なんでもない顔をして莉音は続けた。
「あ、詩音からLINEだ。
コンビニでちょっと買い物してくって。ちょっと長くなるかもだって。あいつひと声掛けていけよな〜」
来てもいないLINE。捏造された用事。
血気盛んな詩音に加賀美とのバトルは任せていた。まあアイツならどうにかするだろうと弟を信じている。
「って訳でさ、俺たちで先に色々やってよ。やー、ほんと楽しみ!」
にこ、とそれはそれは美しい笑顔をナツミに見せつけた。
ウブなナツミが一瞬ぼうっとしてしまったのをしっかり把握して大層気を良くしておきながら、莉音は頭の中で今晩の作戦を考えていた。
いかにナツミと加賀美をしっかり引き離し、会わせないでおくか。
そしてナツミとの仲において、どうやって詩音を出し抜くか……。
「あ、ナツミちゃん!コーヒー淹れるからキッチン向かってて。場所分かるかな。そう、そこまっすぐ、先行ってて!」
ナツミにバレない様に、そっと後ろ手に玄関扉のチェーンを締めた。
これで加賀美だろうが詩音だろうが、勝手に入って来られない。
◼️◼️◼️
「ささ!我が家自慢のシステムキッチンをご照覧あれ!な〜んて、コーヒー淹れるね。ナツミちゃんは見ててねー」
「は、はいっ」
金がかかっているが故にとにかくデカくて立派なシステムキッチンにナツミを通すと、面白いくらいに恐縮してしまったナツミ。わ〜すごい、とか色々ひとりごちている。
莉音は、かわいいなあ、子ペンギンみたいだなあ、いや小犬かな?と、にこにこしながらナツミを見つめた。
ちなみにこの身体がデカいが可愛い物好きのこの男にとって、誰かを動物に例えるのは最大の賛辞である。
コーヒー豆を出してきて、コーヒーマシンの電源を入れる。良い香りが当たりにふっと香った。
「わ、良い匂い……」
「もっとこっち来てよ。マシンの使い方、ナツミちゃんにも覚えて欲しいんだよね」
そっとナツミの腰を抱き寄せて、一瞬で離した。
「え、わ」
「あごめんごめんつい〜」
ややしどろもどろとなったナツミに、莉音は笑いかけた。
詩音が踏み込んでいない領域にまずは俺が先に踏み込んでやる。そういうモチベーションで内心メラメラしていた。
「マグカップはあ、これがナツミちゃんって感じかな。はいっこれを君専用にしてあげよう!」
差し出したのはゆるかわいい子犬柄モチーフのマグカップだった。それにコーヒーを淹れていく。
「え!良いんですか?僕用にだなんて……」
「うんもちろん!だってナツミちゃんは大事な存在だもん」
「……店長」
ついうるっと来てしまったナツミ。
こんな風に誰かから、お前が大事だなんて真っ直ぐ言われたことがなかったのだ。
詩音を出し抜くつもりで、加賀美ですら実は言えてこなかったセリフを、そうとは知らずに莉音は早速決めていた。
知らず知らずのうちに全員よりも一歩リードした莉音である。
「やだなあ、本当のことじゃん。ナツミちゃんて感激屋さんだなあ。……それよりさ」
莉音は、素直なナツミの反応を見てこれは早速押すべしとピンと来た。
「店長なんてかしこまった呼び方やだな。家ではちゃんと莉音にしてよ」
「莉音くん……」
「あ、待てよ。『りお』とかも良いよな」
「り、りお……?」
「!やった〜恋人みたいで嬉しいな」
「!?」
動揺のあまりにナツミは手が震えてコーヒーを溢した。
「だっ大丈夫!?ヤケドしてない!?水で冷やして!」
ナツミの手を掴んですぐに水道の冷水をかけた莉音。ザバババと心配のあまりにすごい勢いで冷水を浴びせた。
「や〜ごめんね本当!俺淹れなおすから、ソファでゆっくり座って待っててよ!」
その後すまなそうに謝った莉音だった。
以前にナツミが加賀美といた時、コーヒー淹れようとするもティファールのお湯溢して冷たく『ほんまあほやの』と呆れられたことを思い出していた。
莉音くんは加賀美さんと違うなあとぼんやり感じていた。
そしてソファで並んで、改めて淹れたコーヒーを飲んだ。
……詩音のやつ、まだ時間かかりそうだな。
携帯をチェックしつつ、玄関扉もチラッと見るが変化はなかった。
けっこう手こずってんのかなとちょっと思案するものの、詩音の喧嘩の強さはその身を通して知っている莉音である。
アイツ、つえ〜からな。まあ大丈夫だろう。
ナツミちゃんに畳み掛けるなら今のうちっと……。
「……ところでナツミちゃん。実はちょっと相談したいことあるんだよね」
「えっ僕にですか?は、はい、なんでもどうぞ!」
ドキッとして背筋を伸ばしたナツミ。
誰かに頼られるなんて人生でほぼないから、嬉しいようなこそばゆいような、すでにちょっと誇らしい気持ちだった。
その様子を感じ取って、莉音は内心愛おしさで転げ回っていた。ひ〜ウブ〜!と。
いやいやニヤけてはいけない。さて……。
「俺と詩音て双子でしょ?実はさ、昔から弟の方ばっかり皆好きになるんだよね……」
「え、ええ?そうなんですか?」
「うんそう」
もちろん大嘘である。双子は同じくらいモテてきた。
「俺って魅力ないのかな、ナツミちゃん。俺、自信なくしちゃってさ……」
「ええ!?いや全然そんなことないですよ!!」
消沈してみせた莉音に、ナツミは食らいついた。
「金髪似合ってるし、僕のこと大事なメンバーだってさっき言ってくれたし、そんなこと言ってくれる人なんていないし、優しいし、えっと身体が大きくて男らしいし!あと顔カッコいいです!
充分魅力的です、自信持ってください!」
「ナツミちゃん……」
ふ、とちょっと感動した風で顔をあげた莉音。
これはナツミに自分の良いところを褒めさせて、莉音て結構良いんじゃない?とナツミに自己説得させたい莉音の作戦である。
「……じゃあさ、ナツミちゃんだったら俺のこと好きになれる?」
「え……」
期待に染まる瞳がナツミを見つめる。
熱烈な視線に真っ直ぐ見抜かれていると、鼓動ドキドキして、体温が上がっていく気がするナツミ。指先をギュッと握る。加賀美さんとは終わった。新しい恋を見つけるって決めたじゃないか。
莉音くんなら……。
「え、えっと……僕は……」
絡められた指先。
このまま一気にカタをつける、と莉音が喉を鳴らしたその時。
ドンドン!と玄関扉から怒り狂った様な猛烈な音がした。
続く

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