翌朝、アラームが鳴る前にがばと起きる。
無表情で会社に行く準備をてきぱきとする。寝不足で鏡に映る自分のくまが酷いが、知ったこっちゃない。
出社して早々。
「あ、おはよう加賀……」
「部長、おはようございます。僕1週間後に会社辞めます」
「!?」
社内のエースが辞めると言い出し腰を抜かした
部長、ザワつくフロア。
「で、でも」
「すみませんもう決めたんです。引き継ぎは完璧にやりますから」
ニコ、と営業スマイルを最後にデスクにつくと、猛烈な勢いでパソコンのキーボードを叩き始めた。
遠距離恋愛(フラレ済み)などちんたらやっていられない。今ナツミを放っておくと本当に取り返しがつかないことになると動物的な直感で分かっていた。
故に昨日までのあれこれを考慮して弾き出した答えは『俺が会社辞めてナツミの側にいく』だった。
待ってろやナツミ。
猛然と引き継ぎ資料を作っていく。
加賀美新一、こうと決めたら早い男だった。
一方ナツミ。
「昨日は大変だったね、ホントお疲れさん!ていうか具合大丈夫?本当無理しなくて良いから!」
なんとか出勤し、店に顔を出すやいなや双子店長にチヤホヤされていた。
頼んでいないのにホットのカフェオレとオムレツ、ついでにプリンアラモードードが振舞われた。
『具合が悪い時はとにかく美味しいものを食べろ』
これが双子の言い分だった。
「えっとそれでその……まあ、加賀美さんとは終わったんです。ご迷惑をおかけしました。
で、なんかこう、新しい目標が欲しいなって思ったところだったんです。せっかくだしパン作りでもバリスタでも極めてお店に貢献しようかなって」
「良いじゃんそれ!」
ちょっと恥ずかしげに自分の決心を晒して見せたら双子に異常に食いつかれて困っていた。
「そういう前向きな子は非常に応援したくなるよな、兄貴?」
「そうだな。あ、じゃあせっかくだし、ウチ住んじゃえば!?ウチのシステムキッチン好きに使って修行しなよそうしようそれが良い」
「良いなソレ!」
「え、え、えええ……?」
双子の盛り上がりに置いていかれしどろもどろのナツミ。
なんかいつのまにかとんでもない方向に急カーブしていった話の手綱を握れないまま、連続して張り手をかまされ土俵際に追い詰められていく。
「ナツミくん家に来てくれたら最高のシェアハウスだな!」
な!と笑い合う双子のキラキラとした笑顔はたいそう眩しかった。それに自分とのシェアハウスをこんなに喜んでくれる人なんて生涯現れないんじゃないかとも思った。
それに、新しい恋を見つけたいという、ちんまりした野望もあった。
まさかこんな美青年の双子に新しい彼氏になってほしい、なんて贅沢は望むべくもないが、『カッコいいな』と心の中で一方的にハートを飛ばせるくらいに気持ちが育ってくれたらそれだけで自分の人生は救われる。そういう思いもあった。
だから……。
「ほ、本当に良いんですか?ぜひお願いします!」
だなんて、後に加賀美vs双子の地獄のバトルを開幕する要因になる場所へ、片道切符を買ってしまったのである。
「マジ!やっったあ〜〜!!!」
双子は喜んだ。めちゃくちゃ喜んだ。
かわいい恋人とのふしだらな関係を期待して。
それに何よりも。ネトラレという甘美な言葉の響きで心がはち切れそうだったのである。
そしてまた一方、加賀美。
引き継ぎ資料をあれこれ作り、挨拶周りをし。
新しい物件探しに引越し作業。
今後やらねばならないことを思うと正直ストレスでハゲ散らかしそうだったがなんとか我慢した。
そんなことよりも、自分が動けない1週間の間にまさかナツミと双子がトンデモない関係になったりせんやろうな、と不安と焦りと猜疑心でいっぱいで、鬼気迫るオーラを放っていた。
「1週間。されど1週間や……!」
周りから見たら仕事のことを懸念してるんだろうなとしか思われないセリフは、ナツミに向けてのものである。
色男・加賀美だったら1週間程度でナツミを落とすなんて余裕だった。それは同じ程度(俺より劣るが)には色男の双子にもまあ叶うであろうということを示していた。
目を瞑る。思い出す。ナツミを初めて見た時のこと。想いが通い合って嬉しかった時のこと。つい先日フラれた時のこと。
「……!」
ターン!とキーボードに荒く手を叩いた。
いてもたってもいられない。
今晩、仕事を区切りいいところまで片付け終わったら終電で行って、ナツミの様子見て始発で帰ってこよう。
いやセルフブラックやんけ。アホか。
不安に取り憑かれて、今の俺はどうかしている。
そう囁く客観的な自分もいたが、だからといってもう止まれなかった。
カッコつけてたら大事なモノを失う。
そのほうがよっぽどダサいのだと、身に染みていた。
負けてたまるか。
◼️◼️◼️
「ねー、ナツミちゃん。ウチに住む話なんだけどさあ」
「いっそ寝室は皆一緒とかも楽しくない!?修学旅行みたいでさあ」
加賀美と双子で1分1秒を争う様に、ナツミの包囲網はじわじわと狭められていた。
「えっ……えーと」
「ウチベッドデケーからさあ!3人くっついて寝よ。ナツミちんは真ん中ね。君の寝かしつけは俺たちがしてあげよう」
続く

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