※週刊誌記者の視点→藍視点です。
「ふ〜ん…テディくん家には誰も住んでなかったんですかあ…残念」
「そ。俺と社長でガサ入れしたんだよ。けど何も出てこなかった。怪しい形跡も。だからテディに張り付くのはもう辞めろ」
「記者的にそれはお約束出来ませんけどお。…でも頭には入れときますね」
薄暗いバーカウンターで並ぶ俺たち。
ボトルで酒を追加した。
恒例の(?)亜蓮さんとのコッソリ飲み会にて釘を刺された俺。
一方亜蓮さん心底気怠げに煙草をふかしている。珍しい。思わずじっとその横顔を見ていると。
「…何」
「いやあ〜やっぱ随分ハンサムだなあっていうのと。
…亜蓮さんが未成年だったら未成年喫煙!つってすっぱ抜けたのになあって」
「お前なあ。どこまで腐ってるんだ。良い加減にしろよ」
亜蓮さんは心底嫌そうに煙草の煙を吐いた。
世間話を適当にしつつ、俺たちはその日早々に解散した。俺が電話で席外してる内に、亜蓮さんは俺の分まで会計払っといてくれてた。こういうとこまじイケメン。いや〜飼い慣らされちゃうね。
亜蓮さんのスキャンダルは、ちょっと遠慮してあげよっかなって気持ちに多少はなっちゃうもんね。まあいざデカいスキャンダル撮れたらその時は分かんないけどね。
さてと。酔い覚ましにふらふら路沿いを歩きつつ、俺は頭の中で算段を弾いていた。
亜蓮さんの話を間に受ける気はない。ガサ入れ結果、テディくんが男の恋人と住んでました☆ってそれが事実であっても記者の自分に素直にゲロる訳ないし。
でも亜蓮さんは嘘をついている顔じゃなかった。俺のこころの嘘発見レーダーが反応しない。あれは信じて良い。
しかしだな。『テディくんは誰かと住んでいる』ってうのはやっぱりハズレじゃないと思う。記者の直感がズビビビビと反応している。
あのゴミ袋開けた時の違和感は絶対そうだ。あれで相手いないとかとんだ異常者だよ。あの正体を暴きたくて暴きたくて、俺はウズウズしてる。
俺は俺の直感を信じる。ハナがきくのは俺の自慢だ。やっぱり週刊誌の記者はこうでなきゃな。
それに…。
亜蓮さんもなあ、なんかこう時々沈んだ顔するんだよね。ちょこっとだけど。あれは忙しくて疲れた時にする顔じゃない。意中の相手を失った時の顔だ。
ふいに出る表情は誤魔化せない。酒の席なら尚更。これも裏取りがある訳じゃないが俺は概ね当たりだと思っている。
テディ君の件と何か関係があれば美味しいけど、その辺どうなんでしょね。まあそんな美味い話はないか…。
俺は酔い覚ましにしばらく漫画喫茶で寝た後、近くの駐車場に止めてあった自分の車に乗り込んだ。黒いミニバンはややデカいものの寝泊まりしやすくて気に入っている。車を発進させた。
深夜2時。記者のお仕事はこれからだ。
ふと社内のミラーに映る自分が目に入った。イヤらしくてゲスな表情をしている。だってしょうがない。大きなスキャンダル、雑誌の大きな見出し、突然のニュースに沸く市場。
どれもこれも考えただけでワクワクする。いやそれどころじゃない。俺は舌なめずりをしている。
でも別にこんな自分が嫌いじゃない。
じゃなきゃ週刊誌の記者なんてやらねーよ。
■■■
テディが仕事でライブに行ってしまって、今日は僕はひとりの夜。
思い出すテディとの今日のやりとり。
『絶対、絶対に家勝手に出てったらダメだからね
?あとさすがにもう来ないと思うけど、また誰かガサ入れ来たら前みたいにちゃんとあの革張り椅子の中に隠れてよ』
『ねえっこのチェーン解いてよお。…勝手にでてったりしないからあ』
『ダメ。それはそれ。これはこれ。あっやばい時間だ!…じゃあね』
そういってあたふた出かけていったテディ。僕を押し倒していたせいで時間がやばかったんだ。アイドル業は忙しい。その合間を縫って、隙あらば僕を抱くから。
元々時間ギリギリで行く癖のあるテディは、僕とこうやって地下で暮らす様になって更にその悪癖を悪化させていた。
…ベッド下に頑強にくくりつけられたチェーンは僕の足首に巻き付いている。
はあ。地下から見上げる階段。その先へは僕は行けそうもない…。
結局ぽつんと1人の部屋で手持ち無沙汰に過ごす。ソファに座って、自分のエプロンのはじをキュッと掴んだ。何でエプロンかって、僕が料理をしていたから…ではなく、テディのそういう趣味。メイドさんごっこってやつ…?
まあ、もうどうせ誰も来ないし。テディ以外の誰かに見られることなんかないんだけど…。
そう思っていた。完全に油断していた。
その時。ドンドン、ドンドン、と遠くの方で音がした。
できる限り地上へ続く階段を登って耳を澄ます。よくよく聞いてみると。
『ごめんくださ〜い。誰かいませんか?』
!!!
誰かが玄関扉を叩いているんだ!
いや、だけど。だ、だれ…??
聞き耳を立てていると、さらに声は続いた。
『すいません、車エンストしちゃってえ!携帯も電池切れちゃったんですよお。ほんと困ってて!!!この辺車全然通らなくてえ!!誰かあ。誰かいませんかー!?』
若い男の人っぽい声だけど…。
どうしよう?なんか困ってるみたい。
助けてあげたいのはやまやまなんだけど、でも僕はここからは出られない身だし…。
そう思っているとしばらくして声は止んだ。
あ、諦めたのかな?そう思っていたら。
全然別の方からガタ、ガチャって音が更に聞こえた。え、あっちってお勝手口のほうじゃなかったっけ…?
「…ごめんくださ〜い。誰かいませんかあ?」
ゾク、とした。
勝手口のほう鍵閉め忘れか!?テディ、慌てて出てったからチェックが甘かったのか?
ってか、え!?なんで勝手に入ってくんの!?ご…強盗!?
テ…テディ!!!助けて!!
今あのガタイの良い金髪男がいたら絶対安心だったのに。強盗なんかぶっ飛ばしてくれる。僕は物音を立てずに階段を後ずさった。
一応地下室の電気を消す。
や、大丈夫さ。この地下はさすがにバレっこない…。
「すみません…勝手に上がって。どなたかいませんかあ?すごく困ってるんです」
ゾクゾクとドキドキがやばい。ほ、本当に困ってるのあの人?でもよっぽど切羽詰まってても人ん家なんか勝手に上がらない…!?
僕は念には念をと思い、さっとベッド下に隠れた。ドキドキしながら耳を澄ませる。
「誰かあ…あ?ここ、地下あるんだ?」
!!!!?
移動式家具をそっと退かす音が聞こえる。心臓が恐怖心ではち切れそうだ。やばい、え、どうして?なんで分かったの?え、何?なんなのあの人…。殺されちゃうの?
助けてよ、テディ…。手のひらをギュッと握った。テディに今そばにいて欲しかった。おかしい、自分も笑っちゃう。僕を監禁してるのはテディなのに。でも見知らぬ誰かに殺されるくらいなら、テディに飼われてる方がまだましだった。
それにテディはさすがに僕を殺したりはしない。
「ごめんくださ〜い…」
トン、トンと階段を降りてくる音が聞こえてくる。パッと部屋の明かりがついた。どうしよう…どうしよう…!
ついに相手の脚だけがベット下から見えた。勝手にウロウロ部屋を歩いている…。
何だ、何が狙いなんだ。金か!?怖くて喉が鳴りそうになるのを必死に抑える。
アレコレとひと通り部屋を勝手に見ていったその男。その一挙手一投足に僕は怯える。冷や汗がやばい。手足が震えて、今にも叫び出してしまいそうだ。
ドキンドキンと心臓が鳴る音がすぐそばで聞こえる…。
「何だ、誰もいないのかなあ…」
そう言うのが聞こえて、ホーッと心底安堵した。
よし、そのまま帰ってくれ…!
そう願った瞬間。
ベッド下を覗き込まれて男と目が合った!
「なーんてね見いつけた!」
「や、いやッ!!!」
三日月みたいに目だけ笑わせた男が死ぬほど怖かった。
「やっぱりいた。…男のメイドさん囲ってるなんて、やるなあテディくん。
…あ、僕ね週刊誌の記者をやっています。染谷って言います。よろしくどうぞ」
続く

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