その後、本当に機嫌良く出ていってしまったテディ。
玄関のドアがバタンと遠くで閉じる音が聞こえた。防音性の高いドアは、こんな部屋の奥にいる僕の大声なんて通してくれないだろう。
「だ、だれかああ…うう…」
それでも溢してしまった弱音。
ほんのり開いている廊下へのドア。密室のバスルームにちょっとだけ光が漏れ入ってくる。それだけが今の僕にとってはちょっとした救いだった。
テディがただ閉め忘れただけかなと思っていたけど、これもこれで一つの巧妙な計算だったと後で気づくことになる…。
***
そういえば何時に帰ってくるのかは聞いていないテディ。時計のないバスルームでは時間は分からない。漏れ入ってくる光の感じで判断するしかなく、今はもう午後の良い時間だった。
「お腹すいたよお…」
テディは水入りペットボトルこそ置いていってくれたけど、それだけ。お腹はぐうぐうだった。
僕のこと好きとか言っておいてどうしてあの子はこんなことしてくるんだろう?いくらマミーがいなくて寂しかったからって、やり過ぎじゃないのか。心底分からない。
それにふと気づいたのだが、これもう数時間後には日が沈んじゃうんじゃないか…?そうなればここは真っ暗だ。そう思ったらゾッとした。
テディは何時に帰ってくるのか、そもそも今日帰ってくる気はあるのか、絶対仕事で帰れないのか。帰ってきて僕の相手する気はあるのか。
ソワソワ、ゾワゾワと気付けば僕はテディのことばかり考えて、あの子の気持ちや思考回路を何とか理解しようとした。
気付けばテディの思惑通り、僕はあの子のことで頭がいっぱいだった。
「…テディ、テディ!早く帰って来てよお!!」
どこにも届かない僕の叫び声が風呂場にワンと響いた。
そしてとうとう真っ暗になった部屋のなか、不安で不安でどうしようもなかった僕は無理やり目を閉じて眠ることにした。睡魔はなかなかこなくて、やっと来てくれた夢の中で多分僕は悪い夢を見ていたっぽい。
「…藍、藍!」
なんでそう思うのかと言うと、軽く頬を叩かれて起きた時、僕の頬は涙でべしょべしょだったのと、また粗相してしまったっぽかったから…。
電気のついた風呂場。オレンジの照明下でテディが心配そうに僕の頬を撫でている。
「…あ、テディ…おかえり…帰ってきたの…」
「藍。藍…そんなに泣くほど寂しかった?」
「う…。え…?」
夢から覚めたばかりで現実味がない。
グスとやった僕の鼻をタオルで拭いてくれた。
「俺のことずっと考えてくれた?」
コクと頷いた。良い意味で、ではもちろんないけれど反論する元気はなかった。
「そっかあ…すっごい嬉しい。これからもずっとそうしてね」
感極まった様な声で言ってきて、テディは僕を起こすとギュッと抱きしめてきた。これからもこれがずっと…?ヒッと肝が冷えた。
「あ、そういえばなんだけどね?
藍は実家帰ってることにしたからね。俺も今日初めて知ったみたいな顔したら皆信じたよ。
それでさ。亜蓮には『亜蓮さんなんてほんとはきらいでした』って送っておいてあげたよ」
「!!そ、そんなあ…!」
亜蓮さんどう思っただろう!?
「そしたら返信なんて来たと思う?」
テディはさも嬉しそうにクスクス笑って言った。
「なに、なんて!?」
「『あっそ了解』だって。ふたりは終わりだね」
「や、やだあああああ!!!」
続く

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