最近暑すぎて思いついてしまった話。悲しい話です。
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暑くてあつくて、蕩けてしまいそうな気温のなか、どうにか頑張ってベランダから夜空を見上げる。
空には数百年に一度という流星群と三日月の綺麗な月。……こんな夜空をレオと一緒に見れて良かった。
安い棒付きアイスを齧りながらレオは言った。
「すげ綺麗」
「うん……」
こんなゴミみたいに廃れた街にも、綺麗な流星群は平等に降り注いでくれる。
「月もキレー」
「うん」
うだるような暑さで、僕はTシャツの首元をはたはたとさせた。
「暑いな」
「ん……」
見上げたレオも、ダラダラに汗をかいている。
美しい横顔を、その首元を、汗の球が滑り落ちていく。
「あの月の形。パクついたあとみたい。そう思わね?」
「本当だ。チョコパイかぶりついたあとみたいだね」
「うわこのクソ暑い中チョコの話すんなよベトつく感じがしてなんかイヤだわ」
「レオが言ってきたんでしょ」
僕ははあはあ、と荒い息を吐く。
暑くてあつくてたまらない。ペットボトルの水をごくごくと飲む。あっという間にカラになった。
今日は外はいつも以上にすごく暑い。
部屋ん中入れば良いのに、二人ともそれが出来ないでいる。室外機の音がごうごうと音を立てている。
「……あ!ってかさ、I love you.お前なら何て訳す?月が綺麗ですねは、ベタだからNGな」
「えー?」
「俺だったらそうだなあ。『またな』とかかな」
「なんか随分そっけなくない?」
「そっけなくねーよ!また会いたいって気持ちに全部詰まってるだろ。素直になれない男が言う、『またな』にはカクベツな思いが詰まってんだよ。ナツノは?」
「うーん。『一緒にいられて良かった』、かな」
「過去形かよ」
「……これからも一緒にいたかった、っていう気持ちが込められてるんだよ」
「……そっか……」
たははと寂しそうに笑って、レオは舐め終わったアイスの棒をベランダからどっかへ放り投げた。
「俺だってそう思ってるけどさ……」
僕は寂しくてたまらず泣いてしまった。
レオとは今日でお別れだから。
「レオのばか。くじ運悪すぎ」
「しょうがねーだろ。俺はナツノと出会うのに運を使い果たしたんだよ」
この暑い暑いうだるうような気温。
その気温は人間が耐えられる限界をいよいよじきに越えることが分かり、僕ら人間は地下で暮らすことになっている。
だけど地上で最後やらなければならない仕事がある。
地下へ通じる大きな入り口を外側からしっかり封鎖することだ。これは地下に土砂や雨水が流入するのを防ぐため。(もちろん通気口は別の形で存在するのだけれど)
くじ運の悪いレオは当たってしまったのだ。その死に役に……。
呆然とする僕。レオに縋り付いた。
『ぼ、僕も一緒に地上に残る!』
『カッコ良いヒーローは大勢いらんわい』
だけどそう突っぱねられて来た。
いよいよ上がる気温。もう人間には猶予はない。地下へ完全移動は明日。
どうしようもないうだるような暑さがまとわりつく。なのに流星群もお月様もすごく綺麗で……。
「I love you.の訳は、やっぱり『一緒にいられて良かった』しか勝たんな」
ふざけて言うレオ。汗でダラダラのふたりだけど、今日この時間を終わらせたくなかった。
レオは地下には一緒に来られないから。
きょうで終わりなんだ。
自分の目でこんな夜空を見上げることも。
好きな人と流星群を見ることも、月を見ることも。
『I love you.なんて訳す?』なんて他愛もない話でお互いの胸のうちを探り合う。そんな愛おしい時間も……。
end
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