それからテディはせっせと僕の世話を焼いた。
汚れた布団のシーツも着替えも全部…。
「それじゃあ、藍。そろそろ俺仕事行ってくるね。俺のことずっと考えて待っててね。ずぅっとだよ?」
「ま、待って行かないでよお…」
そう言ってテディは機嫌良く僕の頭を撫でた。
ちょっと前までは安心感のあった厚みのある手が、今はただこわい。
「ロープの長さは調整したから、ギリトイレだけ行けるようにしてあるからねー」
そう、がんじがらめ拘束ではなくなったんだけど、それでも僕はいま本当に最小限しか動けない。
「さて…藍は急にしばらく実家に帰ることになってんだって、って皆には言っておくね。
それでなあなあにして、このまま寮母辞めるんだってってことにする。社長には俺から言っといてあげるから安心して」
「やっ辞めてよお!!」
食い下がった。僕は…僕はいないことにされてしまう!
「なんで?藍には俺がいれば良い」
「そっそんなこと…っ勝手に決めないで、よお…!」
「はあ!?」
テディの全身から溢れるような怒りと執着のオーラに圧倒されて語尾がしぼんだ僕。いやっ負けるな…!
頑張ってほんの少し見つめ合ったあと、テディはふいに目を逸らした。
「…ごめん、藍…」
すっごく傷ついたその横顔に罪悪感が抉られた。
「藍、俺のこときらいになちゃったよね」
「え!?いや、そんな訳ないじゃないか!」
「俺なんかより皆に会いたいよね…」
「ええっそんな、テディだって大事だよ」
「!…ほんと?」
パッと笑顔になったテディ。お母さんが迎えに来た小さい子供みたいな、そんな嬉しそうな顔に、また別の意味でズキッと胸が抉られた。
「藍、だーいすき」
へへと笑顔だ。
ううっ別に調子良いことを言いたいわけじゃない。だけどテディがどうでも良いわけでもないんだ。こんなことされても僕自身は別にテディが嫌いではない。
だけどその…うまいこと僕のそんな気持ちを汲んでというか、転がしてというか…テディは言葉巧みだった。
「じゃあ俺、藍ともっと仲良くなりたいって思って良いのかなっ?」
「うっうん、それはまあ、別に良いけど…」
「じゃあもっと一緒にいてもいい?」
「うっ。えと、じゃあこの拘束は」
「だって!!!ひとりぼっちの家に帰ってくるの、俺は寂しくてさみしくてもうイヤなんだ」
突然テディは僕を抱きしめてきた。
「藍が待っててくれるって思うと、俺は仕事も頑張れる。プレッシャーのかかる撮影だって何だって。俺は他の誰でもない、藍にいて欲しいんだ」
「でも、縛らなくたって」
「やだ!!!藍は縛って隠しておかないと、また亜蓮のとこ行きそう!!!
誰かが居なくなるのいやだ。…いやだ…」
「テディ…」
スン、と聞こえた。テディは本当にストレートだ。
ああ、どうしたら良いんだろう。
ぶん殴ってここを出るのが正解な訳じゃない気がする。まあ僕とテディの体格差ではそもそもそんなことは不可能だけど。
コイツは僕を監禁した犯罪者だ!とか騒ぐのも違うと思う。
置いて行っていい子じゃない気がするんだ、このでっかい坊やは…。
「えーと、じゃあさ、テディのことちゃんと待ってるよ」
「やった!!」
尻尾でも見えそうな感じでにこにこしてる。
この顔だけは本当にかわいい年下わんこなんだけどなあ。
「拘束だけどうにかして」
「それはダメ。さてそろそろ本当に時間だ」
それだけ冷たく言うと、テディは立ち上がった。
「俺は藍には、今か今かと俺の帰りを待ってて欲しいんだよ。そのためのロープだ。
あ、あとさ。俺が藍の携帯預かるね。皆からじゃんじゃん来てるうざいメッセージに、俺がそれっぽい返信しといてあげる。
…楽しみにしててね」
一瞬ギラと宙を見据えたテディは、もうかわいい歳下くんなんかじゃなかった。
僕と他のメンバーに亀裂を入れようとしている、嫉妬深い1人の男だった。
続く

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