短編小説

【短編】どうしてそんなこと言うの

顔面コンプレックス強めの受けくんが整形に挑む話。さみしい話です。すっきりする終わりではないかもしれません。

オメガバースモノですが、男性妊娠出てくる以外ではオメガバ要素ないです。

名前は適当です。

#オメガバース#男性妊娠#美形×平凡

ーーーーーーーーー

「あ、アリスくん!なんで整形したいなんて言うの!?こんなに可愛いのに!?」

その一言に心底イライラした。

「放っておいてよ!もう整形するって決めたから!」

「はあ!?許さないから!!!」

天然・超美形の僕の恋人、ヘンゼルには分からないのだ。僕の悩みなんか……。

丸っこい鼻も、ちっさ!っていう眼も形も。華も輝きもない自分の顔が僕が小さい頃からだいきらいだった。毎日鏡を見てはため息を吐く。

「アリスくんは可愛いよ!?世界でいちばんかわいい!!」
「そんな訳あるか!!!!」

全然似合ってないアリスって名前もマジきらい。

「もう放っておいてよ!!!じゃあね!!」

 

 

そう言ってヘンゼルの家を飛び出した。

僕が劣等感だらけの自分に一応の終止符を打てたのは、美しい恋人ヘンゼルが出来たからだった。

ヘンゼルは多分ちょっと変わった趣向なのだ。ブサ好きとか、多分そっち。僕が好きとか何故なのか本当に分からない。

『アリスくんは可愛い。本当に可愛いなあ……』

ベッドで腕枕して、優しくそう言われれば言われるほど辛かった。そんな訳がないから。

ヘンゼルは優しくて大好きだけど、美しいヘンゼルと並ぶほどにぼくは劣等感がムクムクと湧いた。

劣等感に折り合いなど、本当はつけれていなかったのだ。

だから悩みに悩んで、整形してしまうことにした。

それを決死の思いで打ち明けたのに。

さっきの狼狽したヘンゼルの顔が脳裏をよぎる。

『何言ってんの!?』

って心底あなたの気持ちが分かりません、みたいなあの顔さ……。

どうせ僕の気持ちなんてヘンゼルには分からないのだ。何も。

 

 

僕はヘンゼルの連絡を無視し続けた。

そして迎えた手術当日。

お医者さんは言った。

「手術の予定はこことここ。……それからこことこれと、この部分もやっちゃいましょう。なあに、お代は後で結構」

「え!?いや、話と違いますよね!?それにそんな大金払えな」

「じゃあ身体でも何でも売りゃあ良い!ほら早く、麻酔を……」

「い、いやだああああ!!!!!」

その時。

「待て!!!アンタ何してんだ!!!」

バン!と扉開けて割り込んできてくれたヘンゼル……。

■■■

「……アリスくん。それじゃあ麻酔、するよ。僕がやらなきゃどんなヤブ医者に何されるか、分かったもんじゃないから……」

僕はベッドでウン、と頷いた。

ヘンゼルは整形外科医だった。
腕は良く評判だった。

「アリスくん、本当に、本当に良いんだね?」

麻酔が効いて意識がぼやけてくる……。
それでもウンと頷いた。

「……僕はそのままのアリスくんが大好きだった。すごく可愛い子だった。それは覚えておいてね。

もちろん君が顔を変えても、僕の気持ちは変わらないけれど」

またウンと頷いたんだったかな。
そこから先、意識は途切れた。

 

 

手術は成功した。僕は雑誌に出てくる男の子みたいに、綺麗になった!

「や、やったよ!!ヘンゼル!ありがとう!」

「……綺麗になったね、アリスくん。よく頑張ったよ」

僕の執刀医をしてくれたヘンゼル。浮かない顔をしている。

でも僕は気づかないフリをした。ごめんねヘンゼル。

君は少し悲しいかもしれないけど、僕は心底嬉しい。まるで生まれ変わったみたいな気持ちだった。

 

洋服を着れば何でも似合う様になった。別に嬉しくはないけど、話したこともない人から突然告白される様になった。

『君かわいいね』

そんなうわべだけの言葉が、どこか虚しく響いた。

 

■■■

「お誕生日おめでとう、アリスくん」

今日は僕の誕生日。ヘンゼルが2人っきりでお祝いしてくれた。おしゃれなお店で、キャンドルナイトの素敵な夜だった。

「わあ、ありがとう」

プレゼントにくれたのは指輪。

「生まれ変わったらアリスくんにまた会いたいな」

ヘンゼルはそうぽろりと溢した。

 

それはどっちのアリス……?

でも昔の顔の自分に戻るのなんかゴメンだ。

「そうだね」

それだけ僕は返した。

 

 

これでめでたしめでたし、とはならなかった。

ヘンゼルは事故で急死したのだ。

僕を置いて……。

 

呆然としていた。でも後々知った。

オメガの僕は妊娠していたのだ。ヘンゼルの子供を。

 

 

しばらくして僕は子供を産んだ。グレーテルと名前をつけた。

ヘンゼルに似て、美しい金髪の青い眼をした綺麗な男の子だった。ほんの少しだけ僕にも似ていた。綺麗なだけじゃない、僕にとってはうんと可愛い子だった。僕とヘンゼルの子だもの。

「グレーテルは可愛いね」

毎日そう声を掛けた。偽りのない言葉だった。

ちょっとぶちゃいくな表情も、何もかもが可愛い。失敗写真すらも嬉しい。愛しいってこういうことなんだとグレーテルは教えてくれた。グレーテルの眠っている顔を見ていると、僕はいつもなんとも言い表せない幸福な気持ちになった。

「グレーテルは可愛い。本当にかわいい……」

 

 

グレーテルは大きくなった。だけど13歳くらいからだったかな。次第に陰が見え始めた。

スターのポスターを見てはため息を吐いた。
理由はテコでも教えてくれなかったけど……。

18歳になった時。
バイトバイトで忙しかったグレーテル。ため息ばかり吐いていた。

「ねえ、どうしたの?グレーテル。良い加減教えてくれよ」

「僕、自分の顔嫌い。眼も鼻も口も。顔を変えたい。整形したい」

「ど、どうしてそんなこと言うの!?十分、じゅうぶん可愛いよ!綺麗だよ!!!」

必死になって説得した。

でもダメだった。グレーテルの決意は固い。

「ぼく、こんな顔嫌いだ。大っ嫌いなんだ!
もう整形するって、そう決めたから!来週手術するんだ!」

「な、なんてことを!グレーテル!
どうして……!」

僕がだいすきだったグレーテルがいなくなってしまう。顔が全てはないけれど、僕にとってのグレーテルはこの顔だったのだ。

愛おしい君。どこにも行かないで……。

 

 

 

end

月夜オンライン書店

月夜オンライン書店では、過去に掲載したシリーズの番外編やココだけの読切作品を取り扱っています。

リンクはこちらから🔽

boothで見てみるnote で見てみる

※boothとnoteは取り扱い内容同じです。

よろしくお願いします♪

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です