◆ヤンデレメーカー#24 離れたいからあなたが好きだと嘘をつく
だけど僕は冷静にふと考えた。
寮母やめるからここから出して、って言ったところであのテディが素直に言うこと聞くのか?と。
いやていうか無理だそんなの。あの思い込んだら一直線の激重ボーイは。どこに行くんだ亜蓮のところか、と僕を詰めてくるに決まってる。激情型のテディ。カッとなって今度こそ本当に首すじ噛まれて殺されるかも。亜蓮のところにやるくらいなら殺してやるって。
背筋が震えた。やけにリアルに浮かんだそのイメージをかき消した。
どうやって説得しよう?考えろ…考えろ…。
そのとき。ガチャ、と音がした。ただいまと低い声。ヒッと心臓が跳ね上がった。テディが帰って来たんだ。
テディがバスルームの電気をパチと、つけた。明るさに目を背ける。
「藍い。ただいま…あ、起きてたんだ?」
「うっうん…」
「具合どう?藍の看病してあげなきゃだから、超急いで帰ってきたよ」
そう言って僕をギュッと抱きしめた。ソワソワした。鼻のきくテディ。『雷の匂いがする』とか言われたら僕は刺されかねない。
「お熱どうかな?はかろうねえ」
ありがたいことにバレることはなく、テディはそっと離れて体温計やらをがさがさ袋から出している。
よ、良かった。バレてないっぽい…。安堵のため息をそっと吐いた…。
「りんごジュースと、おにぎりと、ポカリと。冷えピタも買ってきたよ。俺がそばにいて看病するから安心しててね」
そっと大きな手で両頬を包まれ、キスされた。遠慮なくテディの肉厚な舌が入りこんできて口のなかを蹂躙していく。じきにテディの息が荒くなり、このまま押し倒されてしまいそうだと直感したところでぐいとその大きな身体を押した。
「藍…?」
ちょっぴりシュンとしているテディに謎の罪悪感を刺激される。
「や。その。風邪うつっちゃうし、ね…?」
「別に平気。それに風邪移ったら今度は藍が看病してくれるんでしょ」
ホントどこまでも寂しがり…
!
閃いた。これだ。
「て、テディ!僕からひとつ提案があるんだけど!…テディを独り占めしたいから一緒にここを出てふたりでちゃんと暮らさない?」
きょとんとしたテディ。
「ね、どう…?ほ、ほら。ここだとさ。僕はいないことになってるじゃない?だからテディが風邪ひいた時にポカリとか、買いに行ってあげられないし。それに2人でどっか外でデートがてらゴハン、とかも無理だし、みたいな…」
これは賭けだった。雷さんを断ってしまった今、僕には他に救世主はいない。自分でここを出ていくしかない。
だけど激重さみしがりボーイのテディは僕を離してくれない。だから発想を逆転させたのだ。
「え…本当?そんな風に思ってるの藍…?」
ぱああっと笑顔になってしまった大型ワンコに胸が痛んだ。
「うっうん!」
「嬉しい!両思いだね」
きつく僕を抱きしめてきたテディ。苦しい、本当に息できないよ。嬉しさのあまり抱きしめて殺そうとしてるのか。
「ねえ、だから新しい家を探して欲しいんだ」
「社長に聞いてみる!」
「うん、お願いね」
テディには新しい家を探してもらい、僕は引越しのどさくさに紛れていなくなる。
その時置き手紙でもすれば良い。『本当に寮母辞めます、今までありがとう』と。
「藍、だーいすき!ずっと、ずっと一緒にいようね」
「うっうん…!僕もだいすき」
だけどにこにこと、本当ににこにこ嬉しそうなテディを見てグッサリと胸が傷ついていた。こんな僕をこんなに求めてくれるこの子を僕は裏切って置き去りにしようとしているのだ。まだ全然計画段階ではあるものの…。
いや、でも僕がこうやって中途半端に相手に同情するからこんなことになってしまったんだ。寮母を辞めるなら辞めるで、僕はちゃんといなくならなきゃいけない。
だけど僕の願いはひとつ。最後に亜蓮さんに会うこと…。ぎゅ、と手のひらを握った。
「ね、ねえ。ところで全然話変わるんだけどさあ。そういえばテディってなんで亜蓮さんと仲悪かったんだっけ…?」
「亜蓮…?」
眉根を寄せたテディ。僕が亜蓮さんを話題に出すとすぐにこうだ。
「いや、その。好きな人のことはなんでも知りたくて…」
「あ、そういうこと?」
ふ、と微笑んだテディ。ホントに思ってることがそのまま顔に出る子なんだなあ…。
だけどふいと顔を逸らした。
「別に俺は何もしてないけど。亜蓮が俺を気に入らないんだよ。亜蓮の弟?とよく似てるとか言って。
小さい時に親が離婚して、弟とお母さんが一緒に暮らして、亜蓮はお父さんの方と暮らしてたみたいなんだよ。俺はそこまでしか知らないけど。
まあ弟にお母さんを取られた。んで俺がその弟によく似てる、だから気に入らない。亜蓮はそういうヤなヤツなんだよ!」
亜蓮さんの背景がほんの少し見えたところで、僕はテディに押し倒された。
「亜蓮の話なんかするなよ。やっぱり気になる?俺がいるのに」
風邪移っちゃうから、という言い訳はもう使えなかった。テディは僕を今度こそ抱いた。
「あ、やだ。テディ…!」
「ヤ、じゃない。大好きだよ、藍」
びくびくと太腿が震える。力でねじ伏せられる様に抱かれることに慣れてきてしまった自分が、少し悲しかった。
続く

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