚みたいに光るビル、大雨。
大きな水槽みたいなこの場所。
身を寄せ合って眠る僕らふたり。
確かな愛を抱えて。
end
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